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グッラブ! 3  作者: 中川 健司
第9話 新たなる決意
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第9話 新たなる決意 P.57

それから電車に乗ること二時間近くが経った。電車に揺られながら健斗はじっと窓の外を見つめていた。もう日はすっかり明けていた。それもそのはずで、今は午前八時だ。


隣に座っているヒロは眠りこけている。静かに寝息を立てて目を閉じていた。朝早く起きて今にいたるのだから、いかしかたないだろう。健斗は不思議とまったく眠れるような気配がなかった。


むしろその逆。目が完全に冷めていて、気持ちが高ぶっていた。もうすぐ……あの二人に会うことができる。ノブとリュウタに会って、今までのことを……清算しにいくときなのだ。


二人はどんな風に言うだろうか……健斗は少し怯えも感じていた。佐奈からある程度のことを聞いているとはいえ、二人には本当に申し訳ないことをしたのだ。


――早く着いて欲しい……


健斗は過ぎ行く景色を眺めながら、ただそう思っていた。






それからさらに時間が経った。町並みはすっかり神乃崎と変わり建物や何やらがたくさん立っている。市内から電車を乗り換え、着いた町がここだった。健斗はチラッとケータイの時計を見た。神乃崎を出発してから三時間近く経っている。


次の駅で降りるのだ。そろそろ隣で熟睡してるやつを起こしてやらねば。


「ヒロ、起きろ。もう着くぞ。」


「……ん~……?」


健斗がヒロの体を揺さぶりながらそう言うとヒロは眠そうにしながらゆっくりと目を開けた。大きく体を伸ばして、周り素早く見渡した。


「あ、着いたの?」


「あぁ。次で降りるぞ。」


そうこうしている内に電車は目的の駅にたどり着いた。電車の乗車口から開くと健斗とヒロはゆっくりと電車から降りる。駅のホームは日曜なのにも関わらずたくさんの人で溢れかえっていた。


「うわぁ~……すげー人だなぁ。」


「まぁな。でも市内とあんま変わんなくない?」


「それはそうだけど……うわ、何か自己嫌悪だわ……俺ってやっぱり相当の田舎者なんだなぁ……」


「何言ってんだよ。」


健斗は吹き出して笑いながら改札口に続く階段をゆっくりと降りて行った。周りには忙しそうに駆け降りていく人や、トロトロと降りる人がいて様々だった。確かに色んな人がいる。


特に女子高生が目に映った。神乃高にはいそうにない、いわゆるギャル系の女子高生だ。メイクをし髪は金髪に染めて、すごい爪をしている。ケータイをいじりながら健斗たちと同じように階段を降りている。


「……確かにすごいな……」


健斗は小さく笑いながらそう呟いた。


階段を下ると広い場所に出た。どうやら改札口があるらしいのだが、枝分かれていてややこしかった。健斗とヒロは標識を頼りにしながらゆっくりとした足取りで改札へと向かう。


二、三分歩くと改札口が見えた。健斗とヒロは切符を取り出して改札をくぐった。さて……健斗はまた自分の上にある標識を見上げた。


「ノブの姉ちゃんとはどこで待ち合わせしてんの?」


「うん……ちょっと待って。」


佐奈との電話で決めたことは改札の南口から出たすぐ目の前の広場で待ち合わせという風に決めた。その肝心の南口は標識に矢印と一緒に記されている。


「……こっちだな。」


健斗はその標識に従うように再び歩き出した。ヒロは健斗の後ろを離れずに着いていった。


少し歩くと、南口から青空が見えた。確かに佐奈が言ってたとおり、目の前に何か得体のしれない像が立った場所に広場があった。この辺に佐奈がいるはずなのだが……そう思いながら健斗はキョロキョロと見渡した。車の音や排気ガスの匂いが健斗を少し不快にさせていた。


「すげー都会だなぁ……」


「うん……」


「ノブのお姉ちゃんは?」


「この辺にいると思うんだけどなぁ……」


そう言いながらキョロキョロと周りを見渡して佐奈の姿を探していた。するとだった。


「山中くん。」


後方から健斗の名前を呼ぶ声がして健斗はすぐに後ろを振り返った。すると少し離れた場所から佐奈がゆっくりと歩み寄ってくるのが見えた。それを確認すると健斗は安心するように表情を緩めた。


佐奈は徐々に健斗たちと距離を詰めていき、やがて健斗たちの前に立った。以前会ったときと同じように綺麗で美しい人だった。やけに大人びていて、笑顔が素敵な人だった。


「どうも。」


健斗が微笑んで挨拶すると佐奈も同じように笑ってくれた。


「わざわざありがとう。こんな遠くまで来てくれて……大変だったでしょ?」


「そうでもないです。ただ電車に乗ってただけですから。」


健斗がそう言うと佐奈はゆっくりと笑って、視線を健斗からヒロへと向けた。ヒロは佐奈の視線を受けて少し驚いたのか、ビクッと体を震わせた。


「えっと……あなたが真中ヒロくん……かな?」


「え、あ、はい。そうです。真中です。」


ヒロは照れるように笑って頭を下げた。健斗はその様子を少し可笑しそうに見ていた。完全に美人を相手にして戸惑うヒロだった。


佐奈はゆっくりと笑って軽く会釈をした。


「初めまして。信彦の姉の佐奈です。」


「あ、ど、どうも。」


ヒロはもう一度小さく頭を下げた。美人が好きなくせに、どうしてこんなに美人に対してよそよそしい態度になるのだろうか。健斗にはそれが不思議でたまらなかった。


「さて……じゃあ、行こうか。信彦たちも待ってるし……」


それを聞いて健斗は急に気が引き締まるような気持ちになった。胸が一つトクンと鳴った。


「もう……待ってるんですね。」


健斗がそう言うと、佐奈はゆっくりと頷いてみせた。


「えぇ。……ここから少し歩いたところにある公園で。案内するから、着いてきて。」


佐奈はそう言うと健斗たちの一歩先を進んで歩き始めた。健斗は小さく息を吸い込み、高鳴る緊張を抑えながら佐奈の後をついていった。


「びっくりしたぁ……」


ヒロが健斗と並んで歩いているとそう言ってきた。健斗はその言葉に反応するように、ヒロをチラッと見た。


「ノブのお姉ちゃん。めちゃくちゃ美人じゃん。俺、あいつにあんなお姉ちゃんがいるなんて知らなかったよ。」


「あぁ……俺もだな。」


「どうしてこんなに協力してくれるんだろうな?何か訳でもありそうだけど……」


健斗はその言葉を受けてギクッとした気持ちになった。確かにそれは健斗もずっと思っていたことで、気になっていた。健斗はふと昨日の晩のことを思い出していた。







「――という感じでいいかしら?」


電話の奥で佐奈がノブたちと会う時間や待ち合わせの時間などを言い、健斗はそれに対して頷きながら言った。


「はい、分かりました。それで大丈夫です。」


「そう?良かったぁ。」


「はい……あの、何かすみません。」


「え?」


健斗は決まり悪そうにそう呟くように言った。ゆっくりとベッドに腰掛け、苦笑いを浮かべながらさらに言った。


「俺のために色々としてもらって……何だか申し訳ないです。」


健斗がそう言うと佐奈は少しの間黙り込んでいた。すると微かに電話の奥からクスッと言うような笑い声が聞こえた。


「気にしないで。前にも言ったけど、これは私のためでもあるの。」


「……あの……それってどういう意味なんですか?」


以前そう聞いたときは大して何も思わなかったが、今考えてみると不自然な言い方だった。弟のためとかそういうのならわかる。しかし、“私”のためとは一体どういうことなのだろうか。


すると再び佐奈は黙り込んだ。今度の沈黙はどこか違和感があった。何かに戸惑っているような、そういった沈黙。やがて佐奈はふっと小さく笑った。


「……以前あなたのことを見たときね……」


それは恐らく、中学二年生の大会のことを言っているのだろう。彼女はその大会が非常に印象的だったと言っていた。


「以前あなたのことを見たときから私、あなたのことがちょっと気になってたのよね。」


「……え……えっ!?」


健斗は驚いたような声を上げてしまった。胸がドキドキしているのが分かる。なまめかしい笑いが健斗の耳の奥に響いた。


「ちょっと気になってたの。あなたにもう一度会いたいなぁってずっと思ってた。」


「あ、あ、あの……」


「フフフ♪もしかしたら私、あなたに恋しちゃってるのかもね。」


健斗の胸が最大限に高鳴った。まさか……そんなことがあるわけない。年上……しかも相手は大学生だ。そんな人が当時中学生だった自分に恋するわけない。違う……絶対に違う。健斗は最大限に頭が混乱状態になっていた。


するとそんな健斗の気持ちを察したのか、佐奈が笑い声を立てながら言ってきた。


「アハハ♪じょーだん♪本気にしないで?」


「え?あ……えっと……はい……」


「フフフ♪……自分でもよく分からないんだ。何故だか分からないけど、あなたたちのために何かしてあげたいの。私がそうしたいって。だから、あなたが気にすることでもなんでもないのよ。」


佐奈は笑いながらそう言った。健斗も強がるように笑ってみたが、きっと上手く笑えてなかっただろう。収まらない胸の高鳴りがそれを証明していた。








そんなことがあったのだから、健斗は妙に佐奈のことを意識してしまう自分がいた。佐奈はヒロと楽しそうに話をしている。ヒロも全く緊張感を感じていないようで、それよりもこんな美人と話せることを喜ばしく思っているみたいだ。鼻の下が伸びるというのは本当にあるみたいだ。


――あれは……冗談だったんだよな。


健斗は自分にそう言い聞かせた。いかんいかん……こんなことを考えている場合じゃない。これから健斗は最後にやり残したことをやりに行くのだ。こんな邪念を抱いている場合ではない。


――喝っ!!


「いってぇ!!」


健斗に蹴りを入れられてヒロは痛そうに臀部を押さえた。涙目で健斗を睨みつけるようにして見た。「いってぇなっ!何すんだよっ!」


「虫がついてたんだよ。」


「何で尻にっ?しかも何で蹴りで潰すんだよ。」


「おしりかじり虫だったんだ。仕方ねーだろ。」


「はぁっ?」


ヒロは恨めしそうに健斗を見ていたが、それ以上何も言わなかった。健斗はもう知らんぷりをしている。佐奈は少し驚いていたが、二人のやりとりを見て可笑しさを感じたのかクスクスと笑っていた。






しばらく歩くと住宅街を通っていた。少し離れた場所と言っても、大分歩いたような気がする。健斗は帰り道をしっかり記憶していた。やがて、佐奈の足が止まるとその目の前には広い公園があった。


いくつかの遊具に満ちていて、広い公園。健斗はぐっと力を込めて目を細めた。滑り台の近くに誰かが二人いる。その顔は健斗のよく知っている顔だった。


ドクンとまた一つ胸が高鳴った。健斗はヒロとを見合わせた。ヒロは先ほどのようなおちゃらけた雰囲気を一掃させて真剣な目をしていた。


そしてゆっくりとその二人に近づく。乾いた風が目に染みた。そこにいる二人も健斗たちが来たことに気づいたらしく、じっと健斗たちの方を見ている。


徐々に距離を詰めていくと、それはもう完全に健斗の知っている二人だった。健斗とヒロは緊張した雰囲気を感じながら、その二人の前で立ち止まった。


一人は滑り台の上から降りて、ゆっくりと健斗たちと向き合う。挑発的な視線は何も変わっていなかった。


「……久しぶり。ノブ、リュウタ。」


健斗がそう言うとノブとリュウタは微かに頷いた。何も言わない。ただ健斗とヒロをじっと見つめている。


乾いた風が冷たかった。しかし健斗は目を見開いて、二人の視線を真っ正面から受けようとした。



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