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「おにいちゃんさあ、なんでうちだったの?」
「……」
単なる疑問でしかなかった。
それ以上でも、それ以下でもなかった。
それは、ちゃんと私の声にも乗っていたと思う。
黙ってごりごりと咀嚼したクッキーを飲み込んで、それでも暫く黙ったまま、おにいちゃんは何度か瞬きをした。
「……そうだな。うーん、ダメだ。どうやっても、こればかりは後付けの理由にしかならないよ」
「つまり、衝動的かつ通り魔的犯行と解釈してオーケー?」
「……反論もできないけど、人聞きが悪いなあ」
どうしてこうなったかなあ、と独り言ちながら、おにいちゃんはまたクッキーを摘んだ。
それは狐色というには、やや茶に寄っていて、やっぱり焼きすぎだったんだろう。
「……おにいちゃんは、何がしたいの?」
目的を問うと、おにいちゃんは返事をせずに、またごりごりと暫く焼きすぎたクッキーを噛み砕いていた。
そのまま嚥下して、今までのお巫山戯が鳴りを潜めた顔で、自分の膝の上のチョコとクッキーの山を暫く見つめてから、コートと制服を着替えに行こうともせずに待つ私を見上げた。
逃げられないと観念したのだろう。
「それ、訊いちゃう?」
色の白いは七難隠すとかおにいちゃんは言ったけど、こういう時に凄みを増すのも、また美貌だった。
その顔を至近距離で見る事に慣れている私も、さすがに一瞬だけ躊躇って、けれどもそれは結局一瞬だけだった。
「訊いちゃう」
「そっか。うん、丁度いい頃合いかもね」
長話になると察した私は、おにいちゃんの座るソファの肘掛けに腰掛けた。
「……僕はね、大枠で言えば、人間に戻る方法を探してるんだよ」
それは、随分と含みのある言い方だった。
「大枠ってどれぐらい? 牧場の囲いくらい?」
「辛辣だなあ。大判の額縁ぐらいだよ」
それでもかなりの大枠だろうそれは、と私は思った。




