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グッラブ! 3  作者: 中川 健司
第9話 新たなる決意
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第9話 新たなる決意 P.28


麗奈は全ての話を聞き終えた後、何を言えばいいのか分からなかった。自分が想像しているよりも二人には複雑な過去が存在していた。


何も知らなかった。


麗奈は改めてそう思った。健斗のことを知ってるようで何も知らなかった。どうして健斗がサッカーを辞めることになったのか、何故やりたいことをやることが出来ないのか……


何も知らなかった。知っている気を持っていただけだ。


「……ノブやリュウタは、俺と同じだったんだ。」


健斗がポツリとそう言った。麗奈はそれに反応するように顔を上げて健斗を見た。健斗は歯がゆそうな顔をしていた。


「あいつらは誰よりもサッカーが大好きだった。もしかしたら俺以上に……サッカーが好きだったんだ。気が合わないところもあったけど……俺はそんなあいつらが大好きでさ。」


「……その人たちは、今どうしてるの?」


麗奈が聞くと健斗は顔をあげて小さく笑った。


「うん。あいつら、県外の高校に通ってる。そっちの寮で暮らしてるよ。私立の名門校で、スポーツ推薦で受かったんだ。すげーよな、本当。」


何だか誇らしく思っているみたいに健斗は笑ってそう言った。



健斗はその日以来あの二人とは会話を一度も交わすことなく、卒業を迎えた。


もう話すことも出来ない。謝ることも出来ない。ただ歯がゆい気持ちだけが、健斗の中には残っているのだ。



「他の人は?その、琢磨と佐久っていう人。」


「あいつらは隣町の学校に行ってるよ。別に家が離れてるわけじゃないけど……もう全然会わないな。」


ヒロがそう答えた。麗奈は「そっか。」と呟くと、ため息を吐き出した。何だか緊張していた体が徐々にほぐれていった。健斗たちの話はそれくらい麗奈にとっては衝撃的だった。


麗奈はチラリと健斗を見た。健斗は窓の外を眺めたまま動かない。きっと色んなことを思い出しているのだろう。こういうときの健斗はいつもそうなのだ。


「……健斗くんたちの言うとおりかもしれないね。」


「ん?」


健斗は麗奈の言葉に反応するように視線を麗奈に移した。麗奈は少ししょんぼりした気持ちで呟くように言った。


「何か……私が口を出しちゃいけない問題なんだなって。自分たちで考えなきゃいけない。だから何も話さなかったんだね、今まで。」


それを自分は健斗を困らせるような言い方をしてしまった。何も知らないくせに、どのようなものなのかも知らないくせに……ただ知りたい。その気持ちが強く働いて、わざわざ聞かせてもらったはいいが、結局麗奈にはどうすることも出来ない。


「私……バカだなぁ……ごめんね。何も出来なくって。」


健斗とヒロは自分のことをどう思ってるんだろう?迷惑な女だって思ったのだろう。所詮自分には何も出来ないというのは分かっていたのに、ただのわがままに付き合わさせてしまったような気がする。何だか自分がとても小さな人間に思えた。


すると健斗が微かに笑ったのが分かった。


「何でお前が謝んだよ。」


「だって……」


「謝る必要なんてないんだよ。さっきも言っただろ?俺は、“お前に”聞いて欲しかったんだよ。別にどうこうして欲しいなんて、言ってないだろ?」


「……健斗くん……」


麗奈は顔をあげて健斗を見る。健斗は穏やかな表情で麗奈を見つめていた。本当に……何だか……胸が疼くのは何故だろう。


「そういうわけだから。ありがとうな。長い話聞いてくれて。そろそろ帰るか。」


健斗がそう言ったので麗奈は慌てて時計を見た。いつの間にか時刻は10時を過ぎていた。健斗やヒロは慣れているみたいだったが、麗奈にとって他人の家にこんな遅くまでいるのは初めてだった。


「そうだな。明日も学校あるし。っていうかお前らずっと制服だぞ。」


「お前もだろ?」


「俺はいいの。ここ自分ん家だから。」


「あっそ。その前にちょっとトイレ借りるわ。」


「ああ。そこ降りて……」


「知ってるよ。」


そんなやり取りを交わして健斗は立ち上がり、大きく欠伸をしながら部屋を後にした。ドアが閉まる音と同時に麗奈も何だか急に疲れが押し寄せてきた。


そういえば部活をやって、そのままこっちに来たんだった。疲れるのも当然だった。緊張が緩んだためか眠気も出てきて、麗奈は小さく欠伸をした。


「麗奈ちゃん、さっき俺が言ったこと覚えてる?」


「ほぇ?」


突然ヒロにそう聞かれて麗奈は欠伸を交えて返事をした。


「俺は健斗を見守る義務があるって話。」


「あ……うん。」


「でもな、あれはもう終わったんだ。俺の役目は終わった。」


「どういうこと?」


ヒロはやけに遠回しに言う。にっと笑って、麗奈に少し近づいた。


「健斗には、もう本当の意味で心が開ける人がいる。翔と同じように……健斗にとって翔と同じくらい……いやそれ以上に自分の心の穴を埋めてくれる人が出来たからな。」


「それって……結衣ちゃんとか?」


何だかそれを言われると悲しかった。確かにこんな自分よりも、結衣のように可愛くて優しい結衣が健斗の心の穴を埋めてくれているのかもしれない……何だか……悔しいと思った。


だが麗奈の予想とは違って、ヒロはぷっと吹き出し笑った。


「違うよ。麗奈ちゃん気づいてないの?」


「え?」


結衣じゃなければ誰なんだろう?マナとか……それともさっき言った南先生なのだろうか?


ヒロは肩で笑うと、一人で納得するように頷いた。


「うん、そうか。それでいいよな。麗奈ちゃんたちは、それでいいんだよ。」


“たち”……?


それを聞いて、麗奈は顔が熱くなるのを感じた。


健斗の心の穴を埋めてくれる人物ってもしかして……私?


顔が赤い麗奈を見てヒロはニヤリと笑った。


「あいつも素直じゃないからなぁ。本当は分かってるくせにな。自分の本当の気持ち。」


「え?……えっ?」


あまりのことに麗奈は動揺が隠せなかった。それって一体どういうことなのだろう?健斗が……まさか……


「まっ。俺は黙って見守ってるよ。あいつ不器用だけどさ、よろしく頼むよ。」


「ちょ……ちょっと待って!……えっと……それってさ、つまり……」


「何話してんの?」


健斗が部屋に入ってきて不思議そうに尋ねた。麗奈はびっくりして思わず飛び跳ねそうになってしまった。


「な、何でもないっ!」


「え……何?急に。」


「うるさいっ!知らないっ!」


「はぁっ?」


麗奈は顔を真っ赤にしたまま健斗から顔を逸らす。とてもじゃないが、健斗の顔を見ることが出来なかった。健斗は困ったように後ろ頭を掻いてヒロを見た。


ヒロは腹を抱えて笑っていた。何だかからかわれたみたいで、余計に恥ずかしかった。







そしてヒロの家を出て、健斗と麗奈はすぐ隣の健斗の家に帰って行った。たった三十メートルくらいの距離だ。本当に近いんだなと思った。


それよりも麗奈の心はざわざわしていた。理由はもちろん、ヒロがあんなことを言うからだ。多分今でも顔が赤いだろ。こんな気持ちになるの、健斗に告白をする前以来だ。


実際健斗が自分のことをそんな風に見てくれているなら……嬉しいに決まっている。あのヒロがそう言うんだから……そうなのかもしれないが……いまいちピンと来ない。


麗奈の目の前にいる健斗は全くそんな素振りを見せていないからだ。


「……何?」


健斗は麗奈の視線に気づいて鋭い視線を返してそう聞いてきた。麗奈は思わず顔をそらした。


「べ、別にっ!」


「……麗奈……俺さ……ずっと思ってたことがあんだけどさ……」


「えっ?」


胸がドキッと高鳴った。すると突然健斗が足を止めて、麗奈の顔を覗き込んだ。


「な、何?」


「うん……あのさ。お前さ……」


「うん……」


胸の高鳴りがさらに激しくなる。その次の言葉を聞きたい。聞きたい……



「お前さ……実はツンデレだろ?」


「う、うんっ!んっ?」


思わず頷いてしまったが何かがおかしいと気づいて麗奈はすぐに聞き返した。すると健斗は納得するように大きく頷いて笑った。


「あ、やっぱそうか。何だかな~……そうなんじゃないかって思ってた。」


「え?何?何て言ったの?」


「え……だからお前、実はツンデレなんだろ?」


「はぁぁっ?」


自分がツンデレ?ツンデレってあの……「何とかなんだからねっ!」とかいう、あれだろうか?


「いやさ、今も“別にっ!”とか言ってツンッてするからもしかして……って思ったけどやっぱそうなんだな。今はデレてるし。」


「ちょっ……そんなわけないでしょ?別にツンッともデレッともしてませんっ!」


「いや、しとるし。ツンデレかぁ~……確かに最近のキャラ定着としては一番かもしんないけど、あんまりやりすぎるとあれだぜ?飽きられちゃうぜ?」


ダメだ……この男……


完全に麗奈がツンデレだと思い込んでいる。麗奈は大きく息を吐いた。


やっぱりヒロのは気のせいだ。健斗が自分のことを好きだなんて……あるはずがない。期待して舞い上がった自分がちょっと惨めだった。


「あれ……怒った?」


「別にっ。怒ってない。」


怒ってる。麗奈はふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。何かもう、全てがバカみたいだ。


健斗と麗奈は家の前に着くと、健斗が突然笑って麗奈に言ってきた。


「怒んなよ。俺はそんなお前がいいんだから。」


「えっ……?」


胸がときめいて思わず健斗の方を見た。が……それは健斗の思惑だった。


「あ、ほら。またデレた。ツンデレって面白れー。」


健斗はケラケラ笑いながら家の中に入っていた。麗奈は唖然としてそれから一気に顔が熱くなるのを感じた。


本当にこのおとこは……


「もうっ!!健斗のバカァ!!」


麗奈は家の前でそう叫んだ。麗奈の怒鳴り声に驚いたのだろうか?ゴンタが吠える声が聞こえた。




さて……ここまで一気に書いてみましたがどうでしょうか?


おそらく今回の話を書こうと思った理由は、ここにあったような気がします。


どうして健斗はサッカーをまたやることに、ここまでの抵抗を感じているのか……今までそれをうやむやにしていたような気がしてました。


今回の話でそれがはっきりして良かったです。


健斗とヒロが辞めることで中学の部活を崩壊させてしまったこと……昔の仲間が、自分たちのことを恨んでいるということ。


それに対する大きな責任が健斗やヒロを悩ませているということ。


その苦悩している気持ちを大切にしたいと思い、あえて読者のみなさまの想像に任せてみましたが、伝わったでしょうか?


それにしてもヒロは本当に良い奴だなぁと、自分で書いてて思いました。


あと最後の麗奈のまさかのツンデレ疑惑。あれはシリアスが続いたため、ちょっと雰囲気を和ませたいなぁと思って考えたギャグです(笑)


実際ツンデレってどうなんですかね?気が強いけど、可愛い一面も見せてくれるような女性……思えばこれが男にとっての理想像のような気もしますが、みなさまはどうでしょうか?


さて、次回からは後編になります。一気に事態は急展開を迎えます。


作者も暖かい目で彼らの成り行きを見守っていきたいと思ってます。


これからもよろしくお願いしまーす。



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