第9話 新たなる決意 P.68
「小山さんっ?」
健斗がそう驚きながら名前を呼んだ。麗奈もその名前を聞いて、驚いた顔を見せた。そこにいる人は、やはりあのとき……麗奈の視界の中に写った人だった。そして、雑誌に乗っている写真と同じ人。
この人が、今U-18で活躍していて、テレビや雑誌でもよく特集されている、世間でスーパー高校生と評されている小山明信なのだ。
すると健斗はすぐに家の辺りを見渡し始めた。家の隅や、家の外などを確認している。
「……何やってんの?お前……」
「いや、マスコミとかそういうの……まさかいるんじゃないかって思って……」
「はぁ?」
小山さんは呆れるような表情を浮かべた。
「アホか。んなもんいるわけないだろ。つーか今俺、帰省中だし。帰省の間はマスコミなしってことにしてんの。」
「あ、そうなんすか……よかった……」
健斗はそう言いながら、小山さんの隣に座った。麗奈はどうしたらいいか、おろおろとしていた。すると小山さんが健斗から麗奈の方に視線を向けてきた。そして思ったよりも人懐っこい笑顔で麗奈に言ってきた。
「あ、話は聞いてるよ。君が麗奈ちゃん……だろ?」
突然話しかけられて、麗奈はビクッと身体を震わせた。雑誌とかに乗っている人に話しかけられて、胸がドキドキした。
「あ、はい……初めまして。」
「初めまして。俺は小山っていうんだ。、このバカとは小学校のときからの付き合い。」
「バカは余計っすよ。」
健斗が不満そうにそう言うと小山さんはおかしそうに笑った。
「麗奈ちゃんも大変だろ?こんなアンポンタンみたいなやつと暮らすなんてさぁ?」
「あ~……そうですねぇ……些細なことですぐ怒るんです。」
「だろ?昔っから気が短いんだよなぁ、こいつは。」
「そうみたいですね。」
麗奈は可笑しさがこみ上げてきてクスクスっと笑った。どうやらイメージ的にはもっとこう……有名人みたいな近寄り難いイメージがあったのが、むしろ全然その逆だった。すごく気さくで話しやすい人だった。
すぐに二人の気が合い、健斗はそのことに対して不満そうにため息を吐いた。それはそうだろう。気が合うきっかけになった共通の話題は、健斗のただの悪口なのだから。
「あ、私、鞄置いてくるね?」
麗奈が健斗にそう言うと、麗奈が持っている重い鞄を見てすぐに立ち上がろうとした。
「あ、いいよ。俺が持っていくからさ。」
「ううん、大丈夫。健斗くんはゆっくりしてて。鞄、健斗くんの部屋に置いておくね。」
そう言って麗奈は鞄を重たそうに抱えながら、居間から出て行き、そして二階へと続く階段へと上っていった。
小山さんはそれを見ながら、ゆっくり笑った。
「良い子じゃん、あの子。しかもすげー可愛いなぁ。」
「そうっすか?」
「あぁ。つーかあんな可愛い子といっしょに暮らしてるなんて、ちょっと驚いたぞ。ラブコメかっつーの。」
その表現が可笑しくって健斗は声を立てて笑った。確かに、あんなに可愛い子が突然一つ屋根の下に住むことになったのだ。
考えて見れば、普通そんなことありえない。まるで漫画とか、小山さんの言うとおりラブコメみたいな設定だと思う。
今更ながらそれを思い、健斗は可笑しさを感じた。
「で、どこまでやったの?」
「は?」
健斗が拍子が抜けたように返事をした。小山さんはずいっと健斗に近づき、ニヤニヤと笑いながら健斗に言ってきた。
「A、B……Cか?いや、お前にまだCは無理だろうなぁ……よくてBってとこか……」
小山さんの言っている意味が分かって、健斗は呆れるようにため息を吐いた。するとその直後、父さんが吹き出して大笑いをした。それにつられるように、小山さんも大笑いする。
健斗は呆れて物が言えなかった。一年半振りに会ったのにも関わらず、中身は全く変わっていない。こうやってくだらないことが大好きな人なのだ。
「くだらないこと言いに来たんなら今すぐ帰ってください。出口はあちらです。」
「冗談だって♪マジになんなよ。お前がまだ童貞なくらい知っるよ。」
「あんた、マジで追い出すぞっ?」
またくだらないことを言ったので、健斗はギロッと睨むようにして小山を見た。しかし小山さんは意ともせず、健斗をからかうように笑ってくる。
健斗は不愉快さを全面に出していた。
「明ちゃん、ご飯食べて行くでしょ?」
母さんがキッチンの方から顔を顔を出してきて小山さんにそう聞いてきた。小山さんは少し考えてから、ゆっくりと笑った。
「じゃあご馳走になっちゃおうかな。」
「うちは全然オッケーよ。じゃあ今日は鍋にしようかしら。あなたぁ。」
「はい?」
母さんに呼ばれて、父さんがかしこまったような返事をした。最近すっかり母さんの尻にしかれてるから、父さんは変な癖がついてしまったみたいだ。
健斗はそれを思うと可笑しくなってぷっと笑った。
「ちょっとお豆腐切らしちゃってるみたいなの。商店街まで買ってきてちょーだい。」
「え~?俺がぁ?おい、健斗。お前が行って来いよ。」
「俺身体がガッタガタで動けねーから無理。」
「まったく……仕方ないな。」
父さんはよっこらせと言いながら重いを腰を上げて、テレビの横に置いてある財布と車のキーを手に取ると、ゆっくりと居間を後にした。
居間の中には健斗と小山さんの二人きりになった。母さんはキッチンの方で料理を作っている。健斗は電気ポットの中に入っているお茶を湯のみに入れながら言った。
「それにしても久しぶりっすね。」
「あぁ……そうだなぁ。一年半振りくらいか?」
「前の帰省がそうだったでしょ。いつ帰ってきたんすか?」
確かに、健斗が最後に小山さんと会ったのが一年半前だった。そのときも小山さんはこうして健斗の家を尋ねてきた。そしてそのとき、小山さんからU-18の合宿の話を聞いた。
あの一年半前の雑誌に書いてあることを、いち早く健斗に報告してきたのである。
普段は今のようにおちゃらけてる人だが、サッカーのことになるとこの人の右に出る人はいないくらいだ。まさに“天才”という二文字が相応しいのは、この小山明信である。
本人はまったくそのような素振りは見せないが、本来ならこの家でくつろいでること自体がすごいことだ。今や小山さんはどこに言ってもマスコミが付きまとうほど有名になっているし、この間なんてサッカー関連のテレビ番組に出演していた。
まぁ、健斗もこうして稀に帰ってくるのに慣れてはいた。以前も、健斗がバイトから帰ってきたときにこうしてさも当たり前のように健斗の家にいたのである。
小山さんは湯のみに入ったお茶を呑みながら言った。
「ん、昨日の昼過ぎくらい。」
「何だぁ。じゃあ昨日に来てくれればよかったのに。」
「バーカ。昨日お前ん家に行ったよ。だけど、留守だったろ?」
「あ……」
そうだった。昨日は山中家全員が外出をしていたのだ。昨日の夕暮れ時まで、健斗は翔の両親に会いに行っていたのだ。
「そっか。今回は何から帰ってきたんすか?」
「スペインの海外遠征。一週間前くらいにあっちのユースとのエキビションがあったんだ。」
「すげー……で?」
「もちろん勝ったよ。2-1だったけどな。一点決めたのは俺な。でも、さすが本場は強いわ。」
それでも勝ったのだ。健斗はそのことに胸を驚かせていた。スペインと言ったら、サッカー大国として知られる。
ワールドカップでは今年優勝を飾ったし、クラブチームでは名門バルセロナとかがある。そんなスペインのチームとやり、しかも一点を決めて帰ってくるなんて……やっぱりこの人には適わない……と健斗は改めて思っていた。
今はこうしてくつろいでいると、本当に普通の人だが……サッカーになるとまるで別人に変わる。この人がU-18に選ばれてから、健斗は毎回テレビで試合を見ているが……いつもこの人は大活躍をしている。
まだ17歳なのに……本当の化け物なのだ。
「ところでヒロは?あいつとも話がしたいんだけど。」
小山さんがそう言うと、健斗は「あぁ……」と呟くように言って、ポケットから携帯を取り出した。
ヒロは今、おそらく“他の用事”があるのだろうが……一応連絡だけ入れておく必要があるだろう。
――小山さんが帰ってきたぞ。
その文面だけを書き、ヒロにメールを送った。
「またサッカー始めたんだな。」
小山さんがそう言って、健斗はピクッと眉を動かして小山さんを見た。小山さんは暖かいお茶を呑みながらこちらを見てニヤリと笑っていた。
「今日試合やってたろ。」
小山さんの不敵な笑みに、健斗は苦笑いを浮かべた。どうやら麗奈の言う通りだったらしい。
「……見てたんすね。」
「後半の途中からな。洗目の二軍に勝つなんて、神乃高も結構やるなぁ。特にあの最後に点を決めた子……」
「のんちゃんすか?」
「名前は知らないけど……あれは良いキック力を持ってるな。ムラはあるけど……でもあんなすごいキック力、ユースでもそうはいねーよ。」
小山さんにそう言われると、健斗はまるで自分のことのように嬉しかった。あののんちゃんのキック力は、確かに全国レベルでもユースでも中々いない逸材の一つだと健斗は思っていた。
「その点、お前は全然ダメだったな。」
小山さんにそう言われて、健斗は言葉を詰まらせて苦笑いを浮かべた。あの健斗の情けない姿を、あろうことかこの人に全て見られていたのだ。
「後半の途中、完全にへばってたろ?あんなやつら相手に何度も止められてたし……ったく、お前ともあろうやつが落ちたもんだな。」
「し、仕方ないじゃないっすか。そりゃずっとやってなかったら体力も落ちますよ。」
「いーや、ドリブルの切れも全然なかった。まーだ、中二のときの方がよかったな。」
小山さんの厳しい評価に健斗は苦笑いを浮かべるしかなかった。確かに小山さんの言うとおり、全盛期である中二のときの方が全然動けたというのも事実だった。
この人には誤魔化しは効かない。やはり、あれから二年半もサッカーから離れていれば多少テクニックの方も落ちてしまっていたらしい。
「まっ、俺は“ホワイト・マジシャン”がいつ復活するのかが楽しみだな。」
「よく言うよ……その名前がついたの、小山さんのせいっすからね。ああやってマスコミつれてきたから……」
そう、“ホワイト・マジシャン”という名前がついたのは……今から三年前の春の地区大会のときだった。
あのときたまたまU-15の合宿場が近く、大会の現地で小山さんに会ったのだ。
そして小山さんが、U-15の代表監督に健斗のプレーを見て欲しいと頼み込んだらしい。すでにあのときから注目されていた小山さんがそんな風に言うなんて、と言うように一気に話題性を呼んだ。
そしてU-15の合宿の取材に来ていたマスコミ陣が代表監督と小山さんと同じようにそのときの試合を見て、感銘を受け、あのような名前をつけられてしまったのである。健斗にとっては不本意な話だったが、あのあと記者たちが学校まで健斗に押しかけてきて一時騒然となった。
その全ての発端は間違いなく、この目の前にいるこの人だった。
しかし小山さんは何の悪びれもなく笑って言った。
「何だよ。別によかったろ?俺のおかげでお前は世間に注目されたんだぜ?」
そう言うと、小山さんはぷっと笑いながら言った。
「……“ホワイト・マジシャン”……ぷっ……」
「はっ倒すぞっ!あんたっ!」
バカにするような言い方をして来たので、健斗が威嚇するようにそう言った。小山さんは軽く笑いながら「冗談だよ♪」と言ってきた。
健斗は怒りを鎮め、深くため息を吐いて暖かいお茶をすするように飲み始めた。
「……あの地区大会を見たときは本物だって思ったよ。」
「え?」
小山さんは昔を懐かしむように、遠い過去の出来事を見つめるような表情を浮かべて穏やかな口調で言ってきた。
「お前、翔、ヒロ……この三人がいれば、高校サッカーもすごく面白くなるだろうってそう思った。」
「………………」
「翔が死んだのは、本当に残念だったなぁ……面白いもんが一つなくなっちまったからな。」
「……そうっすね。」
健斗も小さく笑って同意するように頷いた。確かに、小山さんの言うとおりだった。
もし翔がこの世にいるのなら、自分はどうするのだろう。
おそらく、今描いている現実とは大きく異なっているだろうと健斗は思った。
多分、あのままずっとサッカーを続けていたら、健斗はU-15の強化合宿に参加し、そこでさらに力をつける。
そして高校も、多分サッカーをあのまま続けていたら……きっと神乃高にはいかなかったと思う。
「……なぁ、お前さ。」
「はい?」
「一応確認だけどさ……うち、来る気ないよな?」
小山さんにそう言われて、健斗は少し戸惑いながら言った。
「何すか、それ。スカウトのつもり?」
「茶化すなよ。お前のレベルなら、立川でもすぐレギュラー取れるだろ。」
「過大評価しすぎっすよ。」
「どうなんだ?」
小山さんに真剣な目で言われて、健斗は少し言葉を詰まらせた。
確かに本来ならそうなるはずだった。神乃高じゃなくって、立川高校に行き、健斗と翔、そしてヒロと共に小山さんと高校サッカーをやっていたかもしれない。
今の事情がとことん変わっていたかもしれない。
でも……
「嬉しいお誘いっすけど……遠慮しておきます。」
健斗は小さく微笑みながらそう言った。すると小山さんは「やっぱりか」と言ったように、同じく小さく笑みを浮かべた。
「まっ、分かってたけどな。」
「すみません……」
「謝るなよ。どうせうち、公立だから。編入制とかないんだ。」
「あっ、そうなんすか?」
「まぁ、スポーツ枠で特別編入枠はあるけどなぁ……それをお前に進めようと思ってたんだけど……まっ、そういうことなら仕方ねぇな。」
小山さんはそう言って可笑しそうに笑った。健斗はそんな小山さんを見ながら、湯のみのお茶をゆっくりと呑んだ。
「……俺、後悔はしてないっすよ。」
「ん?」
「あのときサッカーを辞めたこと。そのせいで随分と遠回りはしてるけど……俺は今の生活も悪くないって思ってるから。」
そう、結局遠回りの形になっただけだ。
それに、神乃高に行って健斗は何一つ後悔をしたことがない。もし健斗が神乃高に行ってなければ、今のような生活にはならなかった。
麗奈とも……出会ってなかったかもしれないのだ。それが一番大きかった。
麗奈との出会いが、こうして生きてきて、健斗の一番かけがえのない出来事となっていたのだ。
「……まぁ、それならそれでいいんだけど……つーかしてたらぶん殴りもんだからな。あのときだってお前、俺のせっかくの誘いを断りやがったんだから。」
「もういいじゃないっすか、その話。つーかまだ根に持ってるんすか?」
「別に持ってはないけどさ、せっかくさ俺がさ……チャンスをやったのにさ……それに俺はまたお前らとさ、サッカーやりたかったのにさ……なのにさ……」
小山さんがグチグチと健斗に呟くように言ってきた。健斗はそれを見て可笑しそうに声を立てて笑った。
本当にこの人はいつまで立っても中身は変わらない。子供っぽいところやおちゃらけたところも、なのにどこか尊敬の念を抱かせてくる。それがこの人の本当のすごいところなんだろうな、と健斗は一人気に呟いた。
するとだった。再び廊下の方から麗奈がひょこっと顔を出してきた。いつの間にか家着に着替えている。
「私も会話に混ぜてもらってもいいですかぁ?」
麗奈がそういうと、小山さんは一転して明るい表情へと変わった。
「おぉっ!もちろんっ!ちょうど男同士の会話で華がねぇーなぁって思ってたんだよ。」
小山さんがそういうと、麗奈は笑顔になって健斗の隣にゆっくり座った。健斗はそんな小山さんを見ながらゆっくりとため息をついた。
前言撤回……これがなければいいんだけどなぁ……
世間では爽やかだとか、そういうイメージがあるがそれは全くの逆だ。むしろこの人は、無類の女好きである。その中身は今でも変わっていない。
この女好きは、ヒロにも影響しているなもまた事実だった。
「あのっ!一つお願いがあるんですけど……いいですか?」
麗奈が少し興奮した様子で小山さんに言った。小山さんは電気ポットからお茶を注ぎながら首を傾げた。
「うん?」
「あの、サインもらってもいいですか?」
「へ?」
健斗はそれを聞いて思わず喉を詰まらせた。麗奈は少し興奮気味で小山さんに白紙の色紙とサインペンを差し出してきた。突然のことに小山さんは唖然としていた。
健斗はせき込みながら、怒るように言った。
「アホッ!お前また何をわけ分かんないこと言い出してんだっ?」
「えっ?だって、小山さん有名人なんでしょ?」
「それはそうだけど……あのなぁ~……」
健斗が呆れるようにため息を吐いた。もはや言葉も見つからなかった。確かに小山さんは有名人だが、麗奈の考えているような類のものではない。
どうやらこいつは有名人と芸能人の区別がついていないらしい。
すると唖然としていた小山さんが突然吹き出して、次第に腹を抱え込んで笑い始めた。
「アッハッハッハ♪は、話には聞いてたけど、本当に面白い子なんだなぁ♪」
「バカなだけっすよ。」
「ちょっとそれってどういう意味っ?」
「言葉通りの意味。」
「アッハッハッハ♪よしっ!分かった。いいよ。
小山さんはそういうと、麗奈から色紙とサインペンを受け取った。そして手慣れた手つきで色紙にサインを書いた。
「はい。」
「わぁっ♪ありがとうございます。」
その色紙にはちゃんとしたサインが書かれていた。健斗はそのことに驚いて小山さんの方を見る。
「いつの間にサイン書けるようになったんすか?」
「ん?あ、あぁ……何かさ、結構練習場とかにもファンの子とかが来てさ。サインとかよくねだられるんだ、俺。」
健斗は驚いて言葉が出なかった。確かに、小山さんはU-18に選ばれてからものすごく知名度が高まった。わずか16歳でU-18の合宿に参加したのだ。それは本当にものすごいことだった。
そして知名度が高まるということは同時に、自ずとファンの子も現れる。しかもしょっちゅう雑誌やテレビ番組の取材を受けていれば尚更だ。
健斗は感服すると同時に呆れた心地で二人のやり取りを見ていた。
するとだった。
外の方からどたばたする音が聞こえた。
「健斗ーっ!!」
ヒロの声だった。とても慌ただしい口調で玄関の方から聞こえた。健斗と小山さんと麗奈はそれを聞いて、可笑しそうにクスッと笑った。
「開いてるぞっ!」
健斗がそういうと玄関の開く音がした。すると慌ただしい様子でヒロが居間の方に顔を出してきた。小山さんと目が合うと、ヒロは嬉しそうににっこりと笑った。
「小山さんっ!」
「よっ!ヒロ。久しぶりだなぁ。」
「本当っすねっ!いつ帰ってきたんすか?」
「昨日の昼頃。」
「マジっすかっ?うわぁ~……あっ!ちょっ……サインもらってもいいっすか?」
ヒロが興奮気味に鞄の中からペンとノートを取り出そうとした。それを聞いて、小山さんと麗奈はぷっと吹き出して、次第に大笑いをした。健斗は呆れ返っていて、頭を抱えた。
「お前なぁ……何でお前までサインをもらおうとすんだよっ?」
「え?いや、だって小山さん、もう完全に有名人じゃん。」
「だからってお前……」
「そういやさっき、お前のおばさんとおじさんからもサインねだられたぞ。」
「はぁっ?」
小山さんが笑いながらそう言って指を指した。その指差す方向には確かに、同じような色紙が立てられていた。
健斗はもはや言葉が出ず、唖然としていた。
「お前にもサインやろうか?」
「いらねぇよっ!」
小山さんがからかうようにそういうと、健斗はむきになってつい声を強めてそう言った。
その反応もまた面白さを引き出したらしく、小山さんと麗奈、そしてヒロも大笑いをしていた。
しばらくの間、こうした笑い声が家中に響き渡っていた。