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仲間意識

 ミリアと旅を開始しておよそ十日後、俺達は酒場で妙な話を聞いた。


「……魔族が出現している?」

「そうだ。魔王を倒して魔族がおとなしくなると思ったんだが……」


 男性冒険者はそう語る。戦勝ムードに水を差すような出来事であるためか、彼の表情は渋い。


 ――王都から南へ進み、辿り着いた町の名はメイレテ。ここは東西南北に大きな街道が走っている交易の中心地で、盛んに取引している商人達を横目に、一日くらい町に留まって休憩しようかなんて思っていたのだが……酒場で食事をした後、同業者に周辺の情勢を聞いたらそのような返答が来た。


「魔界から入ってきたのか、それとも元々入り込んでいたのかわからないが、突然西側にある山に拠点が築かれて、魔物がウロウロしているらしい」

「西……」


 西に伸びる街道は、山に沿う形で作られており、山で採れた作物や、鉱山から出た金属やらがこの町へと下りてくる。街道の終着点は山を迂回した先の港町。海を隔てて魔界が存在しているため、そこは軍港として魔界を警戒しているのだが――どうやら町と海を隔てている山に、魔族がいるらしい。


「それ、いつからだ?」

「わからない。最近活動し始めたにしろ、拠点なんて一朝一夕にはできないだろ? だから、結構前からいたことになるかもしれないが……」

「なるほど、情報ありがとう」


 男性は去って行く。それを見送りつつ、俺は横にいるミリアに言及。


「どう思う?」

「……そういえば、魔王が攻撃を開始する少し前、複数の魔族が何か動いていたような気が……」


 その言葉で、俺は一つ推測する。


「もしかして魔王は本格的に侵略しようとしていたのかもしれないな」

「どういうこと?」

「魔王自身、さすがに自分が動いてやられるわけないと考えるだろ。こちらは精鋭部隊だったけど、それを蹴散らして王都へ進軍……当然、王様なんかは逃げるだろ。それに対し事前に聖王国に潜ませていた魔族が姿を現して動きを止める」

「なるほど……つまり、魔王が侵略しようとして、事前に潜入していた魔族ってことか」

「でも魔王は滅びた。その事実を知った魔族は仇討ちか、それとも好き勝手にやるのか……まあどちらにせよ活動を始めた」

「そういう経緯だとしたら納得がいくけれど……首を突っ込む気なの?」


 俺の様子からそんな風に感じたらしい。それに対しこちらは、


「ああ。ただミリアはこの町に――」

「私もついていくわよ」

「……それは、一緒に戦うのか? 同胞相手だぞ?」

「ええ」


 あっさりと頷くミリア。ふむ、これは思うところがあるらしいな。


「自ら戦うことに意味はあるのか?」

「魔王の侵攻について否定的だと言ったはずだけれど、もう終わっているのに無駄な血が流れるのは……ね。それに、ここで魔族が大暴れすれば、さらに私達の心証が悪くなるし」

「だから戦うってわけか。ま、そういうことなら一緒にやるか」

「仕事として請け負うの?」

「冒険者ギルドが討伐命令をしていれば。そうでなくても魔族相手なら倒した後で報告すれば報奨金は出るだろ……まあ、別に金目当てというわけでもない。被害が出る前に片付けよう」


 ――酒場を出た後に冒険者ギルドを訪れ調べると、既に国の騎士団が動いているとの情報が。俺達はそれに手を貸すという形で仕事をやることに。


「主役は騎士だけど、敵の戦力をあぶり出して、いけそうなら拠点へ踏み込むか」

「ずいぶんと気軽ね……」


 呆れたように呟くミリア。それに俺は肩をすくめ、


「戦いしか能がない人間だ。このくらいは、な?」

「……私に手伝えることはある?」

「もちろん。戦う気なら、俺の能力が一番活かされる。なぜなら俺の本領は味方支援だからな」


 その言葉にミリアはじっと俺を見る。何か聞いたことがあるのだろうか?


「そういうわけで、早速現地へ向かおう。なんだか慌ただしくなっているけど――」

「別に構わないわ。魔族相手なら早急に動いた方が良いだろから」

「なら、早速町を出よう」


 仕事を受けていくらか準備をして……数時間後、俺達は町を離れ魔族がいる西へと進路を向ける。その道中、ミリアは一つ俺へ質問した。


「あなたの旅に、この一件は意味があるのかしら?」

「自分探しの旅か? まあ、直接的に関係はなさそうだけど……決して、意味がないわけじゃない。それに、俺は自分の能力が役立つなら……という思いもあるし」

「そうやって戦いつつ、自分探しをやると」

「正解だ。ま、別に焦らなくてもいいんだ。魔王を倒し、それでも騒動を起こすヤツを成敗しながら、ゆっくり自分のあり方を考えればいいさ」

「なんだか軽い感じだけど、魔王が密かに配置していた魔族よ? 勝てるかしら?」

「その辺りは、現地に行ってから確かめるとしようじゃないか」


 そんなやりとりを交わしつつ、俺達は山へと進む。気付けばミリアとも馴染み、今回戦うということで仲間意識も芽生え始めたのだった。


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