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グッラブ! 3  作者: 中川 健司
第9話 新たなる決意
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第9話 新たなる決意 P.19


「だからっ……ここはこうだって。つーかスペル間違えてるし。」


「え?あれ……imppossbleじゃなかったっけ?」


「ちげーよ。impossibleだろ?……ったく。」


健斗は寛太にもうすぐある試験に備えて、英語を教えているところだった。


健斗は比較的英語は得意な方で、このように人に教えるくらいまで理解はしている。


今、健斗とヒロ、そして寛太の三人で商店街を抜けたところにあるファミレスでドリンクバーを頼み、寛太のために試験教科を教えているところである。


するとヒロが寛太のノートを見ながら深い溜め息を吐いた。


「こりゃひでぇな。和訳になってない。」


どうやら寛太は英語が特に苦手ならしく、健斗とヒロがつきっきりで英語を教えているのだが、寛太の英語の出来なさは想像を遥かに越えていた。


今回の英語の範囲は不定詞と呼ばれる部分で、健斗もヒロも何の問題はない。しかしこの坊主頭はてんでダメなのだ。


「不定詞の意味上の主語を表すときは、基本はforを使うだろ?」


「そうなのっ?」


「…………」


「例えば、この“It is impossible for you to defeat him.”だったら、“for you”がこの文の意味上の主語になる。」


ヒロが教科書の例文を指で指し示しながらそう言った。


「でも、補語の部分が人の性質のときは、“for”は使わずに“of”を使う。例えばkind、carelessとか。」


「う~ん……何でよ?」


寛太が頭を悩ませながらそう言ったのだが、ヒロと健斗は返答に困った。ヒロと健斗もただ文法の問題集や学校の授業でそう習っただけなので、何故そうなるのかは分からない。


だが、文法のルール上そうしなければならないというのは知っていた。


「そんなこと聞かれてもな……」


健斗とヒロが互いに顔を見合わせると、目の前の坊主頭が呆れた顔で言ってきた。


「なんだぁ。お前ら大したことないんだな。」


「お前ね……そんなこと言うんだったらもう教えねーぞ。」


「あぁんっ!ウソウソ!お前らすげーよっ!天才っ!尊敬しちゃう。」


寛太は大声をあげて健斗のご機嫌をとろうと必死になった。健斗はそんな寛太を見て、小さく溜め息を吐き、テーブルに広げていた問題集のページを寛太の方へと動かした。


「とりあえず、この三問やってみ?三分以内に。」


「ひぃ~っ……」


寛太は健斗の言われたとおりに問題を解き始めた。健斗はそれを見ながら一息ついて、そばに置いてあるドリンクバーを少し飲んで乾いた喉を潤した。


かれこれ三時間近く、このファミレスで寛太に英語を教えている。というか、珍しく健斗とヒロを誘ったのにはこのことが狙い目にあったのだ。


つまり健斗とヒロは寛太に良いように使われている。別に構わないのだが、何となく気にくわない。


そんなことを考えていると、ポケットの中に入れてあるケータイのバイブに気がついて、ケータイを取り出してすぐに開いた。


一時間前に麗奈からメールが来た。


部活が早めに終わったのだろうかと思ったのだが、どうやらそうではないみたいだった。


ただ健斗の姿が学校で見えないから、心配したのだろう。


それからメールが途絶えて一時間経った今、ちょうど約束の時間になった。ケータイのバイブの正体はメールだったようで、それは麗奈からだった。



件名:終わったぁ!


本文:

お待たせ!部活終わったよ(^O^)



健斗は飲んでる途中のドリンクバーを一気に吸い込み、それを飲み干した。時刻は七時ぴったりである。ここから自転車で行けば、約十分かかる。


「麗奈ちゃんから?」


ヒロが片手にドリンクバーを持ち、そう聞いてきた。健斗はケータイをパチンと音を立てて閉める。


「あぁ。部活終わったみたい。迎えに行かなくちゃ。」


「え?何?誰を迎えに行くって?」


問題を解いている最中の寛太が身を乗り出してそう聞いてきた。健斗が答える代わりにヒロがちょっとにやけながら答えた。


「麗奈ちゃん。」


「麗奈ちゃん?あぁっ、大森ね。何だよお前。早川がいるくせに大森にも手出してんのかよぅ。」


「はぁっ?」


寛太にそんなことを言われて健斗は不愉快に感じ、溜め息と共に声が出た。するとそれにヒロが反応してきて、健斗の脇腹を突っつきながら笑った。


「え?何?早川と上手く行ってんの?え?この、この。」


「バカッ!止めろよそういうの。別に何もねーよ。ただ……」


「ただ?」


ヒロが健斗に顔を近づけてくる。鋭い目つきに加え、眼鏡がキラッと光ったのは気のせいだろうか。健斗は思わず顔を背けて言葉を返すことが出来なかった。


「私……健斗くんの力になりたいから……」


寛太の言葉が健斗の胸の中を熱くした。寛太を見ると、寛太はニヤニヤしながら健斗を見つめていた。帰りのHRのときの早川の物真似だ。


申し訳ないが、ものすごく腹立だしい。


「寛太……お前、ぶん殴られたいの?それともぶっ飛ばされたいの?」


「どっちもイヤァ!」


「いいなぁ、健斗ばっかり。なんなら麗奈ちゃんを俺たちに分けろよ~。なぁ?寛太。」


「そうだ、そうだ。独り占めしてんじゃねーよ!こんにゃろ!」


隣と目の前が非常にうるさく腹立たしい。唇を尖らせて、ブーイングをかましてくる坊主頭とエロメガネ。


――こんなやつらを相手にするだけ無駄。


健斗はそう悟り、席を立つ。財布からドリンクバーの代金を置いて、鞄と自転車のキーを持った。


「とにかくっ!俺はもう行くからなっ!勝手にブーブー言ってろ!」


そう吐き捨てて、店を出ようとする健斗を面白そうに見る寛太とちょっと苦笑しているヒロ。


「ありゃ。拗ねちゃった。」


ヒロはそう呟くと、小さく溜め息を吐いた。そして鞄を持ち、健斗と同じようにドリンクバーの代金を置いて席を立つと、今にも店を出ようとしている健斗の後ろ姿を追いかけた。


後ろから寛太の慌てた声が聞こえた。



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