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グッラブ! 3  作者: 中川 健司
第9話 新たなる決意
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第9話 新たなる決意 P.34

「鍵閉めたか?」


健斗が振り返って麗奈にそう尋ねた。麗奈は指でオッケーサインを作ってにっこりと笑った。


「もう完璧っ!安いっ!早いっ!安全っ!鍵のことなら麗奈ちゃんにお任せあれっ!」


「……行くぞ。」


麗奈のボケをスルーして健斗を自転車のサドルに跨った。麗奈はむっとした表情でその見事なスルーに対して不平を言ってきた。


「ちょっと~?無視しないでよ。」


「お前のわけ分かんねぇボケに付き合えるテンションじゃねーんだよ。」


健斗は冷たくそうあしらって麗奈が自転車の後ろに乗ったのを確認すると、ゆっくりと学校に向けて自転車を発進させた。自転車を漕ぎながら、健斗は大きく欠伸をした。


「そういえば今日は珍しく早起きだったね?」


「そうでもないよ。」


「嘘。いつも三十分前まで寝てるくせに。」


「何かあんまり寝付けなかったんだよ。……剃髪のことを考えたらな……」


「剃髪?」


「いや、何でもない。」


健斗は誤魔化すようにそう言い、麗奈にそれ以上追求させないように自転車のスピードを上げた。







時間を刻む音だけが鳴り響く教室の中、英語のテストが行われていた。健斗はそのとき、襲ってくる眠気と闘いながら英語の問題を解いていた。


――まずい……集中出来ん……


襲ってくる眠気に負けないように健斗はわざと目をかっと見開いてみたり、ほっぺをつまんでみたりするが全く効果がなかった。頭の中に問題が入って来ないため、出来ているかどうかも判断が出来ない。


健斗は目を擦りながら、チラッとヒロの方を見た。ヒロはにやけながらスラスラとペンで書く手を進めている。好調のようだ。


――剃髪くん。


そんなことがあってたまるかっ!健斗は自分に気合いを入れ直すようにして、自分のほっぺたを叩いた。


負けられない戦いがそこにはある……


健斗は最後の問題を全精力を込めて取りかかった。






テスト終了のチャイムが鳴った。それと同時に監督の先生が手を叩きながら声を張り上げた。


「はい、やめぇ~!全員鉛筆置いて。こら山本っ!無駄な抵抗するなっ。」


クラス中に笑いが起きた。しかし健斗は笑えず、ポトンと鉛筆を落とした。絶望が健斗を襲った。


――手応えが……ない。


眠気と闘っていた健斗はどの程度出来ているのか見当がついていなかった。いつもならめちゃくちゃ出来たという感覚があるのだが、今回に限ってはそういう感覚が分からなかった。出来ているのか出来ていないのかが分からない。何せ自分がどう解いたか覚えてないからだ。


冷や汗が流れる。まさか……負ける?


健斗は自分がヒロに剃髪される姿を想像した。ヒロがバリカンを持って健斗の髪の毛を剃ろうとしている。高らかに笑い声を上げて、少しずつ……少しずつ健斗の髪の毛に……


「いやだぁぁぁっっ!!」


健斗は思わず泣き叫ぶような声で立ち上がった。はっと気がつくと、周りの人が全員健斗に視線を注いでいた。


早川も佐藤も、麗奈も寛太も、ヒロまで……みんなが驚いた顔をして健斗を見る。


「あ……すみません……」


健斗が恐縮するようにして静かに座ると、誰かがぷっと吹き出したと同時にクラス中が笑いに包まれた。健斗は恥ずかしくなってゆっくりと頭を下げた。


すると監督の先生が呆れるようにため息をつきながら、「静かにしろぉ。」と手を叩いて言うが、笑いはしばらく納まらなかった。



解答用紙を回収し終わると、寛太が健斗の背中を叩いてきた。


「何だよさっきの?面白過ぎだろ。出来なかったの?」


寛太に笑われながらそう言われた。健斗は何かどす黒い気持ちを感じながら寛太の剥げ頭を手のひらで掴んだ。


「……寛太……お前今すぐ髪伸ばせ。」


「はいっ?」


「育毛剤でも何でもいい。今すぐ伸ばせっ。すぐ伸ばせっ!俺と同じ髪型にしろっ!」


「そ、そんなむちゃくちゃなぁ!」


「ハッハッハッハッ!おやおや健斗くん、どうしたのかね?」


ヒロが高らかに笑いながら健斗に近づいてきた。その笑い声を聞いたとき背筋が凍りついた。作り笑いをしようと思ったが、それが出来ないくらい追い込まれた気持ちになった。


「おや?もしかすると……出来なかったのかね?」


「いや……そういうわけじゃないんだけど……」


実際そうなのだ。別に出来なかったという感覚はない。しかし、出来たという感覚もなかった。


ヒロと英語で張り合うということは、一問、二問のミスで勝敗が大きく変わってしまう。ヒロに勝つためには全問正解を取りに行く感覚でないとダメなのだ。


しかし、全問正解なんて全然ダメなような気がした。眠気のせいで自分がどれくらい出来たのかよく分からない。


ヒロは大きく頷いてハッハッハッハッとまた高らかに笑って健斗の肩を叩いた。


「いやいやいや、いいんだよ。気にしなくてもー。始めから僕に適うわけがなかったのだからね。」


「くっ……」


「いやでもね?ルールはルールですから?剃髪は覚悟してもらわないと……ねっ?」


「いやっ!あ、あのさぁっ!」


「お~いっ!諸君たち聞いてくれぇっ!」


ヒロが声を張り上げてクラスの全員に向かってそう言った。帰ろうとしている人も足を止めて、みんな一斉にヒロの方を見た。


ヒロはそれを確認するとにこやかな笑顔で続けて言った。


「実はだねぇっ!何と、この山中くんがっ、剃髪するらしいですよぉっ!!」


「バッ!!お前っ!!」


あまりの衝撃の事実に全員が「えっ?」という空気になった。そして男子はともかく女子の皆さんまでその発表に大きな関心を持ち始めた。


「えっ?マジっ?健斗がっ?何で急に?」


「いや何でもねぇ?彼が僕に“しょーーぶーー”を持ちかけてねぇ?英語のテストで負けた方は“ていはーーつーー”ということを決めてましてぇっ!」


「ヒロッ!!お前マジでそれ以上はぁっ!」


健斗はヒロの口を塞ごうと必死でもがいたが、それを寛太が制してきた。寛太はこういう空気が大好きなため、ヒロに力を貸してきやがったのだ。


「しかし皆さんのご存知のとおぉぉぅりっ!こいつはどうやら、へまをしたらしくてね?まっ、僕に勝つという可能性はほぼゼロに近いという状況になりましてね?ハッハッハッハッ!ルネッサーンッ!!」


ヒロは高らかに笑いながら寛太と大きくハイタッチをした。


あぁ……もうダメだ……


「しか~~しっ!!この山中くんは無謀と分かりながらも、この僕に挑戦をした、その勇気っ!!その勇気は賞賛に値するものではありませんかぁっ!!皆さん、ぜひ大きな拍手を彼に送ってくださいっ!!」


ヒロがそう言うのと共に、全ての事情を飲み込んだクラスの全員……特にこういう馬鹿騒ぎが大好きな男子が健斗に向けて大きな拍手をしてきた。笛を鳴らしてはやしたてるものがあれば、笑いながら健斗が剃髪することに期待の感を抱いてるものもいる。


「いいぞ~!健斗~!」


「お前サイコーッ!!」


「坊主になったら見せてねぇーっ!!」


笑いと拍手と歓声に包まれる。だがもちろん健斗にはその笑いと拍手と歓声が全て絶望に移り変わる。


もう……逃げることも許されない。


呆然としている健斗にヒロがパンッと肩を叩いてきて、その衝撃ではっと我に返った。ヒロを見ると、ヒロは慈愛に満ちた優しい表情で健斗に笑いかけていた。


「おめでとう、山中くん。勇気ある君にはこれを進呈しよう。」


そう言って健斗に渡してきたのは一冊の雑誌。しかもそれは、坊主専門の髪型のカタログ雑誌だった。こんなものまで用意していたなんて……本当にこいつは一ミリも自分が負けることを想像していなかったらしい。


「まっ。来週までにこの中からお望みの形を決めてくれよ。全部同じようなもんだけど。」


そう言ってヒロはまた健斗の肩を何回も叩きながら高らかに笑った。しばらくその笑い声と歓声と拍手が――健斗にとっては悪魔の誘いだったが――鳴り止むことはなかった。


「……はは……」


健斗の頬にはホロリと伝う涙を感じた。




シリアスが続くと、どうしてもギャグを入れたくなるのが僕のくせです(笑)。


これ実は僕の高校時代のときの実話で、負けた方はバリカンで剃るという勝負をしたことがあるんです……結果は……皆さんの想像にお任せします(泣)


いやー……皆さん健斗が坊主になったとしても、見捨てないであげてくださいねっ?お願いっ!(>д<;)┛。。,.。,



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