魔法の開発
その後、俺達は地上へ戻って踏破報告を冒険者ギルドへ行い――ただ隠し通路を使用しての攻略であるため、ダンジョン内にはまだ魔物がいる。よって、未踏破の場所を調べ回ることとなった。
俺達はそれに加わり、なおかつニックもまた同様に……勝負に負けた憂さ晴らしなのかどうか不明だが、ここでもニックが結構頑張った。結果を言えば、想定していたよりも短い期間でダンジョン全体の構造などを把握することができたし、魔物も殲滅できた。
そこから、ダンジョン内を検証するため騎士が訪れる……その目的はここで得られた魔族の資料を運び出すこと。さすがに量が多いため、騎士はかなりの人数動員され、なおかつ何日も掛けて運び出した。
その一方でレーテは沈黙を守り、作業を無言のまま見続けた……彼女としては命令を遵守しようとしたようだが、こうなってしまってはどうにもならないと、どこか諦めたような顔をしていた。
一応彼女のことについてはギルドにも報告したのだが、最終的に放置された……まあ彼女自身誰かに攻撃していたわけでもないし、俺やミリアが面倒見ているから大丈夫だろうという感じになっているようで……やがてダンジョンの魔物がゼロなり、なおかつ全ての資料などを回収した段階で、ダンジョン攻略完了の宣言が成された。
「というわけで、改めて俺の勝ちだが」
夜、ニックのパーティーと食事を共にして俺は言う……ダンジョンを完全に攻略し終え、いよいよ出立する前日。これまで夜になると一緒に食事をしていたわけだが、俺が勝利したことを改めて告げるとニックは悔しそうな顔をした。
「そうだな……勝者として何か要求はあるか?」
「いや、別に……まあそうだな、今度は酒場かどこかで一緒に飲むか」
「別にここを出立したらやってもいいけどな?」
「散々やっただろ……ニック達は、別のダンジョンへ向かうんだろ?」
「ああ、既に情報は得たからな」
――彼はダンジョン攻略と並行しながら別の情報も漁っていた。結果から言うと、聖王国南部に新たなダンジョンが出現したとのことで、ニックはそちらへ向かうつもりのようだった。
「しかし、今更ながら新たなダンジョンか……魔王は倒したというのに、まだまだ戦いは続くな」
「ディアスとしてはどう考えている?」
「ダンジョン出現について? 魔王の意思を継いだ、とかテキトーなことを言って聖王国内で勢力拡大を目指しているとか、そういう感じじゃないか?」
「はた迷惑だな」
「ああ、まったくだ」
酒を飲みながら俺は応じる……さて、ニックとの遭遇を経てダンジョン攻略に勤しんだわけだが、次はどこへ向かおうか。
今回の一件で、俺達は結構な報酬を得た。ダンジョンを踏破したことで報酬も存分に得られたし、なおかつミリアの魔族としての気配を隠蔽する……そうした魔法も完成した。
それを彼女に教えたところ、俺でも気配に気付くことが難しいレベルにまで魔力を変質することができた。彼女にやり方は教えたので、これで魔族であることをバレるリスクは極限まで減ったことになる。
ただ、この魔法を知って思うことが一つ……おそらくダンジョンの主である魔族は、人間を調査してこの魔法を開発したのだろう。十数年前、魔族が滅んだ段階で相当な資料が残されていた。それを踏まえると、もっと前からダンジョンは生み出され、調査を進めていたのだろう。
そして魔力を変質させるこの魔法は、気配で魔族と気付くことができないため、扱い方を上手くすれば凶悪な効力を持つ。例えば、魔族であることを悟られることなく攻撃できる……幸い、研究途中で魔族は滅んだため、日の目を見ることはなかったのだが、
「……本当、運が良かったんだろうな」
俺はそんな感想を抱いた。と、ニックが騒ぎ始めた時、冒険者ギルドに所属する人間が近寄ってきた。
「ディアスさん、少しいいですか?」
「ああ、構わないけど……どうした?」
「資料などの回収は全て行ったので、明日にでもダンジョンを消し去ろうと思います」
……ダンジョンそのものについてだが、魔法によって構築されているなら完全に消すことができる。その仕組みなどについて解析し、土地に影響を残すことなくダンジョンを消すことができる手順を整えた。
となれば、ダンジョンにいるレーテについても消える……元々、資料を滅すると共に自分もまた消えようとしていたのだ。滅ぶタイミングが少し伸びただけなのだが、
「それじゃあ最後に一つ、中に唯一残っているレーテと朝一番に話をしてくる」
「はい、わかりました」
その言葉は予期していたのだろう。相手は二つ返事で了承し、この場を立ち去った。
俺はミリアやアルザに明日レーテに会いに行くことを告げ、二人も同意。やがてニック達が騒ぎ疲れるまで俺達は付き合い……やがて、ダンジョン攻略最後の夜は、穏やかに流れていった。




