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グッラブ! 3  作者: 中川 健司
第10、11話 文化祭
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第11話 文化祭 後編 P.13

麗奈の前にいられなくなり、健斗は思わず走り去ってしまった。走り去って、教室に戻って激しい呼吸を整えようとした。別に走ったからではない、麗奈の姿を見たときからこの胸の高鳴りはまったく収まらなかった。なんとか普通の表情を保ったが、あれで限界だ。


教室内は意気ワイワイとしていた。どうやら麗奈が言ってた通り、もう演技の練習は終わったらしい。時計を見ると、あれから二時間弱経っている。外はすでに真っ暗だ。


そんなことはどうでもよく、健斗は高鳴る心臓を抑えられないまま自分の手を見つめた。うわ……汗でびっしょりだ。


「あれ、どこ行ってたんだよ?」


そんな健斗に真っ先に話しかけてきたのはヒロだった。健斗はヒロの顔を見るなり、「いや……ちょっとな。」とつぶやくように言った。そんな健斗の様子が少し変だと気づきつつも、ヒロの目線は健斗の顔よりも健斗が手にしているものだった。


「お!何、これ?みんなの分を買ってきてくれたんか。」


「え、あ……まぁ……」


「サンキュー!おーい、健斗がみんなの分の飲み物を買ってきてくれたぞーい!」


ヒロがそう大声で言うと、教室内にいた全員が健斗の周りに集まり始めた。


「やりぃ!さっすが、実行委員!気がきくね~」


「ありがとう!」


そんな感じで健斗にお礼を言いながら、みんながそれぞれ好きな飲み物を取っていく。健斗は疲れたように机の上に腰かけて、大きくため息を吐いた。


「健斗、お疲れ。ジュースありがとうね。」


そんな健斗に話しかけてきたのは、佐藤だった。佐藤もあのビニール袋から飲み物を取って行ったらしい。まぁ、健斗は行く前にここにいる人数を把握していたから当然佐藤の分もちゃんと買ってあったのだ。


「あぁ……うん。佐藤もお疲れ。」


「うん?なんだか、疲れてる?」


「え……あ、いや。全然平気!そう見える?」


「う~ん……まぁ、今日は長い時間やってたもんね。この調子なら、当日までに間に合いそうだね。」


「そうだといいな。」


そんな会話を交わしていたところで、健斗も自分の分のジュースを少し飲んだ。すると、佐藤がキョロキョロと周りを見渡した。


「どうしたの?」


「ううん。麗奈ちゃんが、帰ってこないなぁって。」


その名前を聞いて、健斗は思わず喉の部分につっかえてむせてしまった。その反応を見て、佐藤はあわてて健斗の背中をさすってくれた。


「だ、大丈夫?」


「う、うん。ご、ごめん。」


「さっきね、麗奈ちゃんがうちらの分の飲み物を買ってくるって言って教室を出て行ったの。だから、麗奈ちゃんまで買ってきてくれたらなんか悪いなって……」


「そ、そうなんだ。」


なるほど。だからあそこで偶然ばったり出くわしたのか。なんというか……なんで自分とあいつは、こんなにやることがいっしょなのだろうか。そんなことを考えながら、健斗はひとりでに苦笑いを浮かべた。


今日、麗奈と本当に久しぶりに会話をした。あの日以来、ずっと目を合わすこともできなかった。家の中でも、ぎくしゃくした関係がずっと続いていて、どうすればいいのか迷っていた。でも、もう自分に関わるななんて言われた以上、健斗からはどうしようもなかった。だけど、今日ちょっと話せたとき……あれは会話とはいえるほどのものじゃないけど、健斗が一方的に話しただけだけど……でも、うれしかった。


やっぱり、麗奈がいい。麗奈がいないと、俺は駄目なんだ。その気持ちを伝えればいい。ということを言うのは簡単だが、実際には難しい。羞恥心が邪魔をするし、何よりいざ前にすると緊張して何を話せばいいのかわからなくなってしまうだろう。


ヒロも早川も佐藤も心配してくれている。三人のためにも、何かしないと……












「って言ってもなあ……」


最終下校時刻も間近になってきて、健斗以外の生徒はほとんど帰ってしまった。ヒロも佐藤も先に帰った。健斗のことを待ってると言ってくれたが、健斗はまだやることがあるし待たせるのも悪いから先に帰っててといったのだ。そんな健斗が何をしているのかというと……


「しっかし、すごいゴミの量だな。」


そう、健斗は今日の片づけをやっていたのだ。今日はみんな本当によく頑張ってくれたが、ゴミやら何やらが散乱している。明日も普通に授業があるから、このままにして帰るわけにはいかない。ちゃんと最後に片づけをするのも実行委員の仕事なのである。とはいっても、このすごい散らかり様。みんなが一生懸命頑張ってくれたという証だが、さすがに一人でやると時間がかかる。最終下刻時間まであと三十分あるから、それまでには終わるとは思うのだけど。


「……麗奈は……やっぱり帰ったのかな……」


健斗は一人でそうつぶやいて見せた。あれから麗奈の姿は見ていない。結局教室に戻ってこなかった。どこ行ったのかは知らないし、やっぱりもう帰ってしまったのだと思う。今日くらい、お互い部活がないわけだし……もしいっしょに帰る機会があれば無理矢理でも二人になるためにいっしょに帰ろうと思っていた。ちゃんと話がしたかったから……でも、こうしてここにもいないし……やっぱり帰ってしまったのだろう。


健斗はそんなことを考えながら、作業の手を止めて天井を仰いだ。


「何言ってんだろう……俺……」


いつからこんなにあいつを求めるようになってしまったのか。つい最近までは、こんなことを考えるほどではなかった。別に喧嘩をしたからって……


違うな……最近とかじゃない。麗奈に対する自分の正直な思いに気付いたからとかじゃない。きっと最初から、麗奈を求めていた。それで、麗奈は傍にいた。いるのが当たり前だった。いないことなんてこれまで考えたことがなかった。それが、いなくなった。だから余計に寂しさがこぼれて、こんなことを口にしてしまうんだ。


麗奈がどれだけ健斗にとって必要な存在だったのか、こうして離れてみるとわかった気がする。今まで、どうして麗奈にあんなふうに言ってたのだろう。強がり?自分でもわからない。


そんなことを考えていると、教室のドアの方でがたんと音がした。誰かが来た音で健斗はすぐさまそっちを見た。もしかして、麗奈か?と淡い期待をいだいた。しかし、そこにいたのは……


「健斗くん、まだ残ってたの?」


教室のドアのところに立っていたのは、早川だった。早川がちょっと驚いたような顔で健斗を見ていた。健斗も早川がまだ残っていたことに驚きを感じていた。


「あ、うん。」


「なぁ~んだ。廊下歩いてたら、まだ教室の電気がついてたから誰がいるんだろうと思っちゃった。何してるの?」


「ちょっと片づけをね。今日はすごい散らかっちゃったから。」


「へぇ~。手伝うよ。」


そういって早川は掃除用具を掃除ロッカーから取り出した。塵取りと箒を手に持って、床のほこりやごみを掃いていく。


「悪いな、なんか。」


「全然。同じ実行委員だもん。手伝って当然でしょ?」


そういわれて健斗は思わず笑顔がほころんだ。早川も健斗に笑顔を見せてくれた。健斗は再び使った段ボールなどを片付け始める。すると、早川の視線に気が付いた。早川はちょっとにやつきながら、じぃ~っと健斗のことを見つめていた。その表情にどきっとした。


「な、何?」


「ん?ううん。なんか、健斗くん……実行委員らしくなったなぁって。」


そんなことを言われて、健斗はぷっと小さく笑った。


「なんだよそれ。」


「だって、こんな風に最後まで残って、みんなが使ったあとの片づけをしてるなんて……」


「まぁ、実行委員だしな……」


「フフッ♪あはは♪」


早川は可笑しそうに笑っていた。健斗もそれにつられて笑ってしまう。


そんな感じで二人でゆっくりと片づけを進めていた。早川が手伝ってくれたということがあって、そのまま進み、さっきまで大変だった作業もなんなく終わった。作業をしながら、健斗はチラチラと早川を見た。


この時間に残っているのは健斗くらいだと思っていたが、早川も残っていたなんて思わなかった。


「早川はどうして残ってたんだ?」


「私?私は、パソコン室で調べ物をちょっとしてたの。」


「調べ物?」


「うん。衣装の調べ物。和服とか、どこかで貸してくれるところがないか調べてみたの。そしたら、バスで四十分くらいのところに専門店があって、そこに電話したら貸してくれるって。」


「本当に?お金とかかかるんじゃない?」


「そう、そこなんだけど。」


早川は良い質問をした、と言うようにうれしそうな表情を見せた。


「そこでね、無料で貸してくれるって話になったの。」


「マジで?え、どうして?」


「なんか、ちょうど廃棄しようとしていた和服が何着か残っていたらしいの。それに、学生の文化祭ってこともあって快く応援しますって。だから、衣装代とかは大丈夫みたい。」


すごいな。


いや、すごいのはその和服専門店ではなくて早川がだ。その交渉力もすごいし、決断力も、そして行動力も優れている。さすがは早川だ。健斗なんか、衣装のことなんて頭になかった。


「さすがだな、早川は。」


健斗がそういって笑うと、早川は少し照れ臭そうな表情をした。


「べ、別に大したことじゃないよ。でも、明日にその和服店に行って衣装を借りることになったから、健斗くんは明日クラスの方をお願いね?」


心得た!と心の中で叫びながら、健斗は二つ返事で「分かった」と答えた。さて、掃除も終わったことだし、最終下校時間まで時間がないわけだから、そろそろ帰ろうと健斗が思ったときだった。


「そういえば、麗奈ちゃんとは仲直りできそう?」


「え!」


痛いところを疲れたみたいに、健斗は思わずすっとん狂な声をあげてしまった。だが、それとは反対に早川は小さく笑っていた。


「あれから、麗奈ちゃんと話できた?」


「あ、えっと……う~ん……そ、そこそこかな。」


そこそこというより、あれは会話というのだろうか?完全に一方的に健斗が喋っていただけだ。


「そこそこ?」


「まぁ、その……今日ちょっとだけ口聞いた程度っていうか……」


健斗は今日、麗奈と偶然出くわしたときのことを早川に話してみた。もちろん、麗奈がヒロインになって嬉しいと言ったことは隠して……


「そっか。でも、ちょっとだけでも会話が出来たんなら、それは大きな進歩だと思うよ?」


「そ、そうかな……」


「うん。大丈夫。きっと仲直りできるよ。それはそうと、健斗くん。」


「うん?」


早川は話を切り替えるような言い方をしてきた。そして、何やら得意気な表情で人差し指を一本伸ばす。


「健斗くんはね、好きな子にはもう少し優しくしてあげるべきだと思うよ?」


「優しく……?」


「そう。麗奈ちゃんを喜ばせるの。麗奈ちゃんが好きなら、ちゃんとそれを伝えなきゃ、ね?」


「そうだな……ヒロにも同じようなこと言われたよ。」


健斗はそういうと、軽く自嘲気味に笑った。


「初恋の人なら尚更だよ。」


「初恋?」


「うん。あ、でも、初恋の人だからこそよく分かんなくなるっていうのもあるのかな……」


早川の言うことに健斗はほんの何気なく言ったつもりだった。何の考えもなく、何の意識もなく、まるで口から零れ落ちてしまったように……


「初恋、じゃないよ……」


「え?」


それを口にしてからはっと気が付いた。でも、気が付いたときには遅くて早川の目が煌めいた。


「うそ!健斗くんって、好きな人前にもいたことあるの?」


「え、え、えっと……」


普段の早川からは考えられないテンションで健斗に詰め寄ってきた。目をきらめかせて、完全に恋バナに盛り上がる女子と化している。


「そ、そりゃ俺だって……好きな人、一人や二人くらい……」


「本当に?私、そんなこと考えたことなかった。ほら、健斗くんってちょっと女の子とは距離とってたところあったでしょ?」


確かに早川の言うとおりだ。健斗は昔から女の子とは一歩近寄り難いというキャラでいた。だから、ヒロや翔にもよく「いまどき珍しい硬派なやつ」と言われていたのだ。実際、自分でも自覚していたから否定はできない。


「え、誰々?誰が好きだったの?」


「い、いいじゃん、誰でも。」


「教えてよ~。誰にも言わないから。」


「そ、それは……だって……」


健斗は、ぱっと頭に浮かんだ。このままでは言わざるを得ない。でも、言ったらどうなるのだろう。確かに、早川には近々そのことを伝えようと思っていたのだが、こんな形で伝えてしまったらなんだか変な感じになってしまうような気がした。


でも、ヒロが言っていた。何よりも一番先に考えてあげるのは、麗奈のことだって。次に進むためにも、ここは早川にちゃんとそのことを伝えるべきなのかもしれない。予想外の形ではあるが、チャンスでもある。健斗は大きく深呼吸した。そして、意を決する。


「……早川はさ、覚えている?」


「え?」


健斗がそういうと、早川はきょとんとした。健斗はぐっと溜まった唾をのみこんで、力強い目で早川を見つめた。


「翔の葬式の日にさ、俺が遺影の前で一人で立っていたときのこと。」


「……うん。覚えてるよ。」


早川はゆっくりとうなずいてくれた。覚えている。そういってくれたことが、健斗はすごくうれしかった。


「あのときに、早川がさ言ってくれたことも覚えてる?」


「えっと……健斗くん、何の話……」


健斗はじっと早川の答えを待つ。そんな健斗の表情を見て、早川もその表情を見て真剣な表情になった。そして少し考えてみる。


「えっと……ごめんね。正直、私何を言ったっけ……」


「あのとき、早川はさ。俺に、“山中くんは悪くない!”って言ってくれたんだ。」


健斗はふっとそういって笑った。


「俺、すごく嬉しかったんだ。そのとき、言われた言葉がすごく嬉しかった。翔が死んだのは俺のせいだ、俺がいけないんだって思い込んでいたし、実際周りも陰でそう言っていた。だから、自分も死んでしまおうと思ってた。でも、俺、あのときの早川の言葉で救われたんだよ。」


あのとき早川がああいってくれてなかったら、健斗は今どうなってたんだろう。高校に入るまで一年半、早川に逢いたいという気持ちで学校に行けた。行く意味を、早川が作ってくれた。


「それからの中学の間も、俺……ぶっちゃけ早川がいたから学校に来てた。でも、それ以降早川と話すことなかった。本当はめちゃくちゃ声かけたくて、あのときのお礼とか言いたいとか思ってた。それで、高校に入ってまた同じクラスになって……しばらくの間、全く関わりなかったけど……麗奈がこの町に来てからさ、話すようになって、俺すごいうれしかった。っていうか、もう自分が信じられないくらいだった。早川と、その……」


俺、何言ってんだろう……だんだん自分で何を言っているのかよくわからなくなってきた。


「ごめん、えっと……こういうとき、うまく話せないな。えっと……」


「……いいよ。」


「え?」


早川を見ると、とても優しい笑顔で健斗を見つめていた。それは、健斗が好きだったあの優しい微笑みだった。


「いいよ。ゆっくりでいいから……全部、話して。」


きっと早川は、健斗がこれから何を言おうとしているのかすべて察している。それでも、ちゃんと聞こうとしているのだ。健斗はゆっくりと笑ってうなずく。


「うん。そうだな。夏休みのとき、二人でいっしょに映画見に行ったとき、俺……早川を、その……抱きしめたこと……」


健斗がそういうと、早川はさすがに恥ずかしそうに下を俯いた。健斗も同じような表情をしているだろう。


「あれは、その……つまり……そういうことだったんだけど……」


「……う、うん……」


「あのとき、早川が言ってくれた言葉がうれしくってついさ……」


「うん……」


「…………」


「…………」


しばらく沈黙が続いた。胸のドキドキが収まらない。早川は、今どんな気持ちでこの話を聞いているのだろう。健斗は大きく深呼吸した。これは、次に進むための……


「早川。」


「うん。」


「俺さ、早川のこと……」


「うん……」


「早川のこと、好きだったよ。」


ついにその言葉が言えたとき、廊下の方から物音がしたのを健斗も早川もまだ気づいていなかった。





はい!

ついに健斗が、胸の内を告白しました。

この場面を描くまでにいろいろ過程がありましたね。

このまま付き合っちゃえばいいのに……て思う方もいると思いますが……

残念ながら、すでに健斗の心は早川よりも麗奈の方に行ってしまっているわけですね。さて……これから、二人の関係はどうなるのか……そして、物音とは?



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