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ガルデニアの残り香  作者: 板久咲絢芽
回想 4 袋小路と果(はたて)
27/44

4

あの時から、気づいた時点から、(すで)にそうだったのだ。

おにいちゃんはおにいちゃんでしかない。

少なくとも、この化け物は私に「おにいちゃん」として根ざしてしまった。

その期間が長過ぎた。

()()み、とも言えるのかもしれない。

だから、私はあの時も今も、あの名前も知らない化け物を、おにいちゃんとしか呼べない。


「…………」

「おにいちゃん?」


呆然(ぼうぜん)と黙ってしまったおにいちゃんの顔を(のぞ)き込むようにして、私はココアのマグをテーブルに置いた。

その時のおにいちゃんの目は、いつぞやのバレンタインデーに見た時の、静かながらに高熱を帯びた熾火(おきび)のような目ではなく、風に揺らぐ()()ない、か細い灯火(ともしび)のような目だった。


「……それ、は」


ようやく(しぼ)り出したような声は、いつものおにいちゃんの柔らかな声とは程遠い、固くて寒々(さむざむ)とした声だった。

そんなおにいちゃんを見たのは初めてだった。


「それは……それは、ああ、そうか、()、は」


吐息が大半を()めた(つぶや)きの一人称は、聞き覚えのないものだった。

普段とは明らかに違うおにいちゃんに私が戸惑っていると、おにいちゃんは私を見ないまま、一瞬だけ困ったように()()()、それからいつもの(おだ)やかな笑顔を浮かべた。


「ああ、ごめん、みぃちゃん」

「……」


おにいちゃんがそうだと気づいた時よりも、あのバレンタインデーの時よりも、それまでの中では一番()のおにいちゃんだったんだろう。

私の視線にいたたまれなくなったのか、おにいちゃんは私から目を()らして立ち上がって、「紅茶を()れてくる」と言ってカップを取りに行ってしまった。


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