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グッラブ! 3  作者: 中川 健司
第9話 新たなる決意
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第9話 新たなる決意 P.40


健斗は佐藤の隣に座り、竜平からカフェラテを出してもらった。それを静かに飲むと、ほのかな甘さと苦さが口の中に広がった。


「……佐藤、最近見ないと思ったらここに来てたんだな。」


健斗が笑ってそう言うと、佐藤は俯いたまま静かに頷いた。どうしてそのような態度なのか、いまいち理解出来ず竜平の方を見た。


「……友達と喧嘩したそうなんだ。未だに仲直り出来ないことを気に病んでいるらしい。」


佐藤の気持ちを代弁するかの如く、竜平がそう静かに言った。健斗はそれを聞いて、可笑しさを交えながら呆れるようにため息を吐いた。


「そのことか……」


「…………」


健斗は黙っている佐藤を見つめていた。一向に佐藤は顔を上げようとしない。相当今の状況を思い悩んでいるのだろう。


するとだった。竜平が表情を緩めて健斗に言ってきた。


「私は奥にいるよ。客が来たら呼んでくれ。すぐに行くから。」


竜平はそう言ってすぐに店の奥へと消えていった。おそらく気を遣ってくれたのだろう。竜平らしい気持ちの配慮だった。健斗は奥へと消えて行く竜平を見ると再び佐藤の方へと視線を向けた。


「ヒロとのことでしょ?」


「……うん。」


佐藤はまた頷いてそう言った。健斗はその様子が何だか可笑しく感じた。


「仲直りのきっかけが掴めないんだよな。……ヒロも同じこと言ってたよ?」


「……本当に?」


「あぁ。謝ろうと思ってても中々タイミングが掴めないんだって。でも……やっぱりあいつ一方的に自分が悪いって思ってる。だから――」


「違うよ。」


健斗が言いかけているところで、それを遮るように佐藤がそう言った。


「ヒロは何も悪くないの。悪いのは……あたしなの。」


「……佐藤……」


「あたしがお節介だから、余計なこと言っちゃって……何も分かってないのに……」


その姿は少し麗奈と被るところがあった。自分は何も知らなかった。何も知らないくせに、余計なことを言って健斗たちを困らせている、と。


「三人で買い物に行ったときもそうだったでしょ?あたし……いつもそうなんだよね。自分の見方でしか物が言えないの。それが相手をどんなに傷つけてるかも知らずに……ヒロがあたしを嫌うのも、当然だよね……」


なるほど……


健斗はそう心の中で呟いた。佐藤が思い悩んでいるのは仲直りのきっかけが掴めないだけじゃない……ヒロに嫌われたと思い込んでいるのだ。


実際はそんなことない。もう最初からヒロは佐藤に罪悪感を抱いていた。嫌うなんてもっての他だった。


だが、佐藤は自分の悪い部分だけしか見えていない。だからそういう心理が働いてしまうんだと健斗は悟った。


健斗は小さく口元で笑みを作りながらため息をついた。


「佐藤のそういう性格が良いのか悪いのかは知らないけど……俺は佐藤のそういうところに救われてる部分もあるよ?」


健斗がそう言うと、佐藤はゆっくりと健斗を見上げた。健斗は安心させるように笑顔を浮かべた。


「買い物に行ったときも佐藤の言うことはマジで正しいって思った。ここで言ったことだって、ヒロのことを本当に心配してんだなって思ったし……中庭でだって、佐藤の心配してくれる気持ちがすげー嬉しかった。」


「……本当に?」


「マジで。だから他の人はどうかは分からないけど……俺は佐藤みたいな性格は好きだよ。ちょっと気が強くて困る部分もあるけどな。」


健斗がそう言うと佐藤は嬉しそうに、そして照れくさそうに笑顔を浮かべた。しかしその笑顔は徐々に気まずそうな苦笑いへと変わった。


「健斗はそう思っても……ヒロはそうだと限らないでしょ?」


「……どうだろうな?でも……めったに怒らないあいつがどうして怒ったか分かる?」


「……どうして?」


佐藤が首を傾げて健斗に尋ねた。健斗はふっと表情を緩めて続けて言った。


「佐藤の言ったことは正しいからだよ。あいつも分かってたんだ。やりたいことがあるくせに、それを認めようとしない。というより、認めたくなかったんだ。認めちゃえば、自分が惨めになるだけだから……だから必死になって否定したんだ。ただちょっと感情的になっただけ……あいつすぐに頭冷やして、自分が悪いんだってすぐに思ったらしいよ?そんな佐藤を……嫌う理由なんてある?」


健斗がそう言うと佐藤はまた俯いて何も言わなかった。健斗はまたため息を吐いて、佐藤の頭に手を乗せる。柔らかいポニーテールのお下げの部分が揺れた。


「だから何も心配することないよ。あいつは佐藤のこと嫌ってない。今仲直り出来ないのは……ちょっと色々あって……」


健斗は言葉を詰まらせて、佐藤から視線を逸らした。そう言えば……佐藤にも話しておく必要があるかもしれない。健斗たちのことをこんなに心配してくれているからこそ、今ここで話すべきなのだ。


「色々って?」

「……うん。今日はそれを話しにここに来たんだ。」


健斗はそう言って店の奥を見つめた。すると、まるでタイミングを見計らったかのように店の奥からすっと竜平が姿を表した。


カウンターの方に戻り、いつものように優しい笑顔を向けた。


「話は終わったか?」


「……まぁ、一応。」


「そうか……で、お前が今日ここに来た理由は他にもあるんだろ?」


さすがだ、と健斗は思った。竜平は健斗の心を見透かしているように核心をついてきた。健斗は真っ直ぐその澄んだ瞳を受け入れ、ゆっくりと頷き返した。もしかしたら、竜平はもう気づいているのかもしれない。


すると佐藤が困ったように健斗と竜平を交互に見た。


「えっとあの……あたしは帰った方がいいよね?それじゃあ――」


「いや……」


「え……」


健斗は帰ろうとする佐藤を見つめた。佐藤は少し驚いた顔を見せる。


「佐藤も聞いて欲しいんだ。俺とヒロが、今考えてること。」


健斗が静かにそう言うと佐藤はゆっくりと頷いて再び席に座り直した。それを確認すると健斗はもう一度竜平の方に向き直した。竜平はただ黙って健斗の目を見てくる。


健斗に躊躇いはなかった。すぐに言いたいと思った。


「店長……俺、もう一度サッカーをやろうと思ってます。」


健斗がそう言うと、竜平の目の奥で微かに何かが揺れるのに気がついた。健斗はその何かをただじっと見つめていた。


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