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グッラブ! 3  作者: 中川 健司
第9話 新たなる決意
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第9話 新たなる決意 P.61

ホイッスルが鳴って中心のボールが動かされ始めた。試合は相手ボールから始まった。


ついに試合が始まったのだ。


麗奈はギュッと体中に力を入れてその試合の行き先を見守った。他の人も同様だった。


まず、ボールは相手に渡る。ボールがグラウンドの中心から右サイドへと渡り、相手が徐々に攻撃をしかけ始めた。


「二軍なのに……そんなに強いんですか?」


結衣が呟くようにそう訊くと、松本は黙って小さく頷いた。どうしてわざわざそんな強いとこと練習試合をするのだろうか……と麗奈は疑問に思っていたが、それは学校側の策略なんだということがすぐに分かった。


そう思っているとだった。


今さっきまでセンターサークルにいたのに、いつの間にかそのさらに半分までボールが運ばれていた。


相手チームは軽やかなパスワークで繋いでくる。神乃高の人はそのパスワークに翻弄されてボールに触れずにいた。


するとあっという間に相手のチームはパスを回して、ゴールの前まで攻めて、ペナルティーエリア内に入った。そして……


相手選手の一人がシュートを放った。そのシュートは吸い込まれるようにゴールの方へと向かう。そしてキーパーはそれに反応出来ず、あっという間にゴールが決められてしまった。


相手のゴールが決まった瞬間、ホイッスルが鳴った。麗奈たちはそのことに悲嘆の声を上げた。試合開始、わずか五分。もう一点が決められてしまった。


相手選手はハイタッチなどをしておちゃらけていた。完全にその雰囲気から、こっちを見下している。


「もう入っちゃった……」


奈津紀が茫然とするようにそう呟いた。麗奈も同じような気持ちだった。そしてそれは、松本の言う通りだった。


いくら二軍とは言え、相手は明らかに格上だった。今のゴールまでのパスの流れ、ボールを奪ってから一分も経っていない。鮮やか過ぎて驚くほどだった。


そしてそれは同時に、ほぼ絶望を意味していた。今の一点は明らかに精神的に大きくこちらに影響しただろう。神乃高の選手は戸惑いを隠せないようだ。






「……ハァ……ハァ……」


「やっぱ強い……」


のんちゃんはピッチに立って、そう弱気になっているチームメイトを見た。今自分は何も出来なかった。それくらい相手の技術が圧倒的に上だった。


「やっぱ勝てねぇよ……もう一点決められたんだぜ……」


二年生の先輩が落胆するようにそう呟いた。のんちゃんはそれを聞いて胸が引きちぎられるような思いになった。


やはりうちのチームは最初から勝つことを諦めている。このまま廃部になるという運命を受け入れようとしている。


そんなの嫌だった。自分はこのまま、こんな形でサッカー生活を終わらしたくない。のんちゃんはそういきり立ち、ゴールに入っているボールを手に持った。


「まだですよっ!まだ、試合は始まったばかりですっ!一点取り返しましょうっ!」


のんちゃんはそうみんなを勇気づけるように言った。しかしみんなの顔色が変わることはなかった。戸惑いと落胆を両方抱えている。声も、覇気もない。のんちゃんは悔しい思いをこらえて、惨めな思いを振り切って、ボールをセンターサークルへと送った。


健斗たちが来るまで、一点でも抑えなければならない。健斗たちを、信じるのだ。




一方、相手チームは打って変わってご機嫌な様子だった。


「ナイッシュー!」


「当然っ!つーかびっくり。相手何にもしてこねぇっ!」


「してこないんじゃなくって、出来ないんだろ?」


そう言って嘲るように高らかに笑った。相手の戦意を喪失させるために、わざと大きな声で笑った。


「今日のノルマ、何点だっけ?」


「前後半合わせて……6点。」


「6点かぁ……」


ニヤリと笑って見せる。


「これじゃあもっと差がつきそうだな。」


「だな。おら、早くポジションに戻れよ。」


「おう。」






そしてホイッスルが鳴って、試合が開始された。再びボールは神乃高ボールだ。麗奈は祈るような気持ちで手を握って試合を見ていた。


今度こそ……っ!


しかし麗奈の祈りは虚しくも散った。すぐに相手にパスカットされて、相手にボールが渡る。今度は相手は右サイドから攻めてきた。相手の右サイドにいる選手がドリブルをしかけた。


とても足が早く、こっちの選手はまったく追いつけない。そして、右サイドのラインギリギリからセンターリングが上がった。ボールは宙に投げやられ、ゴール前へと向かった。


相手選手の何人かが、そのボールに合わせようと準備している。


お願いっ!止めてっ!


しかし、相手の選手が他の人よりも早くボールに触れた。相手の選手は競り合いながら頭でそのボールをゴールに叩きつけた。


見事、ボールはゴールネットを揺らした。その瞬間、麗奈たちはまた悲嘆の声をあげた。


すでに、二点決められてしまったのだ。








それから何十分かが経過した。そのあと、神乃高はなんとか粘って見せたが、結果は変わらなかった。すでに四得点を決められて、ホイッスルが鳴った。


前半戦が終了したらしい。


呼吸を荒くしながら、神乃高選手は自陣のベンチに戻っていった。みんな一人も言葉を発さず、暗い面持ちでベンチに腰掛ける。すでに酷く疲弊していた。


いや……疲弊しきっているのは肉体的というよりも、精神的なものの方が大きいに違いなかった。


麗奈たちもすでに言葉を失っていた。何と言えばいいのか、分からなくなるほどの圧倒的な試合だった。圧倒的にあちらの方の技術が上だ。


惨めだった。こんなことがあっていいのだろうか……


麗奈は彼らの表情を見ながらそう思った。酷く落胆し、絶望に満ちた虚ろな瞳。そしてのんちゃんも激しく肩で呼吸しながら、歯がゆそうな表情をしていた。


「……何か……悲しいね……」


マナがそう呟くように言った。その言葉を聞いて、麗奈ははっとしてマナを見つめた。マナは、悲しそうな表情を浮かべながらギュッと唇を噛み締めていた。


「……同じ高校生なのに、こんなにも大きく差があるなんて……スポーツって……残酷なんだね。」


その言葉は、絶望を代名詞するものだった。もう万が一でも、神乃高が勝利することはないと言っているようなものだった。


そしてそれは即ち、廃部という意味にもなる。


本当にこれでいいのだろうか。負けると分かっている試合をさせられ、頑張っている者が相手にも虐げられ、こんなに惨めな思いをしている。


今、試合をやっている彼らは一体どんな思いでグラウンドにいるのだろうか。


もう見てられない……我慢の限界だった。


麗奈は唇をギュッと噛み締めながら、その場を立ち去った。みんなは麗奈が急に走り出したから驚いたみたいだったが、何も言わなかった。




麗奈は息を切らしながら、校門の方に走っていった。走りながらケータイを握り締めて、ダイアルをかける。もちろん電話をかけた先は健斗だった。


しかし健斗は電話に出ない。そのことが麗奈を不安にさせ、さらには苛立たせた。


「……どうして出ないの……」


麗奈はゆっくりとスピードを緩めて立ち止まった。息が苦しくって、感情が抑えきれなくなってきた。何かが込み上げてきて、次第に麗奈の頬に涙が伝った。


「……早く来てよっ……お願いだからぁ……健斗くんっ……」


コール音が途絶えて、留守番サービスへと移り変わった。麗奈はそれをゆっくり切って、涙を拭おうとした。




「早く来てよっ……健斗くんっ……健斗くんっ!!」




そのときだった。


校門の方から声が聞こえた。


「やべぇっ!もう前半終わってんぞっ!」


「分かってんよ、そんなのっ!」


麗奈はその声を聞いて、バッと顔を上げた。すると、校門の方から麗奈が待ちに待った人物たちが自転車をめいいっぱい漕いでこちらに向かってきた。


健斗とヒロだった。汗を大量に掻いて、苦しそうな表情で飛ばしてくる。


その顔を見たとき、麗奈は嬉しさと同時に大きな喜びを感じた。


すると健斗たちは麗奈の存在に気づいたらしく、麗奈の前で自転車を乗り捨てた。そして鞄を持って、麗奈に駆け寄ってくる。そして健斗が呼吸を荒くしながら、真剣な表情で麗奈に言ってきた。


「ワリィッ!遅くなったっ!試合、どうなってるっ?」


健斗が慌てるようにそう言った。大量に汗を掻いて、こんなにも呼吸を荒くしているということはおそらく相当走ってきたのだろう。


でもそれでも、麗奈は込み上げてくる感情を抑えることが出来なかった。


「……遅いよっ!バカッ!!」


麗奈が怒鳴り声をあげると、健斗とヒロは驚いたように目を見張った。健斗は呼吸を落ち着かせながら、麗奈をじっと見つめた。


麗奈の頬に伝う涙はとめどなく流れ続けた。麗奈はこの言葉では表現出来ない感情にとらわれていた。


「……ヒロ。先行ってて。」


健斗がそう言うとヒロは小さく頷いただけで、走ってグラウンドの方へと向かっていった。


健斗と麗奈は向き合って、互いに言葉を発さずにいた。


「……ごめんな、遅くなって。」


「……本当だよっ……バカッ……」


「ごめんってば。俺たちだってすげー忙いだんだぜ?」


「……そんなの知らないっ……」


本当はこんなこと言うつもりはなかった。だが、あのような光景を見続けたからには……誰かにこの惨めな気持ちをぶつけたくって仕方がなかった。本当は嬉しいはずだったのに、悔しいっていう気持ちが強かった。


「みんな……あんなに頑張ってるのにっ……一生懸命やってるのに……どうして廃部にならなきゃいけないの?」


「……………」


「あんなに惨めな思いをしてるのに……あんなに悔しい思いしてるのに……廃部にならなきゃいけないんなんて……そんなの……悲し過ぎるよっ……」


麗奈の気持ちが溢れ出した。彼らが可哀想でこれ以上見ていられなかった。


誰かになんとかして欲しい。頑張ってる彼らを、これ以上あんな目に合わせないで欲しい。麗奈はただそれだけを思っていた。


するとだった。


健斗が小さく笑って、麗奈の頭に手を乗せた。


「……ありがとうな……」


「……健斗くんっ……」


濡れた瞳で健斗を見つめる。健斗は笑っていた。嬉しそうに……麗奈のことを見ていた。


そして健斗はすっと麗奈の頭を撫でながら、麗奈の横を通り過ぎようとした。その際に麗奈に囁くように言ってきた。


「……後は任せとけ……」


胸がドキンッと高鳴った。


そういうと、健斗は麗奈から遠ざかってグラウンドに向かって走っていった。麗奈はすぐに振り返えって健斗の後ろ姿を見つめた。


――後は任せとけ……


やけに自信の籠もった口調で、健斗は確かにそう言った。



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