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ガルデニアの残り香  作者: 板久咲絢芽
薔薇の下に埋め戻す結句
43/44

梔子の残り香と共に

結局、どんなに難しい理屈を並べ立てたところで、おにいちゃんは、ただ死ぬために、満ち足りるために、誰かを愛し、愛されたかったのだ。

なんとも回りくどい。

なんとも回りくどいけれど、そこに辿(たど)り着くまで、それ以上の回り道をおにいちゃんはしてきたんだろう。


けれど、()たして、私にその「誰か」という大役(たいやく)(つと)まったのか。

本当の結末を知っているのはおにいちゃんだけで、そのおにいちゃんはもういない。

テレビゲームに(きょう)じたり、冗談を言い合って笑い合ったりも、もう二度とない過去の時間。

誰もおにいちゃんを記憶していない以上、私だけの薔薇の下(秘密)傷痕(きずあと)のような宝物。


おにいちゃんの部屋を探していた時、そのメモは他のメモと違って、紙束(かみたば)の山から離れたところに、くしゃくしゃに丸めて投げ捨てられたように床に無造作(むぞうさ)に転がっていた。

唯一、ほとんどが日本語で書かれていたそのメモは、きっと、おにいちゃんが私に書き(のこ)そうとして、昔に(したた)めたものだったのだろうと、今では思っている。


そこに「(うれ)うことなかれ」と書かれていても、それはどだい無理な話というものであって、まして、こうしてこの唯一の傷痕(きずあと)をなぞるたびに、晴れやかとは言い(がた)くも、だからと言って陰鬱(いんうつ)と一言で済ませるには()(わた)った気持ちが()き上がる。


だから、たとえ、もうおにいちゃんが満ち足りていたのだとしても。

(とむら)いというほどしおらしくもなく、恋というほど甘いものでもなく、執着というにはあまりに呆気(あっけ)なく指の隙間から(こぼ)れ落ちる、感謝と呼ぶにはどこか()み合わない。


ぎこちなくも兄としてふるまってくれた、あの化け物の(さかずき)に、私はそんな感情を(かたむ)け、(そそ)ぎ続けるしかないのだ。


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