資料精査
――魔族はダンジョン上層部を構築するだけでなく、どうやらこの場所で色々な研究をしていたらしい。資料を掘れば掘るほど魔法関連の情報も得ることができた。
そうして得られた情報の中に、各階層の守護者に関する情報もあった。ただ、その能力などについては、
「ダンジョンに満ちる魔力の影響を受けて強化されるみたいだな」
資料に目を通していると俺はそういう結論に達した。
「さすがに魔物が体内に蓄積できる魔力量には限界があるはずだし、無限に強くなるわけじゃない……俺達はダンジョンを攻略中だが、冒険者達は魔物を倒しているわけで、年月に応じ比例して強くなっているにしても、限度がありそうだ」
もしダンジョンの存続期間と合わせて魔物が強くなっていたら……相当ヤバいことになっていたはずだ。
そこで、俺の発言を受けミリアが声を掛けてきた。
「魔物の能力についてわかる情報は?」
「さすがに数値化とかはしていないし、特性なども決めていない……たぶんだけど、このダンジョンを作成する際に守護者は配置したんだろうけど、具体的に能力を決めるより前に、滅んでしまったんだと思う」
「だとすれば、守護している魔物は……」
「異界化に伴って膨れ上がった魔力によって強化された……戦法そのものはシンプルかもしれないが……いや、面倒なのもいるな」
それは第八層と第九層の魔物について。
「詳細はないけど、下層二つの守護者は魔物を作成する権限を付与しているらしい」
「第八層以降は守護者を倒さない限り魔物が湧き続けるということね」
「さすがにダンジョン内が魔物によってすし詰めになるということはないだろう。無限に魔物を生み出せてしまったら、魔物を維持するために大量の魔力を必要とする。いくら異界化して魔力が潤沢にあっても、さすがに魔物が大量にいたらもたなくなる……ダンジョン構造などを綿密に設計している魔族である以上、数などは制限しているはずだ」
「だとしても、魔物が存在し続けるのは厄介ね……」
「そうだな。ともあれ、俺達の方針としては密かに隠し通路を使って、最深部まで向かうというのがよさそうだ」
「でも、私達だけで第八層へ向かうのなら、隠し通路を見つけるまで大量の魔物と戦うことになるわよ?」
「敵の数次第ではあるけど、守護者と戦うわけではないし、必要最小限の戦闘で済むと思う……それと、もう一つ興味深い記述を見つけた」
俺はここでテーブルの上に資料を広げた。
「これを見てくれ」
こちらの言葉によって、ミリア達は文面に視線を落とした。
「魔族は自分の魔力の質……表層部分だけ、変える魔法を開発していたようだ。そしてこれは、対人間に開発され、もし完成していれば魔族特有の気配を隠すことができるみたいだ」
「……これは」
ミリアが声を上げる。それに対し、アルザは疑問を呈した。
「ディアス、魔族は何でわざわざそんな魔法を?」
「ダンジョンを管理するだけではなく、人間の情勢などを調査する役目を持っていたんだろう」
「つまり、諜報活動?」
「そういうこと。このダンジョンを作成した魔族は決して強くなかったが……ダンジョンや魔法の作成能力を評価されて、魔王から密命を帯びていたのかもしれない。ダンジョンを軍事拠点とするだけではなく、この場所を足がかりにして何か……聖王国の中央部に魔族の影響を加えようとしていた、という可能性も出てきたな」
「魔族が滅んでいなければ、今頃厄介なことになっていたかもしれない、ってこと?」
「まさしく。このダンジョンが魔族の手によって完成していたなら、ここまで順調に攻略することは難しかっただろうな」
そう告げた後、俺はミリアへと顔を向けた。
「ミリア、これを上手く利用すればミリアの気配を完全に隠蔽できるかもしれないぞ」
「その魔法を完成させるってことかしら?」
「俺なりのアレンジは施すけど……資料を見る限り、かなり完成に近づいていたみたいだ。魔族が生み出したものだし、期待が持てる……これについては、地上に戻っても検証したいな」
俺は魔力変質に関する資料を懐へ収める。
「他に得たい情報はあるかな?」
問い掛けに対し、答えたのはミリア。
「資料はまだあるし、可能な限り調べてみたい欲求もあるけど……」
「まあ今日くらいは調べてみるか。もしかすると、下層に関する情報などが得られるかもしれないし」
「より核心的な情報を得ることができたら、一気に攻略を進めるということでいいのかしら?」
「ああ、それでいい……とはいえここに来て時間もそれなりに経過した。一度戻って攻略状況なども確認しようか」
その提案にミリア達は頷き、俺達はひとまず地上へ戻ることにした。




