ダンジョン前
――旅を重ね、やがて訪れたダンジョン周辺には、既に大勢の冒険者が詰めかけていた。
しかも入口周辺には様々な露店も立ち並ぶ……ダンジョンが外に影響を及ぼさないということがわかった場合、商魂逞しい人が回復アイテムなどを販売する露店を展開するケースもある。今回はまさにそれのようだ。
で、難易度が高いダンジョンであればあるほど、そうした出店も多くなる……結果、まるで市場でも開いているのではないか、という程度には規模が大きかったし、祭りでもやっているのかと錯覚してしまうほどであった。
「すごいわね、これ」
「それだけダンジョンがヤバい、という話さ」
ミリアのコメントに対し、近くにいたニックはそう答えた。
俺とニックはダンジョンに入るまでは一緒に旅をしようということになって、ここまでは和気あいあいと辿り着いた。けれどダンジョンに入れば競争相手……既にニックの目は鋭くなっている。
「これだけ店があるなら、町で準備をする必要はなかったかもな……よし、冒険者ギルドで攻略具合を調べるか」
「そうだな」
「ここにあるの?」
ニックと俺の会話に、割り込むようにミリアから質問が。あ、わからなくて当然か。
「ダンジョン調査という名目で、冒険者ギルドから派遣された人物がいるはずで、商人とかが店を開くようになったら、警備のために常駐するんだよ」
「ああなるほど……そして冒険者同士で情報を共有するのね」
「正解。中には出し抜くためにあえて情報を渡さない人もいるけど……その場合、ギルド側も情報は提供しなくなる」
「ここにおいてギルドの商材は情報だ。当然、提供できる物がないと言われたら、向こうだって出し渋るというわけさ」
ニックが俺に続いて発言した。その間にも俺達は歩を進め、入口手前に天幕が張られているのを見つける。その入口にある仕切りに、冒険者ギルドを示す刻印があった。
俺達はそこへ入り、まずは最新情報を得る……当然有料だが、何が起こるかわからないダンジョンだ。ちゃんと金は払う。
そして得られたのは……現在第五層まで攻略済みで、探知魔法の反響具合から十層くらいまでは存在するだろうとのことだった。
「半分は進んでいると」
「しかし、攻略済みの場所も未踏破の場所が多く、非常に複雑です」
応対した人物はそう応じた。
「なおかつ、どうやらダンジョン内には魔族もいるようで」
「魔族? 生き残りか?」
「はい。このダンジョンが放置されていた理由は知っておいでのようですが、どうやら討伐した魔族で全てではなかったというわけです」
「その魔族は討伐対象か?」
「現時点ではほとんど情報がないため、報奨金などは出ません。遭遇した冒険者によると、魔法を使って逃げられたとのことですが……ダンジョンを攻略する間に、戦うことになるかもしれませんね」
ふむ、どうするか……俺はミリアを見た。彼女の方は無言で何も反応なし。
「もし魔族が友好的であれば、ダンジョンに関する情報をもらうことも可能かもしれませんが……」
「さすがにリスクは高いかもしれないな」
情報を得て、俺とニックは外に出る。さて、ここからは――
「ニック、既に勝負は始まっているか?」
「そうだな。得られる情報は仕入れたし、後はどのタイミングで入り込むのか」
と、ここでニックは笑みを浮かべる。
「攻略完了している第五層までは、転移魔法によって行くことができる。そこから少しずつ攻略していけば……少なくともダンジョン内で遭難する、ということにはならない」
――安全かつ確実に攻略するために、冒険者ギルドが主軸となって様々な対処をする。転移魔法陣はその一つであり、攻略済みの場所と入口とを繋げることで、攻略を進めていく。
ただし、他の人と一緒に攻略していては最下層にあるかもしれないお宝は手に入らない……俺達のように冒険者ギルドと合わせるように行動せず、単独で奥へ踏み込もうという場合はダンジョン内から出られない可能性……つまり、遭難するリスクを背負わなければならない。
どうするかは冒険者の自由ではあるが、基本冒険者ギルドは足並みを揃えての攻略を推奨している。まあ下手に死者とか出たら困るからな。
で、俺達は当然競争する以上は一気に攻略することを目指す……商人とかの意見としては、ゆっくり攻略してもらった方が商売が続くし良いのだが、俺達には関係ない。
「……それじゃあ、ここからはお互い健闘を祈るということで」
俺が言うとニックは「ああ!」と威勢良く答え、俺達の前から立ち去った。
「……さて、アルザ、ミリア。どうする?」
「拠点とか確保したいよね」
これはアルザの意見。それにこちらは、
「まあ、休める場所が欲しいのはわかる」
「それはどうするの?」
ミリアが問う。そこで俺は、
「そんな難しい話じゃない。ダンジョン周辺のどこかにテントを張って眠れる場所を確保しようってだけ」
「なんだか悠長ね……」
「まあまあ、焦って動いても始まらない……出店のどこかでそういうの売ってそうだし、まずは調べてみよう」
というわけで、賑わう場所へ俺達は足を踏み入れた。




