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ガルデニアの残り香  作者: 板久咲絢芽
回想 2 来し方と嘘つき
12/44

5

「同時に、そういった点がはっきりしていてかつ目の前に実体……触れる形でいて自分で動いているなら、普通は死んでいるなんて思わないだろ?」

「……うん」


死んでるなんて、告白されて確かめるまで思わなかったのだから。

そもそも、私はこの時まで、吸血鬼は吸血鬼という生き物だと思っていたのだ。

というか、普通の小学生はよっぽどその手の道に傾倒していなければ、そんなもんだと思う。


「それだけで、他人は無条件に僕を生きてると思い込んでくれる。

 生きてるなら当然それなりの体温があるし、脈もある。

 でもさっき、僕はみぃちゃんにはっきりと言ったよね」

「うん、すでに死んでるって」

「そう、それでみぃちゃんは思ったはずだ。

 そんなことないと思うと同時に、(すで)に僕が吸血鬼で周囲を(だま)していると知ってるみぃちゃんだからこそ、そんなこともあるかもしれないって」


確かにそんなことちょっと思ったかもしれない、と思った。

結局、今思えばほとんど無意識に近いレベルだから、その思考の動きを認識できたかというと、絶妙に微妙なのだけれど。


「そうして疑ったから、みぃちゃんは僕を生きてるとは認識しなかった。つまり脈も体温も感じなかったんだよ」

「……でも、普通触ったら気付くんじゃないの?

 思い込むって言ってたけどさ、触ったら思ってたのと違うってならない?」

「それが面白いところだよね」


おにいちゃんは前に私が正体に気づいた時と同じように、(あざけ)ると言うには毒気なく、微笑(ほほえ)みかけるというにはあまりに(ひと)りよがりな、その言葉の通り面白がっているような笑顔を浮かべた。


「みぃちゃん、心頭滅却(しんとうめっきゃく)すれば火もまた(すず)しって言葉があるだろ?」

「うん、夏の暑い時に男子が叫んでた」

「……それは覚えたての語を使いたい年頃だろうな。

 まあいいや、意味は知ってる?」


うん、と私が言うと、おにいちゃんはにこにことしながら、続ける。


「みぃちゃん。みぃちゃんが見てる世界は、聴いてる世界は、触ってる世界は()()かな」

「へ?」


何を言ってるんだろう。

少なくともその時はそう思った。


「みぃちゃん。みぃちゃんには僕がどう見えてる?」

「どうって……なんていうかとてもきれいな黒い髪してて、人形みたいなきれいな顔で、あとおにいちゃん目もきれいだよね」

「うーん、圧倒的に語彙(ごい)(とぼ)しい……」


今思えば、思った事を()べただけの小学生に何を求めてんだ、失敬(しっけい)な、という案件である。

というか、めちゃくちゃ褒めてやったのに(ひど)くないか。

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