第9話 新たなる決意 P.14
「……で、本当は何を考えてたの?」
落ち着きを取り戻した佐藤が健斗にそう尋ねてきた。
別に話したくないわけじゃない。だが、どう説明すればいいのか分からなかった。健斗はあえて、佐藤と目を合わせるのを拒んだ。
「……考え事。上手くは言えないけど……」
「……サッカーのことでしょ?」
再び佐藤がそう聞いてきて、健斗は図星を突かれて黙り込んでしまった。すると佐藤はズバリ言い当てたことが分かると、小さくため息を吐いた。
「分かるよ。健斗もヒロも、最近そのことで悩んでるんだって。」
「……うん。」
「やっぱり、そうなんでしょ?ヒロがバンド部辞めた理由もきっとそれ。じゃなきゃ変だもん。」
「……そうだよ。」
健斗が答えると、佐藤は不満気な表情を浮かべた。
「だったら言ってくれればいいのに……どうして二人とも隠すのよ?」
健斗は少し黙って佐藤を見つめた。佐藤は不満気に納得いかなそうな表情で健斗を見つめ返している。
「何で二人とも、何も言ってくれないの?」
健斗はその言葉を聞いて、しばらく言い返せなかった。健斗とヒロと佐藤で買い物に行ったとき、佐藤は同じようなことを健斗に問いかけてきた。
何故何も教えてくれないのか。友達なのに、どうして何も言ってくれないのか。
佐藤の誠実な心に触れたような気がして、あの時大部分のことを話した。しかし……今回のことまでは話せる気にはなれなかった。
「……俺とヒロが今悩んでることは、俺ら自身の問題なんだ。」
「……だからって何にも教えてくれないの?」
「そういうわけじゃないよ。俺だって、佐藤はすげー良い友達だって思ってる。……でも……」
健斗は一呼吸置いてから続けて言った。
「今悩んでることは、佐藤も麗奈も……多分早川も知らない、ずっと前からの問題なんだ。だから、上手く話せないんだよ。誰かに説明することが出来ないんだ。」
健斗は小さく笑った。佐藤を安心させるために、小さく笑った。
「だから……今はほっといて欲しい。ヒロも多分同じ気持ちなんだ。だからあいつ、ついカッとなっちゃったんだよ。……分かって……くれるか?」
佐藤はしばらく健斗を見つめ返した。やがて、ふっと表情を緩めると小さくため息を吐いた。
「……分かった。じゃあもう何も聞かないっ!」
佐藤はそう言うとベンチから立ち上がって、健斗と向き直した。
「一人で考えたいときってあるもんねっ。だからあたしもう聞かないよ。」
「……ゴメン。」
「謝らないでよ。……ただね。」
佐藤は真剣な表情で健斗と向き合って続けて言った。
「あたし、確かにまだ健斗やヒロの知らないことがいっぱいあると思う。でも……あたしはちゃんと知りたいっ!友達として、ちゃんと知っておきたい。気が向いたらでいいから……いつか、ちゃんと教えてね?」
健斗は佐藤の言葉を聞きながら、顔を上げて佐藤の真剣な眼差しを受け止めた。彼女の眼は澄んでいて、濁りなど一切なかった。心の底から、健斗とヒロを心配しているんだということが痛いほどよく分かった。
こんなに真っ直ぐ、誠実な子はそうそういないだろうな、と健斗は考えていた。
「……ありがとな。」
健斗は小さく笑ってそう言った。そして佐藤は安心するように真剣な表情を緩めて穏やかに笑った。
「じゃあ~……あたし行くね?お弁当食べたいし。」
「あ、うん。ワリィな……ありがとう。」
佐藤は一度振り返って笑って手を振ると、再び背中を向けて健斗の元から離れていった。
健斗はその後ろ姿を見つめながら、何だかしばらく忘れていた穏やかな気持ちを思い出していた。友達なんて別にいらないと思っていた昔の自分が嘘みたいだな、と健斗は思った。
そして空を見上げた。今日は青空の見える秋晴れだった。