第11話 文化祭 後編 P.3
微かに光が見えるのと同時に、何か声が聞こえた。どうやら人の話し声のようだ。それと、なんだかとってもふかふかして気持ちよかった。
「……あ!目が覚めた?」
アルト音の声で、健斗ははっと正気を取り戻した。がばっと上半身を起こした瞬間、頭に痛みを感じた。
「いっつ……」
「大丈夫?健斗くん。」
そう言われた健斗は頭の痛みを感じつつも、声のした方を見た。すると、健斗のすぐ隣で早川が安心してほっとため息をついていた。そして、その早川の隣には寛太が部活着のユニフォーム姿で立っていた。
「早川……寛太……ここは……」
「大丈夫だよ。ここは保健室だから。」
「保健室?あれ?俺、一体どうなったんだっけ?」
何か突然強い衝撃を受けたところまでは覚えている。そう、ちょうど今痛むこめかみの辺りにだ。健斗が混乱している様子を見た寛太が苦笑いを浮かべながら言ってきた。
「い、いや、あのさー、まさかこんなことになるとは思わなくって……」
「こんなこと?」
「寛太くんの打ったボールが偶然に教室に入って、健斗くんに当たっちゃったみたいなの。」
「え……」
早川は健斗の身に起こったことを順序を追って説明してくれた。寛太がバッティングの練習の際につい力が入りすぎてしまい、なんと校舎に向けて特大ホームランを打ってしまった。そのボールが何の偶然か、窓の開いていた健斗たちのいた教室に入って、そして健斗にクリーンヒットしたというわけである。
確かに意識を失う寸前に、白い物体が目に入った。あれは、野球ボールだったというわけだ。
「いやー!あんなホームラン、試合中でも打ったことねーよ!アハハハハ!」
「アハハハハ!じゃねーよ!下手したら俺、死んでたぞ!」
笑う寛太の頭を鷲掴みにして怒鳴りつけた。それを側でみてた早川が健斗を宥めるように言った。
「ま、まぁまぁ。林くんもわざとじゃなかったし、許してあげよう?」
「そーだよー。俺だってまさかこんなことになるとは思わなかったんだよー。」
情けない声を上げる寛太を見ながら健斗は「くっ」と声を上げて、小さくため息を吐いたあと寛太を解放した。
「早川に免じて、許してやる……」
「ひゃほーい!」
すぐ調子に乗る寛太にいらっと来たが、いちいち怒ってたんじゃきりがないし、色々と不健康だ。健斗はゆっくりため息をついて、保健室の時計を見ると、何と時刻は七時五分前だった。
「うわ!俺、一時間以上も気失ってたのか。」
「うん。完全に伸びきってたからね。だから保健室に連れてきたの。」
「そっか。ごめんな、迷惑かけて。もう大丈夫だから、帰ろうぜ。」
そう言って健斗が保健室のベッドから降りて立ち上がろうとしたときだった。突然、保健室のドアがガラガラッ!と音を立てて開いた。外から入ってきたのは、何と麗奈だった。
「あ。」
麗奈と目が合ったと思うと、やつはそのままつかつかと健斗に近づいてきた。久し振りにまともに顔を見た気がした。
「あれ……なんでお前、ここに……」
「……何でって、健斗くんが目の前で倒れたから。」
「目の前?」
健斗がよく分からないという顔をしていると、その間に早川が来てすぐに説明してくれた。
「健斗くんにボールが当たったときね、ほぼ同時に麗奈ちゃんが教室に入ってきたの。取り敢えず現状を把握して、私が保健室の先生を呼びに行ってる間、麗奈ちゃんに付き添ってもらってたの。」
「え、じゃあ……」
確かに、意識が朦朧としてる中健斗を必死で呼び掛ける声が聞こえてた。早川だと思っていたのだが、あれは麗奈だったのか。
「あ、そうなんだ。」
「まったく……本当に人騒がせなんだから。」
麗奈のその言い方にかちんと来た。
「俺だって好きでこうなったわけじゃねーよ。」
「…………」
何だか妙にツンケンしている。
「このツンデレが……」
「はぁ!?」
ぼそっと言ったつもりだったが聞こえていたらしい。ということで喧嘩になる前に、そばにいた早川と寛太が二人の間に割って入ってきた。
「ま、まぁまぁ!二人とも落ち着いて。」
「もう最終下校時間になるから、帰ろ?私、先生に行ってくるから。」
早川はそう言うと、走って保健室から出ていった。それを見たあと、健斗はゆっくりベッドに腰掛けてもう一度麗奈を見た。麗奈は健斗のことなんか見ないで、そっぽを向いていた。
その様子がなんとなく気に食わなかった。でも、突っかかろうとも思わなかった。