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グッラブ! 3  作者: 中川 健司
第10、11話 文化祭
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第11話 文化祭 後編 P.20


「はい。じゃあ次はシーン42から行きます。麗奈ちゃん、準備は大丈夫?」


「はい!」


「いきまーす、3、2、……アクション!」


多目的室では明日に向けた最後の追い込みが行われていた。この二時間ラストシーンまで一気に追い込んでいた。シーン35からラストシーンまで主役は全部出る。つまり、ヒロインである麗奈は二時間ずっと稽古に励んでいた。そんな様子をマナと結衣は少し遠目で見つめていた。


「すごい気合いだね、麗奈ちゃん。二時間ずっと頑張ってる。」


「……うん。」


すごい頑張っている。それはここからでもよくわかる。麗奈の演技力に圧倒されることが日々あった。だが、どうしてだろう。少し入れ込みすぎている感じを受けるのも確かだった。


「教えてもらわなきゃ、健斗と何があったのかわからないよね。」


「そうだね……」


「……結衣ってば、まだ気にしてるの?」


マナがそう尋ねると結衣は下を俯いた。そんな結衣の様子を見て、マナは小さくため息をついた。


「昨日も言ったじゃん。きっと麗奈ちゃんは怒ってなんかないよ。今日だって話できたでしょ?」


「えっと……実はあれから一言も口きいてない……」


「……そ、それはお互いに気まずさを感じてるからだよ。麗奈ちゃんも、結衣と仲直りしたいって思ってるはず!」


そうかもしれない。そうならいい。でも、そうではないかもしれないのだ。あれ以来、麗奈のことがよくわからなくなっていた。麗奈が何を考えて、何を思っているのか……マナが言うように楽観的にとらえることは簡単だが、結衣はどうしてもそう思えなかった。


怒ってないというのはそうかもしれない。仲直りしたいとも思っているかもしれない。でも、実際のところ……違うところで麗奈は結衣のことを恨んでいるのではないだろうか。結衣はそう考えていた。恨んでいる、という言い方は物騒だが自分の知らないところで結衣に対して邪な想いを抱いているのかもしれない。それは、健斗を自分からとられて本当は快くなんか思えてない。本当はすごく嫌なのかもしれない。でも、麗奈はその気持ちを必死に押し殺して我慢してる。健斗と結衣がくっつくことを望もうとしている。


本当は全部違う。健斗と結衣がいっしょになることなんて、ありえない。それを伝えるのは、どうすればいいのだろう。ただいうだけじゃ麗奈に伝わらないということはこの前のことでわかった。麗奈がこの町に来てから、たくさん仲良くなったと思っていた。結衣にとって、麗奈は親友みたいなものだ。そう思っていたのに、そんな麗奈がわからない。そんな自分に嫌気がさす。


「なんか、嫌だよ……こんなの。」


「え?」


マナがさびしそうにつぶやいた。結衣はそれを聞いてすぐに顔をあげてマナを見つめた。


「少し前まで、みんなでお弁当食べながらさ“文化祭楽しみだね”なんて言って笑ってたじゃん。なのに、今は全然楽しくないよ。このまま明日を迎えるなんて、あたし嫌だよ。そんなの……あんまりだよ。」


「マナ……」


「健斗、麗奈ちゃん、ヒロ、結衣、あたし……麗奈ちゃんが話題を振って、それに健斗が突っ込んで……そしてヒロが調子に乗って、あたしがそんなヒロをこらしめる。それを見て結衣がおかしそうに笑う。この当たり前だと思ってた日常は、もう来ないかもしれないなんて……あたし……嫌だよぉ……やだよ……」


「……………」


マナの言うことに結衣は言葉が返せなかった。マナだけじゃない。自分だっていやだ。当たり前に思えていた日常が……普通だと思っていた光景が崩れていく。もう元通りにならない。そんなの苦しい。耐えられない。


麗奈はどうなのだろう?同じことを思っているのだろうか、それともそれでいいと思っているのだろうか。もし麗奈が同じことを思っているのなら、どうして素直にならないんだろう。どうして本当の気持ちを自分たちにぶつけてくれないんだろう。


そんなことを考えていたときだった。ケータイのバイブがなった。結衣はポケットからケータイを取り出すと、一件のメールが届いていたことが分かった。


「……マナ、ごめんね。私、委員の仕事で呼ばれた。」


「……そう。」


「うん。だから、ちょっと行くね。」


「……うん。わかった。」


そっけない返事をするマナを気遣いながら、結衣は稽古の邪魔にならないようになるべく音を立てぬようにそっと教室を出て行った。すると結衣が出て行った直後、稽古が中断された。


「えっと、じゃあ、とりあえず休憩にします。20分後にもう一度再開するので、そのときにまた集まってください。」


日村さんがそういうと、真剣だった空気が緩んだ。それにしてもすごいクラスだと愛美は思った。高校で初めての文化祭で、勝手が分からない部分とかもあると思う。それでもこんなにクラスが一致団結して動けるクラスなんてめったにないだろう。結衣と健斗が委員としてよく頑張ってくれているおかげでもある。自分が二人のためにしてあげられることはやっぱり……


くよくよしていたって仕方ない。行動あるのみ。それがあたしだ。


愛美はそんなことを考えて自分をいきり立たせると、休憩がてら椅子に腰かける麗奈のもとへと歩いて行った。


「麗奈ちゃん、お疲れ。」


笑って声をかけると、麗奈は愛美の方を見てにっこりとほほ笑み返してくれた。


「マナもお疲れ様。しんどかったねー、二時間。」


そういってあははとのんびりと笑う。普通に見ていると、いつもの麗奈のようにも見える。愛美はそんな麗奈の隣にすっと腰をかけた。


「それにしてもついに明日だね、文化祭!」


麗奈は目を輝かせてそう言った。嬉しそうにはしゃいでいるように見えた。


「そうだね。もう明日だね。」


「私、頑張るよ!慣れない演技だけど、主役としてみんなのためにも頑張らなきゃ!」


「クラスの方も大事だけど、吹奏楽部の方もちゃんとやってる?」


「うん、バッチシだよ!どっちもがんばるって決めたんだ、私。どっちも手放したくないから、だからやるの!」


「………………」


どっちも手放したくない……か。


「その中に、健斗は入ってないの?」


「え?」


愛美がそれを言うと、明らかに麗奈の顔に困惑の色が見えた。それを見せまいと咄嗟に麗奈は小さく笑った。


「な、何を言ってるの?突然……」


「答えてよ。麗奈ちゃんの手放したくないものの中に、健斗は入ってないの?」


愛美は真剣な表情で麗奈に再度改めて聞く。すると麗奈は笑うのをやめて、下を俯いた。聞いたけれど、何も答えようとはしなかった。あぁ、そうか。と愛美は思った。結衣が言っていたのは、こういうことだったのだ。こんな感じでストレートにぶつかっても、麗奈は自分の本当の気持ちを見せようとはしない。愛美はゆっくりと息を吸い込んだ。


「じゃあ、ここからは独り言を言うね。聞きたくなかったら、聞かなくてもいい。無視しても構わない。きっと嫌な奴と思うかもしれないけど、あたしが麗奈ちゃんに対して思ってることを今からいうから。」


愛美がそういっても、麗奈は顔をあげなかった。でも、それはこの場にいようとするということは愛美が言うことに耳を傾けようとしているということだ。


「結衣から聞いた。この間、麗奈ちゃんと結衣の間にあったこと。結衣ね、言ってた。どんなにまっすぐぶつかっても、麗奈ちゃんは……あなたは、決して本当の気持ちを見せようとはしない。それが悲しいって言ってたよ。あたし、これはあくまで推測だけど……あなたは、あきらめてるんでしょ?自分の気持ちなんか他人にわかってもらえないって。そうあきらめてる。だから、自分の気持ちを見せようとはしない。」


麗奈はぴくっと眉を動かした。けれど、愛美はかまわず続けた。


「健斗との間に起こったことも、健斗から聞いた。健斗に言ったこと、“自分の気持ちを知りもしないで、勝手に決めつけるな?”だっけ。確かにそうかもしれない。健斗も、結衣も、ヒロも、あたしも……麗奈ちゃんの本当の気持ちとか、考えていること……全部は全部知らないよ。昔の麗奈ちゃんがどんなだったのかだって、知らない。何も知らない。でも、でもね?」


愛美はすぅっと息を吸い込んだ。


「麗奈ちゃんは、勝手だよ。」


愛美がそういうと、麗奈はすっと顔をあげて愛美を見つめた。まっすぐな瞳で、愛美を見つめていた。


「麗奈ちゃんは勝手だよ。あなたの気持ちを、あたしたちはわかってあげられないかもしれない。でも、あなただってあたしたちの気持ちなんか、全然わかってない。麗奈ちゃんに近づこうと、みんな努力してる。いっぱい考えている。それなのに、その気持ちをないがしろにして、麗奈ちゃんはみんなを遠ざけようとする。それって、すごく最低だよ。あたしたちも最低だけど、麗奈ちゃんだって最低だよ。」


「………………」


「みんな、麗奈ちゃんが大好きなの。あなたが大好きなの。過去の麗奈ちゃんがどうであれ、今の麗奈ちゃんが好きなの。それを、わかってよ。素直になってほしいとか、そんなことよりも……あたしたちの気持ちにも気づいてよ。」


言いたいことは全部言った。きっと、これは愛美だけの思いじゃない。麗奈以外の四人のみんなの気持ちのはずだった。みんなが今まで我慢してきた、思いだ。それをすべて、自分はすべて出し切った。あとは、麗奈ちゃんだけだった。


愛美はふぅっと落ち着いて息を吐いた。そしてゆっくりと立ち上がる。


「今のは、独り言……だから。あたし、ちょっと教室に戻るね。それじゃ。」


そういって愛美は麗奈から離れていき、多目的室の扉を開けるとそこから出て行った。


一人残された麗奈はしばらく下を俯いていた。身体に衝撃波を受けたような感覚を覚えた。そして、一人で愛美の言葉を思い返しながらぎゅっと拳を握った。



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