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「……みぃちゃんは、なんにも悪くない」
掠れた声でおにいちゃんは、薄く嗤ったまま言った。
おにいちゃんはいつもそうだ。
おにいちゃんは、自分は罪人などではない、と言ったけれど、なんでかそうやって自分一人が悪いように言う。
共犯者としては少し悲しかった。
「……ほんとに、そうかなあ」
だから、私がそう言うと、おにいちゃんは逸らしていた目を、私に向けた。
「みぃちゃん?」
「……ほんとのほんとに最初から言うならさあ、たぶん私が気づいちゃったから、だよね。おにいちゃん」
私が気づかなければ、おにいちゃんはとっくのとうに本懐を遂げていたのかもしれない、とその時の私は思った。
だが、本当にそうだったのかは、いくら私が振り返って考えても、わかるはずもない。
「それは……」
「だからさ」
私が気づいたのだから、私は。
――共犯者なのだから、私だって。
「私は、その分の責任ぐらい、負うつもり、あるよ?」
きょとんとおにいちゃんは私を見ていた。
そして、何か言おうとして、何度か口を開けたり閉じたりを繰り返してから、漸く言葉を絞り出した。
「みぃちゃん、何を、言ってるんだい」
「というか、ずーっとしてきてるし、おにいちゃんもわかってるもんだと思ってはいたんだけどな。
だって、おにいちゃん、ずっとここにいるし」
私が気づいてしまったことで、おにいちゃんが人でないと気づいてしまったことで、おにいちゃんがいなくなるぐらいなら。
「おにいちゃんはおにいちゃんじゃん。
たとえ何をしてたとしても、私にとってはおにいちゃんだよ」
――そう思うことにしたのだ。
人を害する化け物だったとしても、私にとっておにいちゃんは、闖入者でも、家族で、共犯者で、長い時間を共にしたひとだった。
居心地のいい場所を守ろうとするのは、当然のことだ。
おにいちゃんは、ぽかんと口を開けて私を見ていた。
そのまま、どれだけ沈黙していたのだろう。
すっかり毒気の抜けたおにいちゃんの様子を見て、これでよしと思うと同時に、なんだかこっ恥ずかしくなって、今度は私がおにいちゃんから目を逸らした。
逸らしてしまった。
「……まあ、言いたいことは言ったし、夜も遅いから、私、寝るね」
そう言って踵を返した私の耳朶を、おにいちゃんの「みぃちゃん」と呼び止める声が叩いた。
「ごめんね」
どこか晴れやかなおにいちゃんのその声に、私は振り返って。
振り返ってしまって。
「おにいちゃん?」
振り返った視界の中。
少し離れた街灯の微かな光と月に照らされた黒いアスファルトの上には、私以外の影は落ちていなかった。




