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グッラブ! 3  作者: 中川 健司
第9話 新たなる決意
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第9話 新たなる決意 P.20


風が少し強い。


道端に生えている草が風で靡き、しなれている。


秋になると昼は暑くても夜は少し肌寒く感じる。健斗は身を縮めながら自転車を漕いで学校へと向かった。


外はすっかり闇に包まれている。こんな暗い中麗奈一人で帰らせるわけにはいかない。


「で、何でお前がついてくるわけ?」


寛太を店に置いてきて、自転車を漕いで学校へ向かい始めると、後ろからヒロが同じように自転車で追いかけてきた。


彼の短い髪が風によって靡くのを見ながら、健斗は後ろを振り向いてそう言った。するとヒロは小さく口元で笑みを作りながら言った。


「いや、暇だしさ。それに麗奈ちゃんといっしょに帰りたいじゃん?」


「麗奈のこと諦めたんじゃなかったっけ?」


「別にそうだとしても、可愛い子とはなるべくいっしょにいたいじゃん?」


結局ヒロはそこにたどり着くのだ。可愛いければ誰だっていいのだろうか?十何年間こいつといるのだが、そこだけがどうもよく分からない。


「……っていうかさ、佐藤と仲直り早くしろよな。」


健斗がボソッとそういうと、ヒロは「うっ」と声を漏らした。顔を少し赤らめて、決まりの悪そうな顔を浮かべている。


二人は未だに仲直りをしていないということを、今日の昼休みに佐藤から聞いていた。早く仲直りをすればいいのに、と思うのだが、お互い意地っ張りなためそう上手くはいかないのだろう。


「麗奈のことなんかより、大好きな佐藤のことを気にしてやれよ。」


「はぁっ?誰があんな暴力女を……そのうち謝るよっ!」


「あっそ。」


健斗はまったく振り向きもせず、まるで興味がないかのように振る舞った。


「お前って、そんな意地悪だったっけ?」


ヒロが愚痴を零すようにそう言った。


「さっきの仕返しだよ。」


と、笑ってすかさず返した。








学校はまだ明かりがついているところがいくつかあった。校門もまだしまってないところを見ると、まだ学校に残っている生徒がいるのだろう。


時間は七時十分。麗奈はどこにいるのだろうか。


健斗とヒロは自転車を校門の前に置くと、ゆっくりと学校の敷地内に足を踏み入れた。


「なぁ、夜の学校ってさぁ、何かこう……ゾクゾクしない?」


「子供か、お前は。いいから早く行くぞ。」


健斗はアホなことを言ってるヒロを気にも留めず、とりあえず昇降口へと向かった。昇降口から何人かの女子生徒が出てくる。おそらく、吹奏楽部の人だろう。


健斗は下駄箱で上履きに履き替えて、階段を上り、何となく一年の教室へと向かった。


何となくだが、麗奈はそこにいるような気がした。


一年の教室の階に着いた。教室に続く廊下は真っ暗で、非常口を示す緑色の光がやけに不気味だった。ヒロの言うとおり、なんかこう……ぞくぞくする。


A組の教室の明かりがついている。B組、C組は電気が消えている。


ということはA組に人がいるのだろう。


「A組に誰かいるな?」


後ろでぴったりとくっついてるヒロがそう言った。


「うん……ってかお前くっつき過ぎ。」


「やんっ♪健ちゃん守って~♪」


「イ・ヤ・だ。」


健斗はきっぱりとそう言い切り、さらに歩調を速めてA組へと向かった。


「……本当に冗談が通じねーなぁ。」


ヒロは後ろ姿の健斗に向かって、不満そうにそう言った。



A組の前に来て、ゆっくりと覗く。話し声がさっきからして、どうやら複数の人間がいるらしい。


そこには健斗の読み通り、麗奈がいた。麗奈の傍に女子が二人いる。その二人は小学校の頃から健斗もよく知っている、北村円と高木奈津紀だった。


北村円は麗奈と同じくらいの身長で、佐藤と同じようにポニーテールが良く似合う子だ。高木奈津紀は背が高く、軽く茶色のかかったショートヘアーが特徴的だ。小学校のときにチビチビ言われた記憶がある。


どちらもB組に属していてクラスが違うため、高校に入ってからはあまり会話をしていない。


健斗は少し照れくささを感じながら教室に入る。するとその音に気がついた麗奈と高木と北村は一斉に健斗の方を見てきた。


「あ、来た♪」

屈託のない笑顔を見せて麗奈はそう言った。健斗はそんな笑顔を見ながら溜め息をついた。


「来た、じゃねぇよ。どこにいるかくらい言えよな。」


「でも早かったじゃない。私がここにいるって分かったんでしょ?」


「……まぁ、そうだけど。何となく。」


麗奈は妙に鋭いところがある。そうなると、健斗は言い返す言葉がいつも見つからなくなるのだ。


そう、それは翔を相手にしてるのと同じように。


「山中久しぶりじゃん。元気してた?」


健斗が三人に歩み寄ると、高木が声をかけてきた。確かに高木と会話をするのは中学以来のような気がする。


「そうだな。とりあえず元気してた。あ、北村この前は迷惑かけてごめんな?」

健斗は麗奈の隣に座っている北村を見て小さく笑いかけた。相変わらずポニーテールのよく似合っていて、人形みたいな子だと思う。


「あ……ううん。迷惑だったなんて思ってないよ。気にしないで。」


「…そっか。」


「うん。」


健斗はまた小さく北村に笑いかけると、北村も小さく笑いかけてくれた。二人のそんなやり取りを麗奈は少し黙って見つめていた。ちょっとだけモヤモヤした思いが胸に滲み出た。


「麗奈ちゃんお待たせ~!ヒロくんが来たよ~!」


何故か先ほどからテンションが高いヒロが少し遅れて教室に入ってきた。いきなりのことだったので麗奈も、そしてもちろん北村や高木も驚いて目を見張った。


ヒロは三人の姿を確認すると少し意外そうな顔を浮かべた。


「あれ?何か結構懐かしい奴らがいんな。」


もちろんヒロにとっても、高木や北村は顔馴染みであった。


「真中うるさーい。相変わらず何も変わってないね?」


高木がちょっと呆れ顔で、それでも久しぶりに会ったのが少し嬉しいのか笑って冗談を言うようにヒロにそう言った。


「高木と北村も何も変わってねーな。組ちげーから全然会ってないけど……元気だったか?」


「うん。それなりにね。ねっ?」


「うん。あ、真中くんハンド部辞めたんだって?高橋くんが言ってたよ。」


北村がヒロにそう言うと、ヒロは苦笑して「まぁな。」と答えた。その辞めたことに関して複雑な心境を抱いているということをこの二人は知る由もないだろう。


健斗はそんなことを考えながら、健斗自身も苦笑した。するとだった。麗奈が驚いた顔のまま、健斗の服を引っ張った。その抵抗を感じ麗奈を見ると、麗奈は心配気な顔をして健斗を見ていた。


「ヒロくんと……仲直りしたの?」


「え……」


囁くような声で麗奈が健斗にそう聞いてきた。


健斗は返答に困って思わず聞き返してしまう。確かに今日の今日までヒロと会話を交わしていなかったけど……それを麗奈が喧嘩をしていたと捉えていたことに戸惑いを感じた。


確かに二人の間に気まずい空気があった。でも別に喧嘩をしているつもりなんてなかった。


なんてことを今ここで麗奈に話しても上手く話せないだろうし、正直面倒臭さがつきまとったため健斗は小さく笑って「あぁ。」と答えた。すると麗奈は嬉しそうに、そして安心したような笑顔を見せた。


その笑顔が何だか久しぶりのような気がした。


そんなことを考えていると、高木が突然立ち上がって言った。


「それじゃ、うちら楽器の点検してから帰るから。麗奈ちゃん先帰っていいよ。」


「えっ?うそっ?私も手伝うよ。」


麗奈が申し訳ないと言わんばかりに進んで申し出たが、それを高木が笑顔で断った。


「ううん、大丈夫。せっかく迎えに来てくれたんだから。」


そう言われた麗奈は健斗の方をチラリと見た。健斗自身、別にどうでもよかったのだが、確かになるべく早く帰りたいという気持ちもある。今日はメガネと坊主の相手をして疲れたのだ。


麗奈は健斗から視線を帰ると高木と北村に向け、感謝と詫びの気持ちを込めて苦笑した。


「じゃあそうさせてもらうね。本当にごめんね?」


「ううん。また明日ね。山中と真中も。」


「おう。」


「またね。」


そうして健斗とヒロと麗奈は高木と北村に向かって手を振り、教室を後にした。



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