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ガルデニアの残り香  作者: 板久咲絢芽
回想 4 袋小路と果(はたて)
30/44

7

「……みぃちゃんは、なんにも悪くない」


(かす)れた声でおにいちゃんは、薄く(わら)ったまま言った。

おにいちゃんはいつもそうだ。

おにいちゃんは、自分は罪人などではない、と言ったけれど、なんでかそうやって自分一人が悪いように言う。

共犯者としては少し悲しかった。


「……ほんとに、そうかなあ」


だから、私がそう言うと、おにいちゃんは()らしていた目を、私に向けた。


「みぃちゃん?」

「……ほんとのほんとに最初から言うならさあ、たぶん私が気づいちゃったから、だよね。おにいちゃん」


私が気づかなければ、おにいちゃんはとっくのとうに本懐(ほんかい)()げていたのかもしれない、とその時の私は思った。

だが、本当にそうだったのかは、いくら私が振り返って考えても、わかるはずもない。


「それは……」

「だからさ」


私が気づいたのだから、私は。

――共犯者なのだから、私だって。


「私は、その分の責任ぐらい、()うつもり、あるよ?」


きょとんとおにいちゃんは私を見ていた。

そして、何か言おうとして、何度か口を開けたり閉じたりを繰り返してから、(ようや)く言葉を(しぼ)り出した。


「みぃちゃん、何を、言ってるんだい」

「というか、ずーっとしてきてるし、おにいちゃんもわかってるもんだと思ってはいたんだけどな。

 だって、おにいちゃん、ずっとここにいるし」


私が気づいてしまったことで、おにいちゃんが人でないと気づいてしまったことで、おにいちゃんがいなくなるぐらいなら。


「おにいちゃんはおにいちゃんじゃん。

 ()()()()()()()()()()()()、私にとってはおにいちゃんだよ」


――そう思うことにしたのだ。

人を害する化け物だったとしても、私にとっておにいちゃんは、闖入者(ちんにゅうしゃ)でも、家族で、共犯者で、長い時間を共にしたひとだった。

居心地のいい場所を守ろうとするのは、当然のことだ。


おにいちゃんは、ぽかんと口を開けて私を見ていた。

そのまま、どれだけ沈黙していたのだろう。

すっかり毒気の抜けたおにいちゃんの様子を見て、これでよしと思うと同時に、なんだかこっ恥ずかしくなって、今度は私がおにいちゃんから目を()らした。

()らしてしまった。


「……まあ、言いたいことは言ったし、夜も遅いから、私、寝るね」


そう言って(きびす)を返した私の耳朶(じだ)を、おにいちゃんの「みぃちゃん」と呼び止める声が(たた)いた。


「ごめんね」


どこか晴れやかなおにいちゃんのその声に、私は振り返って。

振り返ってしまって。


「おにいちゃん?」


振り返った視界の中。

少し離れた街灯の(かす)かな光と月に照らされた黒いアスファルトの上には、私以外の影は落ちていなかった。

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