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ガルデニアの残り香  作者: 板久咲絢芽
回想 1 違和と怪物
6/44

4

おにいちゃんは少し目を見開いてから、しぱしぱと(まばた)きをすると、私の頭から手を(はな)して、くつくつと笑った。


「……そうだね、みぃちゃん。

 みぃちゃんは本当に頭が良い子だね」


気付いていなかった訳ではないだろう。

単におにいちゃんが私を(あなど)っていただけだ。

それから、おにいちゃんはずっと醤油(しょうゆ)せんべいを持ったままだったことに初めて気付いたようで、ついでのようにそれを(かじ)りはじめた。


「……おにいちゃん」

「はーに?」


ぽりぽりと醤油(しょうゆ)せんべいを(かじ)りながら、おにいちゃんはそう言って、コントローラーを握った。

さっきまでの怖い空気は完全に鳴りを(ひそ)めていた。

その時点で、私はなんだか無性に腹立たしくなってきた。


「説明とか何もなしなの」

「んー、説明したところで、ねえ。

 みぃちゃん、その感じだと父さん、母さんに言う気ないだろ?」


対戦結果だけが表示されていた画面が、おにいちゃんがボタンを押したことで、メニュー画面に戻る。


「それはおにいちゃんの説明次第」

「逆に説明しなければ絶対言わないってことでしょ。

 あと、みぃちゃん一人中途半端に()けたところで、他の人の暗示がそう簡単に揺らぐことはないからね、経験則上」


ぽりぽりと醤油(しょうゆ)せんべいを食べ終えると、おにいちゃんは醤油(しょうゆ)せんべいを(つま)んでいた指先を舐めてからティッシュで()いた。

そして、(ふく)れる私の顔をしげしげと(ながめ)めてから、私の(ほお)にぷすっとその長い指をさした。


「おにいちゃん!」


私の抗議の声に、おにいちゃんは少し面倒くさそうにため息をついた。


「……じゃあ、今は一つだけみぃちゃんの質問に答えたげるよ」


だから、私はおにいちゃんにこう(たず)ねたのだ。


「おにいちゃんはさ、何?」


おにいちゃんは私をじっと見て、数回(まばた)きをしてから、答えた。


「……そうだね、自分でも本当のところはどう言えばいいか、迷うとこだけど、吸血鬼、と言うべきなんだろうな、きっと」


その時のおにいちゃんの声は、木枯(こが)らしと同じ温度だった。

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