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おにいちゃんは少し目を見開いてから、しぱしぱと瞬きをすると、私の頭から手を放して、くつくつと笑った。
「……そうだね、みぃちゃん。
みぃちゃんは本当に頭が良い子だね」
気付いていなかった訳ではないだろう。
単におにいちゃんが私を侮っていただけだ。
それから、おにいちゃんはずっと醤油せんべいを持ったままだったことに初めて気付いたようで、ついでのようにそれを齧りはじめた。
「……おにいちゃん」
「はーに?」
ぽりぽりと醤油せんべいを齧りながら、おにいちゃんはそう言って、コントローラーを握った。
さっきまでの怖い空気は完全に鳴りを潜めていた。
その時点で、私はなんだか無性に腹立たしくなってきた。
「説明とか何もなしなの」
「んー、説明したところで、ねえ。
みぃちゃん、その感じだと父さん、母さんに言う気ないだろ?」
対戦結果だけが表示されていた画面が、おにいちゃんがボタンを押したことで、メニュー画面に戻る。
「それはおにいちゃんの説明次第」
「逆に説明しなければ絶対言わないってことでしょ。
あと、みぃちゃん一人中途半端に解けたところで、他の人の暗示がそう簡単に揺らぐことはないからね、経験則上」
ぽりぽりと醤油せんべいを食べ終えると、おにいちゃんは醤油せんべいを摘んでいた指先を舐めてからティッシュで拭いた。
そして、膨れる私の顔をしげしげと眺めてから、私の頬にぷすっとその長い指をさした。
「おにいちゃん!」
私の抗議の声に、おにいちゃんは少し面倒くさそうにため息をついた。
「……じゃあ、今は一つだけみぃちゃんの質問に答えたげるよ」
だから、私はおにいちゃんにこう尋ねたのだ。
「おにいちゃんはさ、何?」
おにいちゃんは私をじっと見て、数回瞬きをしてから、答えた。
「……そうだね、自分でも本当のところはどう言えばいいか、迷うとこだけど、吸血鬼、と言うべきなんだろうな、きっと」
その時のおにいちゃんの声は、木枯らしと同じ温度だった。