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ガルデニアの残り香  作者: 板久咲絢芽
回想 2 来し方と嘘つき
8/44

1

おにいちゃんの正体を知っても、結局全然――は言い過ぎだが、ほとんど何にも変わらなかった。

おにいちゃんは私の血もお母さんの血も、飲んでいなかった。

お父さんの血なんて何をか言わんや。


「屋根の下を借りてる上に血まで頂くのは気が引けない?」とは、苦笑したおにいちゃんの(げん)である。

闖入者(ちんにゅうしゃ)のくせに何言ってんだこいつ。

私の血を吸ってたらロリコンと(はや)し立てるつもりだったと言ったら、ものすごく愕然(がくぜん)とした顔で(しばら)く沈黙したあと、「みぃちゃん、そんな言葉どこで」と言われた。

その時は保護者気取りか、と思ったので軽くスネを蹴っ飛ばしておいた。


「みぃちゃん、やってしまったねえ」


丸よりかは、圧倒的にバツの多い私のテストの答案を()めつ(すが)めつ(なが)めながらおにいちゃんはそう言った。

小学校の五年だったか、確かそのぐらいの頃の事だ。

私の名誉のために言うと、断じて(れい)点ではない、(れい)点ではなかったはずだ。


「漢字は書くより読む方が楽ってのはよくわかるけど」

「……おにいちゃんはその分時間があるだけじゃん」


口を(とが)らせて私が言うと、おにいちゃんは半分困ったような(さび)しそうな不思議な苦笑を浮かべた。


「まあ、確かにそうだけど……その分忘れないようにするの、大変なんだぜ?」

「……」

「とりあえず、ゲームの前に書き取り、する?

 というか、しないとみぃちゃんも僕も母さんに怒られると思うんですが」


おにいちゃんの手には漢字練習帳と鉛筆。

変なの、と私は思った。

本当のおにいちゃんでもないのに、おにいちゃんは母さんに怒られるのがイヤだと言う。

確かに、母さんは怒ると怖いけど。


「暗示とかでどうにかしちゃえ、とか考えないの?」

「みぃちゃんの教育上、そこはよろしくないだろ」


はい、と漢字練習帳と鉛筆を渡される。

私は仕方なく、赤ペンで答えの入った答案を並べて、漢字練習帳を開き、おにいちゃん監視のもと、間違えた漢字の書き取りを始めた。


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