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おにいちゃんが死んだ時、私以外の人間は、暗示で仕掛けてある通りに忘れるだろうとおにいちゃんは言った。
ただ、暗示がほとんど解けている私は忘れない可能性が高いから、とも。
だから、はっきりとおにいちゃんは私に忘れていいよ、と告げた。
――本当に、おにいちゃんは何がしたかったのだろう。
見るなの禁忌。
敢えて見ることを禁止することにより、それを意識させ、多くの物語において、それをなし得させてしまう。
それはあくまで代表が見ることなだけであって、見ることのみに留まらない。
強制することで、その反対が行われる傾向とも言える。
おにいちゃんは、私に「いいよ」と、許可しただけだった。
それでも、意識するには十分だった。
「おにいちゃんの言う仮説って何?」
高校二年生になった冬。
私は淹れたてのココアを片手にそう訊いた。
おにいちゃんの目的を知ったその時は、おにいちゃんはその時の私でも難しいと思うから、と仮説は教えてくれなかった。
「唐突だね」
おにいちゃんは眼鏡越しに私を見た。
おにいちゃんがいつの間にかかけ始めた眼鏡は、黒縁のシンプルなもので、目が悪くなることがあるのか、老眼か、と私が問うと、イメチェンと返ってきた。
にこにこと笑いながら曰く、みぃちゃんも飽きてきたでしょ、美人は三日で飽きるとか言うし。
……無言で一発だけ殴るに留めた私を褒めて欲しい。
「だって、おにいちゃん。全然説明してくれない」
「……説明する気、ないしねえ」
おにいちゃんはそう言って文庫本片手に首を傾げた。
「気になるじゃん」
「……そんなに気になるなら、僕のメモを解読してみればいいよ。
生きてる限り、みぃちゃんに見せる気もないけど」
「それ、私が見れない可能性のが高くない?」
「はは、そもそも、単なるメモランダムを他人に分かるように書いてると思うかい?」
私が目的を知った時には難しすぎるから、とはぐらかしておきながら、実際に教える気は微塵もなかったらしい。
当然ながら、こちらとしてはカチンと来た。
おにいちゃんはそれを察して、ため息をつくと、口を開いた。




