独白の切り出し
おにいちゃんの話をしようと思う。
きっとこのままでは、私は袋小路にいるままだから。
この思い出がまだ――既に色褪せてるにせよ――鮮やかなうちに、墓碑のように何処かに刻み込まなければ。
おにいちゃんは何でもないように「忘れていいよ」なんて言いやがっていたが、絶対に忘れてなどやるものか。
それが私のことを心配したのだとしても、忘れてなどやるものか。
「見るなの禁忌」のような事態を狙ったのではないということだけは、信じてるけど。
そもそも「おにいちゃん」なんて呼んでいても、おにいちゃんと私は、本来赤の他人だ。
再婚とか連れ子とか養子とか、そんなワードは一切関係ない。
というか、あれは身も蓋もなく言えば、「闖入者」だ。
なんの断りもなく、私達家族の、父さんと母さんと私の中に入り込んで、それらしい役割を自身に宛てがい、それを周りの誰しもの脳に焼きつけた。
本人は暗示だと言っていた。効き方は個人差があって、私のように解けるのが早い場合もある、とも。
私達家族の誰にも似ていない――そりゃそうだ――綺麗な人形のような顔で、声を荒げることなどなく、穏やかに控えめに、不自然ではない程度に家族の会話に混じっていた。
水よりもほんの少しとろみがあるような、心地いい声で「みぃちゃん」と私を呼んでいた。
私と一緒にテレビゲームに興じたり、馬鹿みたいな話の相手をしてくれたりもした。
闖入者であっても、おにいちゃんがいなければいわゆる鍵っ子だった私にとっては、ちゃんとした家族の一人だ。
さいごまでそれを、はっきりとは言えなかったとしても。