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グッラブ! 3  作者: 中川 健司
第10、11話 文化祭
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第11話 文化祭 後編 P.18


少し更新が遅れて申し訳ございません。


ついに文化祭編も終わりへと近づいています。さて、健斗と麗奈はどうなるのか?


それではどうぞ!




「あ~あ、もう日が暮れるぜ?」


「時間かかりすぎなんだよ。いいのかよ、委員のくせに。」


「し、仕方ないだろ。つーかなんだよ、お前らが俺をあそこに連れて行ったくせにさ。」


健斗とヒロ、そして山下の三人が神乃埼に着くころにはすっかり夕方になってしまっていた。そして急いで学校に戻るころには、もう日が暮れかけていた。山下に流されて、委員の仕事やクラスの仕事を完全にほったらかしにしてしまった。きっと、みんな健斗がいなくなっていることに気が付いているはずだった。


「とにかく、早く戻ろうぜ。まだ6時前だし、残ってやってるかもしれない。」


ということで、健斗と早川と山下は走って昇降口の方に向かった。






教室に戻るとまだ明かりはついていた。急いで中をのぞくと、教室の中には何人か残って仕事をしていたのだがほとんどの連中は帰ってしまったらしい。健斗とヒロ、そしてなぜか山下までもが教室内に入ると一番先に見つけてきたのは佐藤だった。


「あー!!やっと帰ってきた!!二人とも、どこ行ってたの?」


佐藤は少し憤りを感じながら二人に詰め寄ってくる。健斗とヒロは苦笑いを浮かべて佐藤を宥めた。


「わ、わりぃ。ちょっと野暮用で。」


「野暮用?何よ、それ。」


佐藤がそう尋ねると健斗はうまく答えることができずにためらっていた。ここでまさか、麗奈のためのプレゼントを買いに行っていたなんていえるはずがない。KYこと山下薫も、さすがに空気を読んで黙っていた。すると、そこでヒロが軽く咳払いをしていった。


「それはだな。これから健斗の人生が左右される非常に重要な野暮用だったんだ。な、健斗。」


「お、おう。」


あながち間違いではないが、それはさすがに言いすぎだ。そこまでのことじゃない。が、ヒロにしてはナイスな答えだ。この通り佐藤はそれ以上聞いてこなかった。


「とにかく、あんたたちがいないおかげでいろいろ予定が狂ったんだからね。特にヒロ!あんたの飛脚の場面を飛ばしたんだから。」


「う、わ、わりい。」


「すみません。」


健斗とヒロが素直に謝るとそれで満足した佐藤は大きくため息を吐いた。そして健斗はキョロキョロっと教室内を見渡した。


「あ、あのさ、えっと……麗奈……は?」


「え、麗奈ちゃん。」


「うん……どこにいるのかなーって。」


「麗奈ちゃんなら部活に行ったよ。ほら、文化祭で吹奏楽部の演奏会の練習も出ないといけないから。」


「あ、そう……」


それじゃ、今日は麗奈と話をすることはできなそうだ。家に帰ったら話せるかもしれないが……あいにく麗奈は家の中では健斗を絶対に避けてくる。それにあんなことがあってからではなおさらだった。


「えっと、じゃあ……なんか仕事でもしようかな。」


「もうほとんどお開き状態よ。続きは明日だって。」


「あ、そう……なんか、本当にすみませんでした。」


そんなやり取りをしていたら、ふと健斗の視界に早川の姿が見えた。教室の隅で何かプリントらしきものを机の上に広げてはいるものの、ぼんやりと窓の外を見つめていた。何か思いつめている様子だった。健斗が早川を見ていることに気が付いて、佐藤もちょっと困ったような顔をした。


「あのね……結衣ったら、さっきから様子が変なの。」


「え……」


「なんかね?話しかけても、一つ二つの返事でね。ずっとあんな感じで上の空。まとめ役があんなんだから、クラスもなんかやる気が削がれちゃったっていうかさ……」


それを聞いて、健斗ははっと思った。もしかすると、自分が昨日あんなことを言ったからそれを気にしているのではないだろうか。だとしたら、健斗はクラスに多大なる迷惑をかけてしまったことになる。このままではまずい。非常にまずい。


そんなことを考えながら、健斗はチラッとヒロを見た。するとヒロも健斗と同じことを考えていたようで、苦笑いを浮かべていた。


「……は、早川!」


健斗は思い切って早川のところへ歩み寄り、声をかけた。健斗の呼びかけに早川は気づいて健斗のことを見上げた。


「あ……健斗くん。」


「あの……えっと……その……だ、大丈夫?」


「え……うん。」


「そのさ……えっと……昨日のことはさ、その……俺さ……」


「うん。大丈夫。私なら、平気。」


「え?平気?」


「うん。平気だよ。」


確かに早川の様子が少し変だった。昨日のことを気にしているのなら、もっと違う反応が返ってくると思っていた。しかし、早川は健斗が話しかけても上の空で、一つ二つの返事しかしなかった。


「早川……その、なんかあった?」


「………………」


早川は黙り込んだ。少し落ち込んでいるようにも見えた。すると、そんな健斗と早川のやり取りを見ていた佐藤とヒロと山下の三人も、早川と健斗のもとに近づいてきた。


「結衣。どうかしたの?なんだか、ずっと変だよ。」


「………………」


「なにかあったなら、話してよ。私たち、友達でしょ?」


「……マナ。」


佐藤の真剣なまなざしを受けて早川も何かを考え込んだ。しばらく黙っているとようやく顔を上げた。その目はどうすればいいのかわからないと悩んでいるような目だった。


「あのね……私……喧嘩しちゃったの。」


「喧嘩?結衣が?」


「うん……」


佐藤も驚いていたけど、健斗もヒロも驚いた。驚くというよりは意外だった。あの温厚な早川が誰かと喧嘩することなんてめったにないと思っていたからだ。


「誰と喧嘩したの?」


「……それはね……」


早川は言うのをためらってから、ふと健斗のことを見た。健斗はその視線を不思議に思って見つめ返す。すると早川は意を決したのか、その名前を口にした。


「……麗奈ちゃんと……」


「……え?」


「え?」


「……えぇ!?」


三人とも驚きの声を上げた。山下だけは何が起こったのかよく把握していなかったのだが、健斗とヒロと佐藤はそれに心底驚いたような声を上げた。どうして早川と麗奈が喧嘩をしたのか、まったくわからなかったし、何が起こってそうなってしまったのかちっとも見当がつかなかった。


「ちょ、ちょっと待って。今麗奈ちゃんが喧嘩してるのは健斗じゃないの?」


「いや、喧嘩っていうか……いざこざしてるのは確かだけど。」


「早川も麗奈ちゃんと喧嘩しちゃったってことか?いったいなんで?」


三人がそろって早川に問い詰めた。すると早川はさらに思いつめたような顔をした。


「私がいけないの。私がつい、感情的になっちゃって……でも、私……麗奈ちゃんのことがわからない。」


「早川……」


気づくと早川の目からは涙がこぼれていた。ぽろぽろと零れ落ちた涙は机の上のプリントにぽたぽたと落ちていく。


「わからないの……どうすればいいのか……麗奈ちゃんのこと……どうしてもわからなくって……それで……」


そんな風に泣き出した早川を見ながら三人は言葉が出せなかった。ただ、わかったのは早川と麗奈が何かを話して、そして早川が感情的になってしまった。そして早川はそれを悔いているのか、それとも早川が言っている通り、麗奈のことがわからなくなってしまい混乱しているのか……


早川を見つめながら、佐藤が優しく両手を頭に回して抱きしめた。


「結衣……大丈夫だから、泣かないで?」


「……だって……私……麗奈ちゃんに……」


「大丈夫。麗奈ちゃんも許してくれるよ。だから泣かないで?とりあえず、何があったのか話して?話はそれからだよ。」


「……マナ……」


優しく抱きしめられた佐藤の胸の中で早川は声を上げずに泣いた。その様子を健斗もヒロも、そして山下もただ見つめていることしかできなかった。









落ち着きを取り戻した早川はようやく涙が収まったみたいで、静かに椅子に座って下を俯いていた。それを囲むように健斗たちも椅子に座って、早川がしゃべりだすのを待っていた。途中山下が、「俺ってここにいていいのかな。」と心配そうに聞いてきたが、一応山下もこの場にいたわけだし、ある程度の事情は知っている。いても構わないと思った。


すると、佐藤がスカートのポケットの中から黄色いハンカチを取り出して早川に渡した。すると早川は「ありがとう」とお礼を言いながらそれを受け取って、目元をゆっくりとふいた。


「ごめんね。急に泣いちゃって……」


「ううん。結衣が泣くなんてよっぽどのことだもん。」


「そんなに大げさなことじゃないんだけど……でも……」


「うん。わかってる。それで、一体何があったの?麗奈ちゃんと喧嘩しちゃったっていうのは、本当?」


佐藤がそう聞くと早川は何も言わなかった。沈黙がそうだと告げていた。


「それは……昨日のことと関係あるのか?」


ずっと黙っていたヒロが早川にそう尋ねた。ヒロがそういうと、佐藤が「え?」っと驚きの声を上げた。健斗もうすうす、そんな気がしていた。昨日のことがからんでいる。きっと早川は麗奈にそのことを話そうと思って、麗奈と話をしたのだと思った。


「昨日のことって……何?何か、あったの?」


「……健斗くん。」


「ん?」


早川が健斗のことを見つめてきた。その視線を健斗は優しく見つめ返す。


「……昨日のこと、話してもいいのかな?」


「……うん。いいよ。佐藤だけ知らないままだと、話が進まないから。」


「うん……それじゃ……」


健斗の承諾を得て、早川は大きく深呼吸した。そしてゆっくりと昨日あったことを話し始めた。まず最初に、健斗が一人教室に残って後片付けをしていたこと。それを手伝って後片付けが終わると、昨日健斗が話したことを早川はたどたどしく話し始めた。


佐藤はちょっと驚いていた。健斗が早川のことを好きだったということに気付いていなかったらしい。てっきり、最初から麗奈のことを好きだと思っていたのだ。だが、問題はそこではなかった。


そのことを話してから、早川は自分のせいでこのままでは麗奈と健斗の関係が元通りにならなくなってしまうのではないかと思ったということを話した。そして音楽室でミュージカルで歌う曲を練習していた麗奈に会いに行って、昨日の誤解を解こうと話をしたらしい。


しかし、早川も思いのほかそれは違う形で脱線した。昨日の話よりも、麗奈の気持ちを知りたかった。それを問い詰めるような形になったという。そして早川は麗奈が言った言葉を詳しく場にいる四人に話した。健斗と結衣、二人が幸せになることが麗奈の望みだと言ったとき、早川はそれは本当の気持ちではないと思った。麗奈のちゃんとした気持ちを知りたくって、でもそれをあいまいな答えでかわす麗奈にいらだちつい感情的になってしまった……という話だった。


「私ね……悲しかった。どんなに聞いても、どんなにまっすぐにぶつかっても……麗奈ちゃんには届かなくって、麗奈ちゃんは自分の本当の気持ちを見せてはくれない。それが、すごく……悲しかった。」


「……結衣……」


「でもね、きっと麗奈ちゃんは今も苦しんでると思う。自分の気持ちを押し殺して、いっぱい我慢してると思うの。だから、麗奈ちゃんに素直になってほしかった。もっと本当の自分を見せてほしかった。きっと麗奈ちゃんは、それを避けているんだと思う。私に嫌われたくないから、みんなに嫌われたくないから。自分をだまして、演じている……私はそんな麗奈ちゃんが、悲しかった。」


早川の話は今までの麗奈に当てはまった。早川の言う通りで、麗奈は自分の気持ちを押し殺して、我慢して、一人で苦しんだりする。それは、あの時も同じだった。お父さんから電話が来て、一度東京に戻らなくてはならなくなったとき、本当はすごく嫌だったのに、怖かったのに……麗奈はそれを一度も言わなかった。全部一人で抱え込んで、誰にも頼ろうとしなかった。


そして、健斗はあの日麗奈が言った言葉を思い出していた。


『私は、そんな何も知らない健斗くんが、私のことを分かったような口で言ってくるのがむかつくの!私の心の中を、気持ちを、そうやって勝手に決めつけるのが嫌なの!なんで、それを分かってくれないの!?私のことなんてどうせ誰も、分かってくれない!!お父さんだって、お母さんだって、誰も分かるはずがない!だって、私だって……私だって自分が何なのか、分からないんだから!!』


その通りだ。麗奈のことなんて、ちっとも知らなかった。長い時間を一緒に過ごしていた。一番近くで、麗奈を見ていた。だから、自分だけが麗奈のことを知っている。麗奈のことをわかってあげられる。そう思い込んでいた。いや、そう思いたかった。


いつも誰かに言われて麗奈の気持ちに気づこうとする。今だってそう。昨日麗奈を引き留めて、麗奈を泣かせてしまった。同じことを繰り返していたのだ。ずっと、ずっと……麗奈の本当の気持ちなんて知ろうとしないで、勝手に麗奈の気持ちや考えを決めつけて……それで、俺は……


――最低だ……俺……


結局麗奈のことを考えていたつもりで、自分のことしか考えていなかった大馬鹿野郎だった。どうしようもないやつだ、何が家族だ。何が……


そうだ。あいつは今、一人だ。これまであいつはずっと一人だったんだ。子供の時も、そして今も……麗奈の母親の夏奈ともずっと離れ離れで、そして自分の知らないところで亡くなってしまった。それからたった一人の家族の父親とも、仕事で忙しいと理由づけされてこんな田舎に送られて……山中家で引き取られて、健斗と出会った。どんな思いでこの街に来たのか、わかっていたつもりだったのに全然わかっていなかったのだ。誰もわかってあげることなんてできていなかった。健斗だって……


――あいつはずっと、一人だったんだ。













家に帰ってからもそのことばかり考えていた。家には誰もいない。母さんも父さんも、今日は仕事で遅くなる日だった。麗奈は……分からない。どこにいるのかも、何をしているのかも。たとえ、今この場にいたとしても健斗は何を話せばいいのかわからなくなっていた。ただ、今日早川の話を聞いて自分の愚かさと、そして麗奈のうちにある孤独感に今更気づいたということだった。


「気づいたからって……何を言えばいいんだよ……」


ベッドに横たわり、遠くの景色を眺めながら健斗はそうつぶやいた。みんな、早川の話を聞いた後何も言わなかった。言わなかったのではなく、健斗と同じように何も言えなかったのかもしれない。どうすればいいのか、誰も何もわからなかったのだ。


麗奈の相手は、駄目だ。ただ、好きという気持ちではだめなのだ。もっと……ちゃんとした覚悟のようなものがいるのかもしれない。自分の気持ちを曝け出さない麗奈と向き合っていくのは、もっと強くならなくてはならないと思う。今の自分にそこまでの資格はないように思えた。


もうすぐ文化祭だった。高校生活で最も盛り上がる行事が、もうすぐ始まろうとしていた。













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