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ガルデニアの残り香  作者: 板久咲絢芽
閑話 Gardenia sub rosa――薔薇の下の梔子
41/44

散り

「おにいちゃん」


()れなのに、如何(どう)して(おび)えもせずに、()の子は()を見ているのだろう。

――如何(どう)して、()(おび)えているのだろう。


(まで)散々(さんざん)()きる(ほど)に、暗闇(くらやみ)(など)歩いて来たでは無いか。

今更、煉獄(れんごく)が地獄に変わった所で、何を恐れる事があろうか。

なのに、何故(なぜ)()の小さな灯火(ともしび)蹴倒(けたお)し、()(にじ)り、堪能(たんのう)する事を躊躇(ためら)っているのだろう。


「おにいちゃん、()ねてないなら何?」


()の真っすぐな視線と言葉を正面から受け止める事は、最早(もはや)()には出来無かった。


「おにいちゃん。私、何かした?」

「……何も、何もしてないよ……みぃちゃんは、なんにも悪くない」


(ようや)く、()れだけ返した。

そうだ、みぃちゃんは何にもして無い。

みぃちゃんは、(ただ)()が巻き込んだだけ。

働きかけたの(主体)()で、みぃちゃんはそれに対しての反応を返しただけだ。

力を入れ過ぎて、強張った手をなんとか自力で引き()がす。

今にも干乾(ひから)びそうな程に、喉が渇いていた。


「……ほんとに、そうかなあ」

「みぃちゃん?」


()の言い方は、再考しろと求めている訳では無いのだと、()ぐに分かった。

(ただ)の、反証の(ため)の前振りだ。

でも何故?


「……ほんとのほんとに最初から言うならさあ、たぶん私が気づいちゃったから、だよね。おにいちゃん」


みぃちゃんはそう、(ほの)かに笑い(なが)ら、(おだ)やかに言って首を(かし)げた。


「それは……」


()れは確かにそうかもしれない。

だが、()れを制御するだけの力は()には無かったし、みぃちゃんだって望んで気づいた訳では無い。


「だからさ、私は、その分の責任ぐらい、負うつもり、あるよ?」

「……………………みぃちゃん、何を、言ってるんだい」


何を言っているのか、(わか)ら無かった。

何の心算(つもり)で言っているのかも、(わか)ら無かった。

だから、問い返そうとして、でもみぃちゃんの()の目に何度か怖気(おじけ)づいて、(ようや)()れだけ口にした。

みぃちゃんは唇を(とが)らせると、仕方ないなあとでも言いたげな表情で口を開いた。


「というか、ずーっとしてきてるし、おにいちゃんもわかってるもんだと思ってはいたんだけどな」


みぃちゃんは()何処(どこ)かで見た事のある表情で見詰(みつ)(なが)ら続ける。


「だって、おにいちゃん、ずっとここにいるし」


()れは(ただ)此処(ここ)が仮説の実証をするのに適していそうだと、そう漠然と思ったからという、()れだけなのだ。

()れも(また)(はかな)い夢でしかなかったのだと、渇きを痛感している所なのに。

けれど、みぃちゃんは(ただ)温かく笑って、続きを口にした。


「おにいちゃんはおにいちゃんじゃん。たとえ何をしてたとしても、私にとってはおにいちゃんだよ」


()の場で()れを口にする意味。

――()れは、雷霆(らいてい)に打たれた様な、頭の天辺(てっぺん)から爪先(つまさき)(まで)を、(するど)(つらぬ)く衝撃だった。

(がら)では無いが、天啓、と言い換えても良いのかもしれない。


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