第11話 文化祭 後編 P.10
我が1年A組の今年の出し物がミュージカルに決まっていること。5時間目を使って、文化祭に関わることを議題にして今日も話し合いが進められていた。麗奈のこともあるけれど、健斗はみんなから任された委員会だ。ちゃんと仕事をしないといけない。
「ということで、ミュージカルの台本が出来ました。これから各自に配るので、みんな目を通してください。」
早川がそういうとテキパキと要領よく各列に配っていく。台本を渡された者はすかさずページをめくり、その内容に目を通していく。
「はい。これ、健斗くんの分。」
早川が笑って健斗に台本を手渡してきた。
「あぁ。サンキュー。」
健斗もそれを受け取ってすかさず内容を確認しようとしたが、まずその表紙とタイトルに目を奪われた。和服を着た綺麗な女性と、和服を着たイケメン男が背を向けて互いが気になっているそぶりを見せている絵。絵のクオリティは中々のもの……もちろん、二次元的な意味でだ。健斗はそれを見ると、ゆっくりとその内容を見た。
時代は江戸時代の町、それはそれは美しいと評判だった娘がいた。ある日、娘が買い物にでかけているとある男とぶつかってしまう。その男は、城下町をおさめる若き殿だった。すると若き殿はその娘に一目ぼれし、求婚する。しかし、娘には想いを寄せる幼馴染がいて・・・
な、何だか見たことあるぞ?こういうの……
健斗は心の中でそう思った。というか、ミュージカルなのに時代は江戸?日本が舞台なのだろうか……
これは……どうなんだろうか。
う~~~~ん………
「……あ、あの!」
その中、一人の女の子が立ち上がった。彼女の名前は、日村安子。三編みで眼鏡で、鼻の辺りにそばかすがある。A組の唯一の演劇部で、この台本を書き下ろした張本人だ。
日村は立ち上がって、申し訳なさそうにおろおろとしている。
「あ、あの……ごめんなさい、私……こういうの書いたことなくって……その、ミュージカルって普通は洋風だけど、あえてオリジナルっぽく和風にしたいなって……で、やっぱ恋愛物がいいのかなって思って……あ、あああ明日までに書き直してきます!」
顔を真っ赤にしてそう言った。何だか見てて可哀想である。せっかく頑張って書いてきてくれたのに、これではあんまりだ。確かに、正直言うと健斗は気乗りしない。こういうのは苦手だ。でも、せっかく考えてきてくれた努力を無駄にはしたくない。
なんとかせねば……
健斗がそういきり立ったときだった。
「え?私は好きだよ。このお話し。」
「へ?」
健斗があっけにとられたその先に、そういってきたのは佐藤だった。顔を真っ赤にして立ちすくんでいる日村を見ながらそういった。健斗は突然の言葉にただただ驚いた。
「素敵じゃない?これ。ラブロマンスって感じだし♪時代背景が江戸時代っていうのもいいわよねー。」
「お前が言うと、全部うそに聞こえるぞ……」
ヒロがぼそっと言ったのを、佐藤が聞き逃すはずがなかった。瞬時にヒロの方を見て、獣のような表情でヒロをにらみつけた。ヒロはその視線を感じ取って、顔を台本で隠した。
「うん。私も好き。なんかキュンってくるっていうかー」
「私も!」
「女の子可愛い!」
どうやら女の子からはかなり好評のようだ。隣にいる早川だって、目を輝かせて内容を読み込んでいる。健斗はもう一度内容を読み込んだ。これがそんなにいいのだろうか……女の子の感性というのはよくわからない。一方男子の方は、健斗と同じような顔をしていた。つまり、別に反対というわけではないのだが、なんだかやりにくそうな感じの表情をしていた。
「で……配役はどうすんのー?」
クラスの男子が健斗たちに向かって言ってきた。もちろん、今日はそれを決めるために台本をみんなに配ったのだ。
「えっと、とりあえず主役を決めたいと思うんですけど……」
「主役って、このヒロインの女の子のこと?」
「うん。そっから殿様の役、幼馴染の役。んで、エクセトラとかも。あと、裏方も決めないと。」
「ということで、まずはこのヒロインの女の子から決めたいんですけど……立候補、もしくは推薦はありますか?」
早川が台本を持ちながら、みんなに問いかけた。しかし、さすがに立候補をする人はいない。というか、いたらその人はすごい度胸だと思う。健斗はそんな中、ある女子を見るのだが……
「え、ヒロインの女の子は麗奈ちゃんか早川じゃないの?」
一人のクラスの男子がそういった。健斗はそれを聞いて、麗奈の方を見た。麗奈は自分の名前が出てことに驚いているようで、目を丸くしていた。そして隣にいる早川も同じような表情をしている。二人とも、まさか自分が指名されるとは思っていなかったらしい。健斗も、妥当な役としてはこの二人だろうと思っていた。ほかの女子には申し訳ないけど……
「そうだよ!ヒロインは、大森さんだろ?なんたって発案者なんだから。」
「ふえ?」
「いやー?和服だったら早川の方が似合うだろ。絶対早川だよ!」
「あ、あの……」
「いや、大森だ!」
「早川だろ!」
「お前どうせ裏方に回るから関係ねーだろ!?」
「麗奈ちゃんがヒロインやるなら、俺は絶対幼馴染役やるし!」
「お前じゃ無理無理。釣り合わないし、せっかくのミュージカルが台無しになる。」
「なんだと!?」
「なんだよ!!」
ただヒロイン役を決めるだけだったはずなのに、なんでこんなにヒートアップしているのだろう。完全にヒロイン役において、(男子内で)麗奈派と早川派で別れて口論になり始めた。その中、女子たちは退屈そうな顔をしてたりあきれた顔をしている。麗奈もそうだが、隣の早川もどうすればいいのかおろおろしている。こんなときは、委員会である自分がこの場を納めなければならない。
「ちょっとお前ら、いい加減に――」
「いい加減にしろ!お前らぁぁぁぁ!!」
教室内に突然ものすごい怒声が響いた。その迫力に押され、男子どもはピタリと口論をやめその怒声のした方を見た。健斗も突然の出来事に驚いて、そっちを見た。怒声を発したのは、やはりあの男だ。今までおとなしくしていると思ったら、なんなんだ突然。
「麗奈ちゃんがいいだの、早川がいいだの。子供か、お前ら!見ろ、二人が困っているだろ!」
「なんだよヒロ!お前はどっちなんだよ?」
「つーか、ハゲのくせにでしゃばるなよ。」
「まぁ、待て。そしてハゲは関係ない。いいか、お前ら。俺の話を聞け。健斗、この場はこの俺に納めさせろ。」
「お、おう。」
普段と違う雰囲気をただ寄せたヒロは絶対的な自信を持って、この場を納めて見せると言った。なら、それに託してみるのも悪くない。健斗はそう思って、ヒロにここは任せることにした。すると、ヒロはゆっくりと興奮がまだ収まっていない男子を一瞥した。
「麗奈ちゃん派、早川派それぞれ思うことがあるだろう。まずは、早川派のやつら!麗奈ちゃんを見ろ!見るんだ!いいか、あのすばらしく洗練されたパーフェクトスタイル。そして、キュート過ぎるフェェェェイス。あんなどこをとっても素晴らしいの一言に尽きる子の着物姿を想像してみろ?二秒でだ!どうだ、見えてきたか?あの長くて美しい栗色の髪を束ね、うなじを見せつけるチラリズム。どこにどう問題があるのか言ってみろぉぉぉ!」
「う……そ、それは……」
「そして麗奈ちゃん派のやつら!早川を見ろ!見るんだ!いいか、まずお前らに言いたいのは発案者かどうかなんて関係ない!美しさに優先されるものは美しさだけなのだ!そんなちんけなことで左右されているお前らは、虫以下だ!恥をしれ、この愚か者ぉぉ!!そしてお前らも、同じように早川の着物姿を想像しろ!同じく、二秒でだ。……どうだ、見えてきたか?あのショートヘアーの美しい黒髪が映える着物姿はどうだ?そして、テニス部による運動で日々洗練された脚線美が、昔の女の人の足を見せることに対する羞恥心を考慮したデザインの和服によって隠されていることは少々残念だが……しかし、それだからこそ見えるまたもやチラリズムに近い足元を見ろ。あの美しい足と質素な草履のタッグマッチはもはや神の領域に達している。いうなれば、和服は彼女のために生み出されたといっても過言ではない!違うかぁぁ!?」
「う……た、確かに……」
な、なんなんだこの固有結界は……だが、そのヒロが生み出す固有結界によってクラス中の男子が圧倒されているのは本当だ。というか、ヒロのやつ場を納めるってこういうことを言うためだったのか?何か違うような……
すると、早川派に分かれていた男子も、麗奈派に分かれていた男子の熱気も徐々に冷めていき、苦しそうにがっくり肩を落とし始めた。
「う、うう……分かっているんだ。どちらかを選ぶことなんてできるわけがない……」
「お、おれたちはいったいどうすればいいんだぁぁ~!!」
「わかるぞ、お前らの苦悩。お前らの言うとおり、どちらかを選ぶことなんてできるわけがない。こんな究極の選択を迫るあの鬼のような委員がすべて悪いのだ。」
「お、俺が悪いのかよ?」
「そんなお前たちに、俺がもう一つの選択肢を与えよう。」
「そ、それはなんなんだ?」
クラス中がヒロの方向を見る。ヒロは慈愛に満ちた目でクラスのみんなを見渡す。
「麗奈ちゃん、早川……二人が、ヒロインになればいいだけの話さ。」
「お、おお……おお!!」
「つまり、麗奈ちゃんも早川もどっちもヒロインをやり、幼馴染との三角関係を描く。そうなれば、どちらかを選ぶことなんてしなくていい。そう、簡単なことだったんだ!!」
ヒロの思いがけぬ提案に、クラス中の男子が歓声をあげた。
「そうだ!簡単なことだ!二人がヒロインやればいいんだ!」
「俺たちは間違っていた。俺たちのような人間が、選択をする時点でおこがましい行いだったんだ!」
「ヒロ!お前は天才だ!ハゲでも天才だ!」
「はっはっはっはっは!そうだろう、そうだろう。もっとほめたたえるがよい。はっはっはっはっは♪」
クラスの男子からもてはやされているヒロは陶酔しきった顔で、笑っていた。だが、ずっと我慢し続けていた健斗の堪忍袋の緒がとうとう限界に来た。
「ち・が・う……だろーがぁぁぁ!!」
「ぶはぁ!?」
そろそろ我慢の限界が来た健斗が黒板消しをヒロにむけて思いっきり投げつけた。見事黒板消しはヒロの額を直撃した。高笑いしているヒロは不意を突かれ、その場にどたんと倒れた。
「それじゃぁ、台本の内容が変わるだろ!ヒロインは一人だ!二人なんて、俺が絶対にゆるさーん!!」
「じゃ、じゃあどうやって決めるんだよ。俺たちにはもうどちらかを選ぶことなんて……できないよ。」
みんなにそう迫られて、健斗は言葉が出ずに黙り込んだ。確かに、ここまでくればもうどちらかを選ぶことなんてできないだろう。投票を行うのが無難だろうが、おそらく半々に分かれてらちが明かないし、負けた方がなんだか可哀想だ。健斗がどうすればいいのか考えているところだった。
「あ、あのね、健斗くん。」
健斗のちょっと後ろから早川が口を開いた。早川は困ったように笑っていた。
「みんなの気持ちはすごくうれしいんだけど……私たち委員は仕事がいっぱいあるから、裏方にしか回れないの。」
「え、そうなの?」
「うん。だから、ヒロイン役は麗奈ちゃんがいいと思うの。麗奈ちゃんも、いいよね?」
「え?わ、私?私はその……そういうの自信ないよ……」
「大丈夫。麗奈ちゃんならきっとできる。ね、みんなもそれでいいよね?」
早川がみんなに問いかけると、みんなは全く不満なさそうな顔をしてうなずいた。これは満開一致ってやつだ。
「じゃあ、ヒロイン役は麗奈ちゃんってことで。みんな、拍手~!」
早川の声で、みんなが大きな拍手をした。クラス中、麗奈に向けられた拍手が飛び交っていた。麗奈はかなり困ったような顔をしていたが、とても断れるような空気ではないことを察知し、渋々ヒロイン役を引き受けることにした。健斗はそれを見ながら、心のどこかでほっとしていた。何にほっとしているんだろう?無事にヒロイン役が決まったこと?
違う。俺は、麗奈に……ヒロイン役をやってほしいと思っていたんだ。
そんな風に思いながら、困ったように笑っている麗奈を見つめていた。
しばらくシリアスな感じが続いたので、ここでちょっと穏やかな場面を描きました。それにしても、ヒロの固有結界のセリフを考えるのが大変でした。