表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガルデニアの残り香  作者: 板久咲絢芽
回想 2 来し方と嘘つき
10/44

3

「おにいちゃんさ、ヨーロッパの()()って言ってたけど、なんで?」

「時間だけは沢山あるけど、その分大量の思い出があるわけでね、みぃちゃん」

「……ボケ?」

「そういうわけではない。そういうわけではないよ、みぃちゃん。

 僕は認知機能が(おとろ)えてるわけではない。

 というか(おとろ)えやしないからオーバーフロー気味というか、その結果の今というか……ああ、いやこれはこっちの話」


わざと言ったのだけど、少しムキになっておにいちゃんは返してきた。


「まあいいや、よく覚えてないってことなんだもんね」

「……そもそも国として残ってないと思うけどね」


あの(あた)りは国の入れ代わり激しかったし。

そう(つぶや)いた割に、おにいちゃんは覚えてないこともあってか、さほど懐かしむわけでもなく、どちらかというと淡々としていた。


「やっぱり吸血鬼って本当に不老不死なんだ」

「うーん……それはちょっと違うんだなあ」


そう言いながらも、おにいちゃんは目敏(めざと)く私の間違えた漢字を指差して続けた。


「逆なんだよね」

「逆?」

「そ。だって、僕は(すで)に死んでるから」


私は素早(すばや)く間違えた漢字を指しているおにいちゃんの手をとって、テレビで見たことがあると思った脈の位置に指を当てた。


「みぃちゃん、ズレてる。もそっと左」


面白がるような声音でおにいちゃんはそう指摘した。

けれど、それで位置を修正したとしても。


「……わかんないや」


結局、自分の脈を(はか)ったこともないのに人の脈、しかもたぶん脈がない(注:慣用句でない)人の脈なんて分かるわけがなかったのである。

おにいちゃんは逆に、手を(はな)した私の手をとって、迷うことなく私の手首の一点に指先を置いた。


「ここだよ」


おにいちゃんの手はひんやり冷たかった。

おにいちゃんは少し目を細めてから、今度は私の手をひっくり返して、私の指先を自身の手首の一点に置いた。


「……ほんとに、ないの?」

「そうだよ。生きてれば、ここが脈打ってる。

 みぃちゃんのそれと同じように」


どこか底冷(そこび)えするような冷たさを指先からも、(つか)まれた手の甲からも感じながら、私はそこになんの動きも感じなかった。

だから、脈の位置が本当にそこなのか、その時にはわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ