ダンジョン内の発見
その後、俺達は草原内を歩き回る。草むらなどを調べてみると魔物が飛び出してくるという現象に見舞われたりもしたのだが……とりあえず、魔物については問題なく対処できた。
とはいえ、成果はない。おとなしく下層へ進んだ方がいいのでは、と思いつつも……俺はくまなく調べていく。
ちなみに知り合いの男性と出会ったからは第二層から誰かが来ることはなかった。やはり、攻略済みの場所についてはみんな基本スルーするというわけだ。
で、色々と歩き回ってみて、草原自体に何かしら仕掛けがあるというわけではないことがわかった。とはいえそこかしこから魔力が漏れ出ているので、何かやろうとしていたという痕跡は窺える。
「具体的に何か仕込む前に魔族が滅んだ、という解釈でいいのかもしれないな」
「なんだか拍子抜けだね」
と、アルザは言うのだが……ここで俺は冒険者ギルドで得た情報を思い返す。
「草原地帯は言わばダンジョンの上層部だけど、次の階層へ行くための階段を守っていた魔物がいたらしいな」
「それが強かった、という話だったわよね」
ギルドから得た情報を思い返して、ミリアが告げる。
「魔族としては各階層に守り手を配置したのだと思うけど……」
「滅ぶ前に用意できたギミックというのはその程度だったと解釈もできるけど……ミリア、どう思う?」
「うーん……各階層事に特徴を持たせているということは、設計の段階で何かしら構想があったはずなのよね。そこから考えると、草原というもの自体に意味があるとして……」
腕を組み考え込むミリア。とはいえ当の魔族は既に滅んでいるので確実な答えというのは導き出せないけど。
しばし悩んだ後、俺達は探索を開始する……今度は魔力がわだかまっている場所を中心に。とはいえ、周囲に魔物がいるくらいで特段仕掛けがあるわけではない。
「ギルドの攻略した情報では、罠とかも特になかったみたいだし……考えすぎなのかもしれないな」
俺がそう呟くと、ミリアが提案をする。
「それでは、先へ進む?」
「ああ、そうだな。確か三層目は――」
「ねえ」
ふいに、アルザが地面に目を落としながら俺達へ呼び掛けた。
「地面、何か変だよ」
「変?」
俺は聞き返しながらアルザが見ている地面へ目を向ける。
「何か違和感が?」
「うん。なんとなく、退魔の能力を応用して魔力の流れとか読めないかなー、と思って試してみて……それで変だなと」
「……どういう原理だ?」
「ダンジョン内には魔族由来の魔力が多数ある。退魔の力を発揮すれば私はそれに対してより敏感になるんだけど、そこから違和感を見つけた」
アルザは解説しつつ、なおも地面に目をやりながら、
「魔力の流れが……地の底から湧き上がってくるというのは確かだけど、なんだか空洞を抜けているような……」
俺は試しに気配を探ってみるけど……何もない。ミリアに首を向けてみるが彼女も首を左右に振った。どうやらアルザだけが把握できる違和感らしい。
「ふむ……地面を掘ってみるか。いや、掘削の魔法を使えばいいか」
俺が呟くと、ミリアは首を傾げた。
「そんな魔法もあるの?」
「戦いの際に塹壕を掘るとか面倒だよなー、と思って開発したんだ。でも使ったのは雪山で遭難しかけてビバークを作成した時くらいだけど」
「……少し興味のある話だけど、今は置いておきましょうか」
ミリアの言葉を聞きつつ、俺は魔法を使用する。アルザが気にしていた地面からボコボコと土がなくなっていく。
モグラが土をかき分けて掘るみたいなもので、言ってみれば左右にある土を押しのけていると言った方がいい。その結果だが、
「扉、だな」
金属製の扉が一枚出てきた。地下へと繋がっているようだ。ここでアルザが一つ疑問を口にする。
「違和感の原因はこれだけど……階段があるのにわざわざこんな通路を作る必要あるのかな?」
「もしかするとこれこそ仕掛けの一つかもしれない」
俺はそう返答すると、アルザがどういうことだと視線を向けてきたため、解説を加える。
「上層から下層へ繋がる道は階段だけ……それは逆に魔族側としても動きにくいという問題がある。まして、攻略されてしまえば袋のネズミだ」
「あ、だからこうして別に通路を作ったと?」
「そうだ。退魔能力持ちかつ元英傑クラスのアルザだからこそ気付けた隠蔽のレベル……敵は絶対に見つからないと考えていたはずだ……こうした通路があるのは、攻略側にとっては面倒だ。何せ、隠し通路を暴かない限り、敵は下層から魔物を送り込んで奇襲を仕掛けることができる」
そこまで説明すると、何かを理解したようにミリアが声を上げた。
「なるほど、つまり攻略しても安心できないということね」
「正解。こうなると攻略側はかなり神経を使うことになる……観測できない隠し通路がどこかにある……という事実だけでも、攻略する側からしたらかなり面倒だし、探索を難しくさせるだろうな――」




