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ガルデニアの残り香  作者: 板久咲絢芽
回想 1 違和と怪物
3/44

1

私がそれに気がついたのは、小学校四年生の時だ。


学校から帰って宿題を終えた私が、おにいちゃんとテレビゲームをしていた時だ。

それもおせんべいをかじりながら。


行儀悪(ぎょうぎわる)くおせんべいを(くわ)えながらコントローラーを握るおにいちゃんと、連敗してムキになってコントローラーを握りしめる私と。

……今もって考えると、あの美貌(びぼう)でまんまるの醤油(しょうゆ)せんべいを(くわ)えていたおにいちゃんはシュールに過ぎる。


とりあえず、あとはどっちか必殺技決めた方が勝てそう。

そんな時だったのだ。あまりにタイミングが悪すぎる。

いや、そもそもおにいちゃんに目をつけられたという時点で、私は運がないのかもしれないけど。


冷たい水を頭から(かぶ)せられて、目が覚めたような感覚だった。

あるいは、ずうっと水中に(もぐ)っていて、酸欠で朦朧(もうろう)とした頭が水面から出て、新鮮な空気を吸ったような、そんな感覚だった。

ひんやりと(するど)さのあるものが、頭のてっぺんからお腹の(あた)りまでくだり落ちるような、そんな衝撃に私は動けなかった。

動かせなかった。文字通り、指先一つ。


おにいちゃんは当然のように、私の操作キャラに必殺技をかまして勝ってから、凍った(フリーズした)私に気がついた。


「みぃちゃん?」


(くわ)えていた醤油(しょうゆ)せんべいをはなして、おにいちゃんは私の顔を(のぞ)き込む。

ぎくり、とかろうじてできていた呼吸すら止まる心地だった。

白皙(はくせき)美貌(びぼう)(つや)やかな青に(うる)む黒髪。

母さんにも、父さんにも、私にも似ていない。

それは当然だ。

だって、この隣りにいる男は私のおにいちゃんなんかじゃない。


――私に、おにいちゃんなんかいない。


それでも、確かにあれはおにいちゃんだと頭の中で何かが言う。

いや、待て、おにいちゃんの名前は? ――出てこない。

いやでもこれは私のおにいちゃんで、私におにいちゃんなんかいない。


「みぃちゃん」


ずっと聞いていると眠くなってくるような、絵本を読み聞かせするような、少し平坦で落ち着いた心地いい深みのある声。

固まる私の目をじっと見つめたまま、おにいちゃんは言った。


「気がついちゃった?」



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