情報戦
隠し通路を一つ発見した後、アルザの能力を利用して地面をくまなく探してみる。結果、他にも同様の通路があった。それらを全て掘り返すつもりはなかったが、この事実により一つ結論を得ることができた。
「下層に同じような仕掛けがあるとしたら、階段を守る魔物をスルーできるかもしれない」
その言葉にミリアとアルザは頷いたが……ミリアが俺へ質問する。
「……これ、冒険者ギルドに報告するの?」
「競争する場合、ニックにもこの事実を知らせることになるな……まあ、出し抜くためにあえて情報を秘匿するというのも戦術の一つだけど……」
「ひとまず黙っていようよ」
と、アルザが提案をした。
「私達は競争をするためにここにいるわけだし」
「ギルドとしては、有益な情報だろうから欲しいと思うけど……ま、情報を渡すかは個人の判断だし、お宝の争奪戦では情報で出し抜いた人もいた。有益な情報ということで、少し黙っていようか。とはいえ、リスクもある。場合によっては未踏破の場所へ入るわけだから。それに」
俺は地面を見据えた後、
「競争のためにアドバンテージを得ようとするなら、隠し通路を探している姿を見つけられないように……怪しまれないよう行動する必要性があるから、そこは注意してくれよ」
そして俺達は最後に一つ確認をする。隠し通路が果たしてどこに繋がっているのか……それを確認するために、まずは正規ルートでダンジョン内を歩いて構造を確認する必要がある。真下の階層に行くだけでなく、階層を飛び越えて通路が繋がっているのか……それを検証するためには、各階層についてどんなものなのかを確認しておかないと。
「今日はこの隠し通路について調べることに終始しそうだな……ミリア、ひとまず未踏破の場所を調べるのは中止。まずは隠し通路について確認するため、ひとまず攻略済みの階層まで下りてみよう」
俺の言葉にミリアやアルザは頷きつつ……付き従うように、俺と共にダンジョン内を探索し続けた。
時刻は昼を回り、さらに階層を下りとうとう第五層まで辿り着いた。下に行けば行くほどダンジョンの作りが複雑になっているので、未踏破の場所も多くなっているようだった。
そのフロアはまるで城のような建物の中。魔法の明かりによって照らされ、迷路のような構造となっている。
「ここまで手の込んだことをする必要なんてないだろう、って感じだけど……」
俺はそう呟きつつ、ようやく転移ゲートがある場所まで到達した。そこは第六層へ繋がる階段前。多数の冒険者がいて、色々情報のやりとりをしていた。
「ニックと彼の仲間は……いないか」
「下で戦っているようね」
と、ミリアが俺へ向け呟いた。
「階段下から戦闘している音が聞こえる」
「そうか……それじゃあ一度戻って通路についてさらに調べる……と、その前に質問が」
「何かしら?」
「ここまでのダンジョンについては一通り見て回った。結果、俺達は隠し通路を見つけたわけだが……それが下層も同じようにあるかどうかはわからない」
「そうね」
「でも、もしあったのなら……ニック達を出し抜いて、最下層までたどり着けるかもしれない。でも単純に、第六層から第七層へ通路を使って移動しても、あまり効果はない」
「つまり……最下層手前で通路を使って、一気に移動すると?」
「そういうこと。ただし、それをやるとしたらかなり危険なのはわかるよな?」
「そうね。私達だけで魔物と戦うことになる」
「ついでに言うなら、さすがに最下層へ通じる隠し通路があるとは考えにくい……推測だけど、第九層に魔物がわんさかいて、最下層を守るようにしていると思う。だから、ニックが第八層を攻略中に俺達は隠し通路を使用して第九層へ踏み込み、そのまま一気に最下層へ……というのが、一番スマートなやり方だ」
そう解説した後、ミリアとアルザは沈黙する。
「とはいえ、第九層については情報がないまま攻略を強いられるし、敵だって強敵だから相当なリスクがある……この第五層を見る限り、ダンジョン構造も複雑になっているからさらに厄介だ」
ここで俺はミリアへ顔を向ける。
「で、だ。ミリア、ここまでダンジョンを歩いてきて何か気付いたこととかあるか? もしあれば、それが攻略に役立つかもしれない」
「今のところは……わかったことはこのダンジョンを作った魔族が相当技術を有しているということだけ」
「隠し通路はアルザにしか気付かないくらい見事な隠蔽だからな……非常に有益だけど、情報戦で勝つならもう一つ手を打ちたいな」
「それは?」
「ダンジョンに入る前に聞いた、魔族の存在だ」
「そういえば、歩いて回ってけれど結局どこにもいなかったわね」
「未踏破の場所にいるのかもしれない。あるいは、俺達が見つけた隠し通路とかに身を潜ませているのかも……どちらにせよ、その魔族から情報を得ることができれば、隠し通路を有用に利用できる確率が上がる。さらに言えば、上層のダンジョン構造……未踏破まで調べ上げたら、何かしら法則性などを見いだせるかもしれない」
「そういった情報を組み合わせて、出し抜こうってことね」
「そうだ。もちろんこのまま下へ進んでニックと真正面から激突するやり方もあるけど……どうする? 二人の意見を聞きたい――」




