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グッラブ! 3  作者: 中川 健司
第10、11話 文化祭
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第10話 文化祭 前編 P.7


「よーし!今日は練習これで終わり!各自、クールダウン、ストレッチ等を済ませて一回集まってから解散!」


「「「おっし!」」」


掛け声が上がると、今泉さんの指示通り、クールダウンを始める。健斗もゆっくりと息を整えながら、クールダウンを始めていた。今日の練習はいつも通りのはずなのだが、やはりみんなどこかスタンドにいる記者たちが気になっていたらしい。もう記者の団体は姿を消しているから、ようやく緊張から解放され、みんなクールダウンをしながらくつろいでいる。


健斗も肩で息を整えながら、クールダウンをして、ストレッチを始めた。するとそんな健斗のもとに山下が近づいてきた。


「いやー、今日もハードだったなー!」


健斗の肩をバシバシとたたきながら、山下は陽気な口調で健斗に言ってくる。山下が健斗の隣に座ってストレッチを始めると、健斗は少しため息を吐きながら言った。


「とか言いながら結構元気だな。」


「いや、マジで疲れてるって。さっきまで死にそうだったんだから、俺。」


とか言いながら、山下は相当元気だ。


山下のポジションは右サイドハーフだ。そのため、山下は結構足が速いし、この前の試合でも思ったのだが、こいつは相当体力がある。それは今までの練習から見ても山下が一番よく走っている。健斗よりも、ほかの二年生よりもだ。足の速さだけ言えば、健斗の方が速いのだが、長距離で見れば山下の方が上である。


「山下って、中学のときもサッカー部だった?」


「うんにゃ。」


さらりと健斗が聞いたのを、山下がさらりと答える。健斗はその返答が意外で目を丸くした。


「サッカー部じゃなかったの?」


「おう。俺、中学ん時は陸上部だった。」


「陸上部?種目は?」


「長距離。知らなかった?」


「いや、知らなかったけど……どうりで。」


「ん?何のこと?」


体力がある方だとは思っていたが、そういう理由なら納得できた。中学のときは陸上部で、今はサッカー部。まったく違うスポーツだが、陸上部だったというのがプラスになっているということか。当然、技術的な面ではまだまだ未完成な部分がある。だが、高校から初めて今の状態というのはかなりいい出来かもしれない。山下はひょっとすると、口だけのやつじゃなく、運動神経とかいいのかもしれない。それに健斗からしたら、山下のことがちょっぴり羨ましかった。


「そっかー。すげーなー、お前。」


「何がよ?」


「いや、中学は陸上で今はサッカーだろ?しかもお前、それで体力あんじゃん?俺なんか、体力全然ないからさ。どうしたら体力つけられるのかな?」


そう、今の健斗の唯一の弱点。それは体力だった。この間の試合でも、その弱点は浮き彫りになってしまった。数年間の間サッカーから身を離していたから、体力が極端に落ちていたのだ。しかも、もともと健斗は体力が少ない方だった。それはどんなに練習しても、ほかの人間よりもすぐに体力切れになってしまう。だから、よく走れる山下が羨ましかった。


「いやー?走り込みとか毎日やるとか……」


「そんなもん、とっくにやってるよ。入部してからさ。そうじゃなくって、こう……もっと爆発的に体力がつく方法とか――」


「そんなもんねえよ。」


山下は飽きれるような言い方で健斗にそうきっぱりといった。


「体力ってのは長い時間かけないとつかねえもんなの。自分の限界を引き延ばすんだからな。RPGとはわけが違うんだよ。」


「やっぱそうなのかな……」


「それにいいじゃん。体力なんかなくたって、お前化け物並みの上手さなんだから。」


「中学の時も、俺が一番最初に体力切れになっちゃうんだよ。特に、“剛”のドリブルを使うと本当に体が動かなくなっちゃうんだ。」


「“剛”のドリブルって……あぁ、あの試合終盤に見せたものすごいドリブルのことか。」


山下は立ち上がって腰を伸ばして大きく息を吐いた。


「まぁ、気長に地道にやっていけばいいじゃん。まだ二年半もあるんだからさ。」


「うん……」









クールダウンとストレッチを終えて、今泉さんの言う通り一度集まったあと解散をした。このあとは自主練するのもよしなのだが、あいにく今日は長めの練習だったためにもうほとんど時間が残されていない。


今日は大人しく帰ることを選んだ。


「死にたい、死にたい、死にたい、死にたい……」


まるで呪いの言葉を吐き捨てるように、ヒロはロッカーに頭を押し付けながら泣きじゃくっていた。どうやら、先程のことが応えたらしい。


「なぁ、いい加減元気だせよ。そろそろ帰るぞー。」


ヒロがこんな状態だから、二年生は全員帰ってしまい、残されたのは健斗たち一年生だけだった。健斗たちはヒロが元気を取り戻すのをずっと待っているのだった。


「もう最終下校時間になるよ。帰ろうよ、ヒロ。」


「うぅ……」


のんちゃんに支えられながら、ヒロはゆっくりと歩き出した。それを見計らって、健斗たちも部室をあとにした。


自転車置き場から自転車を取り出して校門の方へと向かう。まだ部活などで校舎に残っていた生徒たちが次々へと校門をくぐり帰路へとついている。健斗は自転車を押しながら、校門の方を目を凝らしてみた。七時に麗奈と待ち合わせしているのだが……まだ麗奈はいなかった。時計を見ると、時間は七時を過ぎている。まだ来ていないだけだろうか?それとも先に帰ったのか?


そんなことを考えていると、ポケットの中のケータイが鳴った。健斗はすぐにポケットから取り出して、ケータイを見ると……それは麗奈からのメールだった。


件名:ごめん!

本文:今日、円ちゃんとナッチャンにご飯誘われちゃった!だから先に帰ってて!あと、今日夕ご飯はいりません。


ということは、商店街の向こう側にある唯一のファミレスにいるということだろうか。まぁ、それはそれでいいのだが……


「あいつ、どうやって帰るんだろう。」


件名:Re:ごめん!

本文:それはいいけど……どうやって帰ってくんの?


健斗がメールをして二、三分もしないうちにメールが返ってくる。あいつは結構メールの返信が速い。


件名:Re.Re:ごめん!

本文:それは大丈夫!円ちゃんが途中まで乗せてくれるから。


北村の正確な家の所在地は知らないが、小学校も中学校もいっしょだったからそんなに健斗の家から離れているわけではないだろう。それなら安心である。


件名:Re.Re.Re:ごめん!

本文:オッケー!あんまり遅くなるなよ。


件名:Re.Re.Re.Re:ごめん!

本文:了解!


麗奈とのメールのやり取りを終えて、健斗はケータイを閉じると一息つく。


「おーい!山中ー!何してんだよー!」


すでにほかの四人は校門の向こう側に行ってしまっていた。校門の向こう側にいる山下が手を振りながら健斗に声をかけてくる。


「今行くー!」


健斗はケータイをポケットに再び入れて、自転車にまたがるとちょっと急ぎ目で校門の方へと向かった。














山下と剛は方向が違うから、すぐに別れた。のんちゃんは途中までいっしょなのだが、分かれ道で異なるためその途中で別れた。帰り道に残ったのは健斗とヒロだった。薄暗いを道を自転車のライトを頼りに、健斗とヒロはゆっくりと自転車をこいで帰っていた。


「しかし、まさか新聞記者が取材に来てるとは思わなかったな。」


「あれって取材って言えるのか?ただ練習を見に来たってだけじゃね?」


健斗がそういうと、ヒロは少し考えてから言った。


「まぁ……そうだよな。でも、しばらくあんな感じが続くのかな。」


「さぁ。つーか、洗目の二軍を倒しただけで取材なんか来るか?」


「一応県内のトップクラスだし。今年は全国レベルだって話だぜ?その洗目がうちを目の敵にしてるくらいだから、やっぱそれなりに業績が残ったんじゃね?あの練習試合。」


「うーん……なんだかなー……」


健斗にはどうも腑に落ちない部分もあったが、とりあえずそれで納得することにした。確かに、立川、洗目は公立にして県内のトップクラスでもあり、どちらも全国レベルに妥当するといえる。やはり二軍といえども、無名校が負かしたということは、ダークホース現る!みたいな感じで話題性があると判断したのかもしれない。


しかし、こちらにはこちらの都合がある。今日はとりあえずヒロの剃髪のおかげで場が少しは和やかになったが、しばらくあの状態が続くとなるとこちら側にとって非常にやりにくい。できれば早めに熱が冷めてほしいものである。


健斗の家が見えてきたところで、自転車から降りる。ヒロはその隣の家なので、健斗の方を見て「んじゃ、明日な。」というとそのまま自分の家に帰って行った。健斗もそれを見届けると、庭の方へと自転車を置きに行こうとした。するとだった。


「ちょっと、いいかな。」


「……え?」


突然どこからともなく現れた一人の男性。健斗は突然のことに驚きを隠せなかった。闇の中から現れたその男性はにぃっと薄気味悪い笑みを浮かべると、ゆっくりと健斗の方へと歩み寄ってきた。












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