第9話 新たなる決意 P.12
それから数日が経った。
健斗はなるべく一人でいるようにしていた。
今、誰かと話す気分にはとてもじゃないがなれなかったのだ。
昼休みの時間になると、教室から出る。なんとなく騒がしい教室にはいたくない。
屋上で話をしてから、健斗はヒロと口を聞いてなかった。別にお互い、喧嘩をしたつもりはない。ただ、二人の間には気まずい雰囲気があった。
今はヒロと距離を置こうと、健斗はそう考えていた。ヒロだって、一人で色々と考えたいことだってある。あの話をしてヒロがどういう決断をするのかを待つつもりだった。
ヒロがまたサッカーを始めても、健斗は怒るつもりはなかった。ただ、これは自分にも言えることなのだが、本当にそれでいいのか?という疑問が浮かぶのだった。
健斗が教室を去った後、麗奈はその後ろ姿をじっと見つめていた。
「健斗くん……最近元気ないね。」
麗奈の後ろで結衣がポツリとそう口にした。結衣も最近の健斗の様子を気にしているようだ。
「この間の時からずっとだよね。何か言ってなかった?」
「う~ん……」
実のところ、麗奈にもよく分からなかった。結衣の言うように、ここ最近の健斗はどこか様子がおかしい。
学校でも家でも、ほとんど口を聞かず、最近どうやら一人になろうとしているみたいだった。その冷たい感じは……そう。麗奈がこの町にやって来て、出会ったばかりの健斗みたいだった。
誰かと話をするのを避けて、自ら一人になろうとしている。
そして様子がおかしいのは健斗だけではない。ヒロも同じような感じだった。麗奈はヒロとマナが喧嘩をしたことが原因で、ヒロも元気がないのだろうと思っていたのだが……どうやらそれだけではないらしい。
明らかに健斗とヒロの間に何かが起こったのだろう。そしてそれは結衣が言うように、あの日、健斗とヒロが揃って教室から出て行ったときに違いない。
「健斗くん、家でもほとんど話さないの。何か、話しかけづらいって感じ。」
「そうなんだ……」
するとだった。
「結衣、麗奈ちゃん!お弁当食べよ!」
そのさらに後ろからマナがお弁当を持ってきてそう言ってきた。
麗奈と結衣は突然のことに少し驚いてマナを見た。
「あれ?二人ともどうしたの?」
マナは麗奈の机とその傍にある適当な机を繋げて、三人座れるように作った。マナは先早く、椅子に座り、鼻歌を交えながらお弁当の袋を開いた。
結衣も椅子に座り、そしてマナの方を見た。
「ねぇ、マナ。」
「ん~?」
「ヒロくんと仲直りはしたの?」
結衣がそう問いかけると、マナはお弁当の袋を開ける手を止めて結衣を見た。
「……してないよ。」
「もうっ。いい加減意地張るの止めなよ。仲直りしたいんでしょ?」
「……別にっ。」
「マナッ……」
結衣は悲しそうな表情を浮かべてマナを見つめた。麗奈はその二人の様子を見て、心が痛んだ。
「あたし、あんなやつと仲直りする気なんてないもんっ。」
そんなことを言うマナを見て、結衣と麗奈は顔を見合わせて小さくため息を吐いた。そして麗奈はヒロの方を見てみると……
ヒロは、誰とも話さず腕を組んで座っていた。そして何かを考えてるように、窓の外をじっと見つめていた。その雰囲気は、健斗と同じだった。
「ヒロくんも、何だか元気ないよね……」
麗奈がポツリと口にすると、少しだけマナが眉を潜めた。
「もしかしたら、ヒロくん、マナと仲直り出来なくって落ち込んでるんじゃない?」
麗奈がそそのかすような言い方をすると、マナの顔が微かに赤くなったのが分かった。そしてチラッとヒロの方を見て、少し物寂しそうな表情を浮かべた。その一連を見た麗奈は口元で小さく笑った。
「“マナも”仲直りしたいのにね?」
「そ、そんなことないもんっ!あんなやつ、どうだっていいしっ!」
マナは顔を真っ赤にしてそう言って、ヒロから視線を逸らした。麗奈と結衣はマナのそんな仕草を見て、可笑しそうに笑い合った。
「……~~っ…あたし、ちょっとトイレに行ってくるね。」
ばつが悪いマナはまるでこの場から逃げるように立ち上がり、教室から出て行った。
麗奈と結衣は可笑しそうに笑って、去っていくマナを見つめていた。
「結衣、大丈夫だよ。」
「え?」
「マナだって、ちょっと素直になれてないだけ。すぐに仲直りするよ。」
麗奈がそう言うと、結衣は嬉しそうに大きく笑った。
「そうだね。あの調子だもん。すぐに仲直り出来そう。」
麗奈も結衣の笑顔を見て安心したように小さく笑った。大好きな結衣には笑って欲しかった。先ほどのような悲しそうな顔なんかして欲しくない。
結衣の笑顔を見ると、麗奈も何だか嬉しかった。
「さっ!私たちもお弁当食べよー。」
「うんっ!」
麗奈は鞄の中から自分で作ったお弁当を取り出して、机の上に広げた。
今日はお母さんが朝からパートのため、お弁当は麗奈が作った。もちろん健斗のもいっしょに。
マナとヒロのことは時間の問題だ。あの二人なら……特にマナの方からアクションを起こすだろう。
後は……健斗がどうしたのかというところだが、今のところ麗奈には何も話して来ない。麗奈は自分から聞こうとは思わなかった。
というより、触れてはいけない領域のような気がしているのだ。
だからいずれ……健斗が話してくれるのを待とうと、麗奈はそう考えていた。
え~……おそらく気がついてる方もいるとは思うのですが……
この第9話……かなりの長編になりそうですっ!!
この第9話で明らかにしたいことがいくつかありまして、それを考えるとあのめちゃくちゃ長かった第7話に相当するかも……
ご了承くださぁい……
さて、自分で書いていて気がついたのですが……何だかマナとヒロの関係が少し変わりつつありますね……さてどうなるのか……
それと感想と評価の方を待ってます!
長い間放置していたので、読者の方がかなり減ってしまったとは思うのですが……
それでも待ってます!