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「まあいいや。みぃちゃんには僕がそう見えてるわけだ。
たとえ、僕が大昔に死んだ生ける屍であっても」
「……うん」
「もしかすると、ほんとはゾンビみたいに腐ってるかもしれないよ?」
「そんな、そんなことは」
ない、と私は断言できなかった。
それでも、私の視界に異変が起きることはなかった。
そんな私の様子を、頬杖をついたおにいちゃんが楽しそうに見ていた。
「ない、とは言えないんだね?」
「でも、おにいちゃんはいつものおにいちゃんだよ」
「そうだね、僕も僕の身体が腐ってるとか、これっぽっちも思わないし」
おにいちゃんは見せつけるように、その指の長い白い手を広げてひらひらと振る。
「でもみぃちゃん、今みぃちゃんはすぐに答えられなかった」
「それは」
「みぃちゃんは今見てるものを疑った。
いや、責めてるんじゃないよ。それは正しい。
そういう風に僕が誘導したのだからね」
おにいちゃんは、とてもとても楽しそうに話していた。
「みぃちゃん、確かに本当は僕の目の前にも、みぃちゃんの目の前にもあるよ。
でもね、それを僕ら自身に認識させるのはそれぞれの目で、それぞれの耳で、それぞれの鼻で、それぞれの肌で、それぞれの舌だ」
「……」
「難しいかな。
みぃちゃんの目はみぃちゃんの目であって、僕の目ではない。
僕の舌は僕の舌であって、みぃちゃんの舌ではない。
そして、観測結果は観測結果であって、そこにある世界そのものではない。
何においてもそうだ」
ちろりと赤い舌を覗かせて、おにいちゃんは言った。
そして、脇に置いていた数本の鉛筆の中から一本を手にして、私に見せるようにかざした。
「みぃちゃんの見てるものと僕の見てるもの、言葉の上では同じ鉛筆だったとしても、それは本当に同じ形に見えているのかな、本当にそんな形なのかなってことだ。
まして、心頭滅却すれば火もまた涼しと言うように、思い込みである程度の範囲はどうとでも変わる。
それこそ催眠術とか最たるものだ。
本当がそこにあっても、僕やみぃちゃんの目や耳を通した時点でそれぞれの頭の中にしかないんだよ」
「……」
今ならわかる。
自分の見ている現実も聞いている現実も全て全て、感覚器官を経て脳内で再構築された画像と音声でしかなく、その感覚器官は他の誰でもない私だけのものと、今の私は理解している。
つまりは、クオリアのことをおにいちゃんは語ったのだ。
でも、当時の私は、そんなこと理解できるはずもなかった。




