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グッラブ! 3  作者: 中川 健司
第9話 新たなる決意
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第9話 新たなる決意 P.70


第9話のラストですっ!


ここまで読んでくださったみなさん、本当にありがとうございましたぁっ!


それでは、第9話の最終話をどうぞ!




次の日になると、学校は昨日の試合の話題で持ち切りだった。健斗のものすごいプレーやヒロのスーパーセーブを見て、興奮が未だに冷めてない人たちが一斉に健斗とヒロの元に押しよってきた。


松本事件のときも中々だったが、今回の数はその比ではない。どうしてこうなってしまったのだろうか……


「お前のせいだよっ!」


「イテッ!」


ようやく落ち着いてきた頃だった。健斗は後ろの席に座っている寛太の坊主頭を叩いた。寛太は叩かれた頭を撫でながら、ニヤリと笑いを見せてきた。


「何だよー。その方が盛り上がったから良かっただろ?」


「良くねーよ。こんなに事を大きくしやがって……」


「でも、それを喜んでるやつもいるぜ?」


寛太は廊下の方を指差しながらそう言った。健斗は指差された方向を見ると、そこには……


「真中くんって、本当はすごい人だったんだね~?」


「何本も止めてたでしょ?かっこよかったなぁ~♪」


「いや~!まっ、俺ぐらいのレベルになればあんくらい誰でも出来るよ~!」


「え~っ!すごぉ~いっ!」


説明しなくても誰だか分かるだろうが、いつもの調子でヒロが他の女子たちにチヤホヤされていた。情けないことに、ヒロは嬉しそうに鼻の下を伸ばしていた。健斗はその様子を見て呆れるようにため息をついた。


あいつはこういう状況が大好きなのだ。小山さんから影響を受けた女好きが見事に表全面に浮き彫りにしている。


まったく……情けないったらありゃしない。


健斗がそう思っていると、ヒロはその褒め称えていた女子と別れると気分良さげに教室の方に入ってきた。そしてニヤニヤして、鼻歌を交えながら健斗たちの元へ近づいてきた。


「いや~?参ったなぁ~?もう朝からこんな感じ♪俺モテすぎちゃって困っちゃうっ!」


「そりゃようござんした……」


「いや実際、今年は行けんぜっ!バレンタインッ!一体何個貰えんのかなぁ~……ヒロく~ん、真中く~ん、ヒロく~んってさぁっ。プッ……フフフフ……フハハハハハハッ――」


「調子に乗るなっ!!」


高笑いしているヒロの脳天に、背後から空手チョップが下った。ヒロは「ぎゃっ!」と悲鳴を上げて痛そうに頭を抱え込んだ。背後から正義の鉄槌を食らわしたのは、何と佐藤だった。


呆れた様子でヒロのことを見下す。ヒロはすぐに顔を上げて、痛そうに頭を抑えながら佐藤のことを睨みつけた。


「――ッテェなっ!何すんだよっ!」


「あ~んたがそうやって調子こいてるのがいけないんでしょっ?」


「いいだろっ!別にっ!女子にチヤホヤされて何が悪いっ?」


何とも清々しいほどの開き直りだ。確かに、男子の本音を言えば実際はそうだろう。


「もっと健斗みたいに、毅然とした態度でいなさいって言ってんの。このエロメガネオタクッ!」


「オタクは余計だっつーのっ!大体てめぇには関係ねぇーだろ、怪力メスゴリラ魔神っ!」


エロも否定しろよな……健斗が心の中でそう呟いた。しかし、その前に佐藤の中で何かが切れたらしい。確かに呼び名が何だか増えているようだった。佐藤はニヤリと凄みを見せた顔でヒロを見る。佐藤の視線に捕まったヒロはもう逃げられない。


「……ほほぉ~……随分とまぁ言ってくれるじゃない?」


「あ……ウ、ウソウソ……冗談だってば……」


ヒロが愛想を良くしようとして笑顔を見せるが、もう佐藤を止めることは出来なかった。拳を握り、バキバキという嫌な音が響く。背後に赤いオーラが見えるのは気のせいだろうか……


「長い間何もしてなかったから……あたしの恐ろしさを忘れてるみたいね……?」


「いや、違っ……け、健斗……助けて……」


ヒロが泣きそうな目で健斗を見てくるが、健斗はわざと知らんぷりをしてやった。


「俺が昨日助けを求めたら、お前逃げただろ?」


「そ、そんな……ちょ……マジ勘弁して……ま、まだあちこち体がいてぇんだって……」


「へぇ~……体中が痛いんだぁ~?だったらあたしが治してあ・げ・る……わよっ!オラァッ!」


「ぐわぁぁっっ!!」


またいつものが始まった。佐藤の見事なほどに決まったプロレス技に、ヒロも見事なほどはまっている。この光景が少し懐かしいような風に思えた。


昨日仲直りはしたらしい。いや、その前に佐藤がヒロに向けて応援の言葉をわざわざかけてきた。案外この二人……麗奈や早川の言うとおり、お似合いなのかもしれないな……健斗はそんなことを思って、目の前の光景を見ながらクスッと笑った。




少ししてからヒロがようやく佐藤のプロレス技から抜けた。ヒロは痛そうに体中を触りながら、近くの席に座り込んだ。げっそりとやつれている。久しぶりにやられたのだから、相当強くやられたのだろう。


「し、死ぬ……俺……死んじゃう……」


「これに懲りて、もう調子に乗らないことだな。」


健斗が笑いながら言うとヒロは大きくため息を吐いた。


「……あ、お前聞いた?」


「何を?」


「もちろん、サッカー部の廃部がなくなったって話。」


それを聞いて健斗は可笑しそうに笑った。当然そのはずだった。そのために健斗はあんなに頑張って、何とか洗目に勝つことが出来たのだから。


「そりゃそうだろ。だって勝ったんだから。」


「いや、それがちょっと違うんだよな。」


「……どういう意味?」


健斗が真面目な表情を浮かばせてヒロに聞いた。ヒロも健斗の表情を見ると、つられるように真剣な表情へと変わる。寛太はまったく緊張感がないらしく、カタンカタンと椅子を揺らして健斗たちの側で話を聞いていた。


「確かに廃部を免れるのには、昨日の試合に勝つことが条件だったんだけど……でも昨日は免れても、また次の試合に負ければ、その時点で即廃部決定っていう方針だったらしいんだ。」


「何だよ、それっ!」


そんなこと初耳だった。健斗はてっきり、昨日の試合に勝てばそれでもう完全に廃部がなくなるとばかり思っていたのだが、どうやら違ったらしい。


「じゃあ廃部を免れるには、ずっと勝ち続けなきゃなんねぇってこと?」


「さすがにずっとではないとは思うけどさ。まぁ、大会である程度の成績を残せるまで……だろうな。」


「何だよ……それ。」


健斗は腹が立って仕方がなかった。確かに、一度問題を起こしたとは言え、それだけでそんなにサッカー部を潰したいのだろうか……確かにコストなどのことも関わるだろうが、何とかやりくりすれば大丈夫なのではないだろうか。


学校側の卑劣な陰謀に健斗は腹立たしい気持ちでいっぱいだった。


そんな卑劣な行為でサッカー部をつぶすわけにはいかない。今や健斗とヒロが部に入っているのだから、だったら真っ向勝負で立ち向かってやる。


健斗は大きくため息を吐いた。


「いいよ。要は負けなきゃいいんだろ?だったらどこだって相手してやるよっ!」


「いや、だから……うん。話は最後まで聞けって。」


「え?」


健斗がいきり立っていると、ヒロが困ったような顔をして健斗を見ていた。


「だから、それがなくなったの。」


「……廃部にするっていう方針自体が?」


「そう。」


「え……えっ?な、何で?」


健斗がヒロに大きく詰め寄った。ヒロはうざったそうにしながら健斗を牽制するように距離を取ろうとした。


「ちょっ……近いって。」


「なぁっ!何でなくなったんだよっ?」


「昨日の観客の影響だよっ!」


「はっ?」


ヒロがそう言ったので、健斗は思わず聞き返してしまった。唖然として動きを止めた健斗を一気に引き離して、ヒロは小さくため息をついてから続けて言った。


「昨日、ものすごい観客がいただろ?」


「あ……うん。こいつのせいでな。」


と言って寛太を指差した。するとヒロはゆっくりと頷いた。


「そう。あの観客の影響で学校側に色々と電話がかかってきたんだよ。地域の住民からな。」


「何て?」


「“昨日の試合は本当にすごかった。”みたいな体じゃないの?詳しくは知らないけど……とにかく、サッカー部を廃部にする件はなしの方向でっていう風な電話がたくさん来たらしいんだ。」


「そ、そうなんだ。」


「あぁ。あと、昨日の試合を見た生徒会長も校長に掛け合ってくれたんだって。昨日の試合のように、こんなに頑張ってる彼らからサッカー部を奪うようなことをするなってな。」


さらにヒロはニヤリと笑って続けて言った。


「それだけじゃない。あの試合のあと、洗目高校の監督がうちに電話をかけてきたんだって。“次はうちの一軍がお相手させていただきます。”みたいな感じでさ。」


健斗はそれを聞くと、ふと昨日のあの一軍のやつのことを思い出した。名前は知らないけど、最後に健斗に同じようなことを言っていた。もしかすると……あいつがそういう風に言って計らってくれたのかもしれない。


「さすがにそこまで言われたら、学校側も対処を考え直さなきゃなくなるだろ?で、今日の午前に緊急理事会が開かれたらしくて、そこで正式に神乃高サッカー部の廃部の件は完全に取りやめってことになったらしい。」


「じゃあつまりそれって……」


健斗がそう呟くと、ヒロがニヤリと笑って頷いた。そして健斗の言葉の続きを埋めるように言ってきた。


「そう。何だか分からないけど、こいつが人を集めてくれたことが良い方向へと進んだってわけだよ。」


ヒロが寛太を指差しながらそう言った。寛太は突然指を差されて何のことだか分からないと言ったような表情を浮かべていた。健斗は胸を驚かされた気持ちで寛太に言った。


「お前、それを狙ってあんなに人を集めたの?」


まさか……と思いながらも健斗は一応そう聞いてみた。しかし寛太は分からないと言ったように大きく首を傾げて見せた。


「何が?俺はただ、ギャラリーがいっぱいいた方が盛り上がるだろうなぁって思って……」


「そ、そうか。そうだよな……」


健斗はハハッと引きつった笑いを浮かべてそう言った。寛太がそんな風な戦略を練れるわけがなかった。寛太のお調子者のところが偶然にも良い方向へと進んだだけなのだ。


「何だかなぁ~……こいつのおかげでサッカー部は救われたのかぁ~……」


「えっ?何々?俺って何?実は救世主なの?」


「調子乗んな、バカッ」


「痛いっ!」


健斗は寛太の坊主頭を叩いて大きくため息を吐いた。でも確かに寛太のおかげでもある。健斗が完全に力が尽き果てていたときに、寛太があんな風に応援してくれてなかったら……もしかしたら勝ってなかったかもしれない。


寛太の行動が健斗に大きく影響していたのもまた事実だった。だから健斗はそのところは寛太に感謝していたのだ。


「……それだけじゃないけどさ。」


「え?」


ヒロが呟くようにそう言った。健斗はポカンとしてヒロを見る。


「前にも言わなかった?お前には、そういう人を惹きつける力があんだよ。」


「え……」


「お前に関わった人がみんな、お前のために何かをしてやりたいって思うようになる。不思議だけどな……人を惹きつけるんだよ。お前は。」


そのことを健斗は確かに前にも言われたことがあった。中学生のとき、神乃中サッカー部の人から、健斗のプレーを見ていると何だか自分も頑張りたいって思うようになる。だから頑張れるって……


自分にそんな力があるなんて考えたこともなかった。麗奈も昨日、色んな人と色んな繋がりがある。それが羨ましいと言われた。でも……健斗にとってはそれが当たり前だと思っていたのだ。


でも本当は違う。それは本当はすごく幸せなことなのだ。


だから健斗がくじけそうになったときも、負けそうになったときも、いつも周りのみんなが健斗を支えてくれていた。麗奈もヒロも、そして寛太や早川、佐藤……竜平さんもそうだ。


みんなが一つになって健斗を支えてくれている。だからこそ今日まで健斗は、今の健斗でいられたのだ。


今日の健斗があるのは、決して自分だけの力ではない。たくさんの人によって今日の健斗がいる。


今回のことを通じて、健斗はそれが一番よく分かった。だから……すごく嬉しかった。自ら独りになろうとしたときもあったけど……自分は本当に幸せな人間なんだな。それが実感出来た。


健斗はそんなことを考え、ふっと笑った。


「……と・こ・ろ・でぇっ?健ちゃん、今日が何の日だか覚えてる?」


「へっ?」


突然ヒロがトーンを高くしてケラケラと笑いながら言ってきた。するとヒロと寛太は顔を見合わせて、ニヤニヤと笑ってきた。


「次の時間割りは何かな♪」


「次?次は確か……英語?」


英語……


英語……


健斗ははっとした。英語と言えばまさか……


「あぁっ!!」


健斗は大声を思わず上げてしまった。顔が徐々に青ざめていく。するとヒロと寛太がニヤニヤと笑いながら、まるで健斗を見下してくるように言ってきた。


「そう。今日は待ちに待った“テスト返し”の時間だよ♪健ちゃん、もしかして忘れてたのかなぁ?」


気持ち悪い言い方で健斗にヒロがそう言ってきた。その通りだった。ここんところ、意識はすっかりサッカーの方に持っていかれていたから……そのこと自体をすっかり忘れていたのだ。


負けた方は剃髪……それが健斗とヒロの間に決めた罰ゲームだった。


ヒロと寛太は笑いながらハイタッチをする。


「健ちゃん、どの髪型にするか決めたぁ?もちろん僕は……ほらぁ。しっかり用意してあるからね?」


「僕も……ごらん。君が逃げないようにロープまで用意したんだから。」


ヒロと寛太がそう言いながら健斗に見せつけてきたのは、バリカンと服にかからないようにするやつ、そして……縄が一本だった。これはマジで逃げようがなかった。


「……お~、俺……保健室……」


「んんっ?もう遅いよぉ♪ほらぁ、先生が教室に入ってきたよぉ?」


「ひいっ!!」


寛太の言うとおり、教室の中に先生が入ってきた。みんなそれぞれ自分の席につき始める。しかし健斗はすぐに立ち上がって、先生の元に駆け寄った。


「せ、先生っ!」


「ん~?おーっ、山中ぁ。お前昨日は大活躍したそうじゃないかぁ。え~?お前サッカーすげー上手いんだなぁ?」


「そ、そんなことよりもっ!今日……テスト返し……」


「テスト返し?あぁ~!するよ?するする。先生な、もうお前らの解答を一つ一つ愛を込めて丸つけしたからなぁ。採点ミスなんて絶対有り得ないくらいだぞ。」


「そ、そんなぁっ!!」


愕然としている健斗の肩がポンポンと叩かれた。振り返ると、そこにはヒロがいた。慈愛に満ちた笑顔で健斗に言ってきた。


「座ろーよ。山中くん♪先生が困ってるじゃないか?」


「て……てめぇっ……」


「おう。そうだ。早く席つけつけー。テスト返しすんぞー。」


先生にそう言われて、健斗はがっくりと肩を落とした。自分の席に戻る最中、クラスのやつらが健斗に向けてクスクスと笑ってくる。みんなこのあとの結果がどうなるのか知っているからだ。


「よぉし。じゃあテスト返すぞ~?相田~!」


ついにマジで本当にテスト返しが始まった。健斗はその間顔を上げることが出来ないでいた。後ろでは寛太がニヤニヤしながら、ロープを構えている。みんなテストを返されて教室中はざわざわとしていた。


出来ない人、出来た人……みんなそれぞれなのだろう。もちろん健斗だって、出来た人の分類に入ったはずだが……それだけでは意味がない。


健斗は今の内に自分の大切な髪を触っていた。この自慢の髪型も、数分後にはおさらばなのだ。


「次~……真中ぁっ!」


「はぁ~~いっ♪」


元気な返事でヒロがテストを貰いに行く。そしてテストを貰い、自分の点数を確認した瞬間、ヒロは高らかに笑い声をあげた。するとクラスの男子たちがヒロの点数を見に行った。


「ヒロ、何点?」


「うわっ!やっぱお前すげーなぁ。」


「当然だよっ!ウワッハッハッハッハ♪」


そう言いながらヒロが健斗の席に近づいてきた。


「ワッハッハッハッハ♪いや~!参ったなぁ、山中くん。ごらん、僕の点数を。98点ですよ。」


「きゅ……98点……」


確かにヒロの解答用紙には98という数字が刻まれている。完全にダメだ……


「ワッハッハッハッハ♪いや、本当は満点を取ったつもりだったんだがぁ……惜しいなぁ。ここでスペルミスをしてしまったみたいだね。でもまぁ……これで僕の勝利は確定した……かな?」


「も、もういいよ……それ以上言うな。心折れる……」


「おや、そうかい?ワッハッハッハッハ♪」


健斗は頭を抱え込んだまま消えるような声でそう言った。その間、ヒロは高らかに自分のテストを愛らしそうに撫でている。


するとだった。


「次は~……おっ!山中だなぁっ!」


健斗はビクッと体を震わせた。その瞬間、クラス中から笑いが起こった。取りに行きたくはなかったが、取りに行かないわけにはいかない。


健斗はふらつく足取りでクラスの人たちに叩かれながらテストを受け取りに行った。


「今回はよく頑張ったなぁ?」


「……どうも……」


頑張ったってヒロの点数を超えているわけではない。健斗はぶっきら棒に返事をしてテストを受け取った。その瞬間、ヒロと寛太がバリカンと服に髪がかからないやつとロープを持って健斗の元にやってきた。


「さて、では見せてごらん?君の点数を?」


ヒロにそう言われて、健斗は深くため息を吐いて折りたたまれたテストを広げた。そして自分の点数を見て、落ち込むようにため息を吐いた。


「……はぁ……99点か……」


「そうかぁっ!99点かぁっ!いやぁ~っ、でも惜しかったなぁ?99点って……んっ?」


「んっ?」


「あっ……」


健斗はすかさず自分の点数をもう一度見た。右下に刻まれている点数は、どっからどうみても99点だった。94とか96とかではない。紛れもなく、誰でもはっきりと分かる時で99点と書いてある。


ヒロの点数は98点……ということは……


「そ、そんなバカなっ!!」


ヒロは信じられないと言った顔で健斗のテストを奪い取った。滝のような汗を掻いて、健斗のテストと自分のテストを見比べる。どうやら採点ミスなどを探しているらしい。


「……ない……ない……ないっ……ないっっ……ないぃぃっっ!!」


ヒロが頭を抱えながらそう言った。するとすかさず健斗のテストを先生のところに持っていく。


「ちょっ!先生っ!これ何かの間違いでしょっ?」


「ん~?いや、採点ミスはないはずだぞ。全部愛を込めて丸つけしたからなぁ。」


「そ、そんな……はっ!」


ヒロは後ろに漂う殺気を感じた。おそるおそる後ろを振り返えると、そこには悪魔のような笑いを浮かべた健斗と寛太がいた。しばらくクラス中で静寂が続いた。


「……寛ちゃん?GO♪」


健斗の合図と共に寛太がすかさずヒロの体をロープで縛って逃げられないようにし、さらにその上から髪の毛が服にかからないようにするやつを被せた。そして健斗はすかさずヒロの手からバリカンを奪い取ってスイッチをつける。


あのブーーッという長いエンジン音がヒロにとっては恐怖の音に聞こえたことだろう。ヒロはあまりの恐怖に顔が引きつっていた。


クラス中がヒロを見ていた。


「ちょっ……ちょっと待て……お前ら……なっ?話せば分かる……だろ?」


「これから緊急オペを開始します。患部は患者の毛髪です。先生っ!お願いします。」


「オォッケイ~……」


健斗はスイッチの入ったバリカンを悪魔のような笑顔でヒロの頭に近づけた。




「ヒ、ヒロくん……負けたんだ……」


結衣が少し遠く離れた場所でその様子を窺っていた。結衣は麗奈の席の近くにいて、麗奈は興味なさそうな顔を浮かべていた。


「……あ、麗奈ちゃん、何点だった?」


「うん。」


麗奈は自分の点数を今見るらしく、自分の点数を確認した。するとその刻まれた点数を見て、麗奈は嬉しそうに笑った。


「あ、やったぁ♪見て?100点っ!」


「えっ!うわ、本当だぁ。すごいね?」


「エヘヘ♪」




「本当に待って!ねぇっ!話せば分かるでしょっ!」


ヒロが泣きながら懇願してくる。しかし寛太はそれを見て健斗に向けて真剣な表情で言ってきた。


「先生っ!血圧が上がっています。早く処置しなくてはっ!」


「うむ……では始めるとするか……」


徐々にバリカンをヒロに近づける。ヒロはそのバリカンを見ながら、恐怖の顔を浮かべていた。


「……あ……あ……あぁ……」


その瞬間、ヒロの髪にバリカンが入った。ぞりっという気持ちのいい音がした。






「あ゛あぁぁぁぁぁ~~っ!!」






ヒロの悲痛な叫び声とクラス全体の笑い声、そして健斗と寛太の悪魔のような笑い声がしばらく教室中に響いていた。




はいっ!


ということで第9話はこれにて終了させていただきます。


いや~……長かった……本当に作者は頑張った。でもそれ以上に読者のみなさんの方がここまで頑張って読んでくれたと思います。


この第9話、実は作者が一番心を込め、なおかつ丁寧に書きたいと思った話でした。


この話を分岐点に、健斗の生活も本当の意味で大きく変わるのです。


最初はどういう風に進めていこうかなぁって考えました。何よりもサッカーのこと、健斗が辞めた背景には色々な事情が纏まりついていたこと……それを少しずつ健斗とヒロは解決していく……これだっ!て思いました。


そして同時にその中で麗奈との通じ合い、健斗の気持ちの変化を織り交ぜようと考えました。きっと結衣派の人は残念って思ったかもしれませんが……やはり作者は健斗と麗奈で幸せになって欲しいと願ったのです。


さらに今回のことで、健斗はあることに気づきました。それは作中でも言っていた……“人を惹きつける力”


これは別に特別なことではありません。むしろその逆で、これは誰にでも持ちうる、言わば共通した力であり……人間にしか持ち得ない不思議な力だと作者は思います。


つまり、「人は色んな人に支えられてるんだぞ」ということです。


例えばこの間センター試験というのがありました。懐かしいですね……作者も去年受けたのですが……


きっと受験生のみなさんの中には成功した人や、残念ながら失敗してしまった人もいるんではないでしょうか?


でも成功した人は考えて?そこまでの学力に到達したのは自分の力というのは確かにあるかもしれないけど、色んなことを教えてくれたのは先生とかではないですか?そしてセンター試験を受けられたのも、あなたの両親が高い金額を払ってくれたからじゃないですか?


失敗してしまった人も、あなたの周りの人が支えてくれてるんだから、まだ頑張れるよね?


作者が今回の話で通じて言いたかったのはそういうところです。それをみんなに感じ取ってもらえたら……と思います。


最後のオチはもう自分の実体験そのものです。


あのときは本当に僅差で勝ったんで、本当に嬉しかったです。健斗も同じ気持ちなんだろうなぁ……ヒロは可哀相だけど……


では続いては第10話に入らせていただきます。


第10話は……文化祭の話を書こうと思ってます。


それではそのときまでみなさんさようならぁっ!


中川健司



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