第9話 新たなる決意 P.2
そのとき、屋上から校内に通じる扉が勢い良く開けられた。健斗はその開けられた音に驚き、我に返って扉の方を見た
ヒロも驚いて跳ね起きた。するとその扉には見慣れた顔がいて、少し憤然とした表情で真っ直ぐ健斗を見ていた
大森麗奈は健斗の存在を確認すると、ゆっくりと歩み出した
「やっぱりここにいたんだ。もうっ!探したんだよ?」
長い髪をツインテールにまとめて、その挑発的な瞳で健斗に詰め寄る。普通に見れば、誰もが目を惹く美少女。だが健斗は怯むことなく大あくび
「電話すればいいじゃん」
「電話したって出ないでしょ」
「んなことねーよ。ちゃんと気づいたら出るし」
「鈍感な健斗くんは気づかないもん」
「お前が言うな」
健斗はその頭に水平空手チョップを食らわした。麗奈はその衝撃でカクンと首が揺れ、叩かれた部位を手で抑えて健斗を睨みつけた
だが健斗は気にすることなく、背筋を伸ばした
「で、何の用?」
健斗が聞くと、麗奈は表情を緩めた
「うん。ねぇ、ちょっといっしょに来て」
「何で?」
「いっしょにやってもらいたいことがあるから」
「却下。面倒くさい」
健斗がそう言うと麗奈はむっとして、さらに詰め寄った
「健斗くんの力が必要なの。お願いっ!手伝って!」
「何だよそれ」
健斗はため息を吐いた。何だかこいつに利用されるというのは気にくわないのだ。しかしいつまでも口論していては時間の無駄である。健斗は大人しく麗奈の言うことに従うことにした
「ヒロ。俺ちょっと行ってくるわ」
健斗がそう言うと、ヒロはニヤリと笑みを見せた。なんとなくヒロの意向が読み取れた
「おう。俺しばらくここで寝るから」
「起こしに来ないぞ」
「構わん」
ヒロはそう言うと再び床に伏せた。健斗もよくこの屋上を使って眠ることがある。だがコンクリートの上で寝るというのは中々大変で、起きたときは必ず首が痛くなる
それに慣れてしまえば何てことはないのだが
「じゃあ行くか」
健斗がそう言うと、麗奈は大きく頷いて笑顔を見せた
屋上を出て、階段を降り、一階まで行くと渡り廊下を渡って右を曲がり奥の通路へと進む。そこには図書室があって、この学校の生徒が度々利用している
健斗はその図書室の前の【図書室書庫】と明記された教室の中に入った。その中は埃臭く、幾つかのダンボール箱が並べられていた
「何?これ」
健斗が麗奈に聞くと、麗奈は照れくさそうに笑った
「今日先生に書庫の整理を頼まれてね」
「図書委員じゃないのに?」
「うん。ほら、現文の先生って吹奏楽の顧問だから」
なるほど、と健斗は納得した
「つまり、何とかここまでは片付いたんだけど、最後のこれらがどうにもならないってわけだな」
「うん。これら棚の上に置かなきゃいけないんだけど……すごく重くてさぁ」
「ふーん。そゆことね」
「手伝ってくれる?」
「後払い。プリンね」
健斗がそう言うと、麗奈は信じられないっと言いたそうな顔をした
「家族なんだからもっと頼れって言ったくせに?」
「言ったっけ?そんなこと」
「……もういいっ!」
どうやら本気で怒ってしまった麗奈は少し涙目でダンボール箱に手をかける。健斗はそんな麗奈の仕草が可笑しくって笑った
「無理すんなよ」
「どうぞご心配なくっ!赤の他人さんっ!」
「冗談だよ。これら上に運べばいいんだな」
健斗はよっとかけ声を上げると、ダンボール箱を両手で持つ。確かに中々の重量で、女の子一人で持ち上げるのは難しいと思えた。
健斗は幾つかのダンボール箱をゆっくりと持ち上げて、棚の上に置いていった
麗奈はそんな健斗の後ろ姿を見つめる。結局何だかんだ言って、手伝ってくれる、そんな無愛想な仕草に優しさを感じてしまう
どうしてこう簡単に許してしまうのだろうか?
惚れた者の弱み……
でも何だか悔しいから、麗奈は健斗の足をちょっと蹴ってやった
するとだった。健斗は思いの他、バランスを崩してしまって、両手で持っていたダンボール箱を落としてしまった
「どわぁぁぁっ!」
「きゃあっ!」
そのダンボール箱はひっくり返って、本や何やらと散らばってしまった。健斗はそれを見てから麗奈をジロッと睨みつけた
「何なのお前?手伝って欲しいの?それとも邪魔したいの?」
「そ、そんなに怒んないでよ。ちょっとしたスキンシップじゃん」
麗奈は苦笑を浮かべて見たが、どうやら健斗の機嫌を損ねてしまったみたいで、健斗はふんっと鼻を鳴らすと散らばった本やら何やらを片付け始めた
麗奈も慌ててその散らばった本やら何やらを片し始める
するとだった
「あれ?」
健斗が何かを見て、不思議そうに声を上げた。麗奈は片付ける手を止めて健斗を見る
「どしたの?」
「これ……見てみろよ」
健斗から受け取った物を見てみると、それは古いアルバムだった。1980年第十一期生と書いてある
「三十年前のやつ?」
「正確には二十八年前のやつだけどな」
「これがどうかしたの?」
麗奈が訊ねると健斗は面白そうに笑い声を上げた
「二十八年前のって言えば、多分それ父さんたちのやつだぜ?」
「えっ?」
麗奈は驚いてもう一度アルバムを見る。そして計算してみると、確かに年が合う。ということは……
健斗は麗奈の近くに寄って、アルバムに手を添える
「見てみようぜ」
「うんっ!」
麗奈も興味津々の様子だった。古いアルバムを開くというのは何だかドキドキする。麗奈はゆっくりとアルバムを開いた
最初は普段の日常から描いて行こうと思います
何だか健斗が前より意地悪になってますね(笑)