幕間:英傑の会合(前編)
――聖王国王都、その場所に鎮座する白亜の宮殿。その一室で、ある話し合いの場が持たれようとしていた。
「一堂に会する……とまではいかないが、英傑の称号を持つ人間が三人集まるとは、魔王との戦い以来ではあるな」
そう口を開いたのは、貴族服に身を包んだ男性。金髪に精悍な顔つき――年齢は三十手前といったところだが、鍛えているためか若さも存在し、それと同時に剣を極めた達人という印象を与える。他者を圧倒するような雰囲気をまとう人物だった。
一方、その人物に対峙するのは三人。片方は戦士団『暁の扉』の団長ロイドと、副団長であるセリーナ。そしてもう一方は戦士団『黒の翼』に所属するシュウラ。
「このような形で城に招いて頂いたこと、嬉しく思います」
男性に対し口を開いたのはシュウラ。放たれる言葉は、相手に対し低姿勢そのもの。
「クラウス様におかれましては――」
「おいおい、シュウラ。そんな美辞麗句並べるのはやめてくれ、気持ち悪いぞ」
「おや、そうですか。なら遠慮なく普段通りに接しましょう」
と、シュウラは相手――『六大英傑』の筆頭、最強騎士であるクラウス=バルベーダを前に、柔和な笑みを浮かべた。
「実際のところ、戦いが終わってから調子はどうですか?」
「私に取り入ろうとする人間が腐るほどいて辟易しているよ」
「はははは。大変そうですね……しかし、今回の話し合いは大丈夫ですか? 英傑が三人……何事かと怪しまれるのでは?」
「理由はきちんと説明しているし、たぶん大丈夫だろう……まったく、あの戦いで縁が結ばれたから少し話をしたいという要望を出しただけなのに、変に勘ぐられても困るな」
「それは仕方のない話なのでは?」
シュウラが苦笑混じりに告げると、クラウスはどこか不服そうに、
「そうか? 私としては裏表ないんだけどなあ」
「最強騎士が他の英傑を集めて……というのは、いくらでも悪巧みが思いつきそうですし、ねえ。それにこの場には裏があった方が良いと思っている人もいるでしょうし」
「それはあなたのことかしら?」
棘のある言い方でセリーナが告げる。それにシュウラは肩をすくめ、
「今更クラウスさんに話を通して何かをやってもらうような事もありませんよ。それを言うならあなたの方では?」
シュウラとセリーナの視線が交錯する。もしこの場に多数の人がいたのなら、両者の間にはバチバチと火花が散るほどの炎が上がっていたに違いない。
「あー、喧嘩ならよそでやってくれ……まったく、英傑同士もう少し仲良くできないものかねえ」
クラウスが仲裁に入る。とはいえセリーナは矛を収める気がないようで、
「喧嘩を売ってきたのはシュウラよ?」
「買わなければいいだろ。ほら、セリーナ。ここで大暴れしたらさすがに城の者の心証が悪くなるぞ。矛を収めてくれ」
言われ、セリーナも渋々といった様子で引き下がる。
「さて、こうして話し合いの場を設けたわけだが……別に特段思惑があるわけじゃない。ただ、魔界の情勢も気になるし、何かあればと思って今回連絡したわけだ」
「情報は常に収集しているのでは?」
ロイドが口を開く。この場では唯一『六大英傑』ではないが、残る三人に臆することなく口を開く。
「あー、もちろん国は総力挙げて調べている。だが、単純に情報だけでは足らないと思っている。戦士団に所属している人間の肌感覚……国のお偉いさんに言わせれば勘でしかないだろうと一蹴されるわけだが、私は第六感的なものも価値を置いているわけだ」
「なるほど、違和感を覚えた事柄はないか……というわけですね」
シュウラは納得したように応じると、
「こちらは特にありません。魔界の情勢は流動的ですが、ひとまず人間界側に影響はなし。ただ、魔王侵攻の影響で色々仕込みをしていたらしく、そこからあちこちで魔物が出現しているようですね」
「その辺りもしっかり国は対策しようとしているから心配しなくていい。それで『暁の扉』はどうだ?」
「彼らは自分達のことで忙しいのでわからないのでは?」
そんな言葉にセリーナはシュウラへ再び目を剥く。直後、クラウスはやれやれといった様子で、
「セリーナもわざわざ反応しない。それとシュウラも少しは控えてくれ」
「申し訳ありません」
「まったく……それでロイド君、どうだ?」
「少なくとも、異常のようなものは見受けられません」
「問題ないと……何かあればすぐに連絡してくれ。城側には君達に対してなら入れるよう話は通しておく」
「他の英傑の方々について、近況は?」
シュウラが別の話題を口にすると、クラウスは一考し、
「ニックがダンジョンの話を聞いて王都を離れたくらいだな……魔王討伐からそれほど経過していないし、自由にしているようだ。しかし」
と、クラウスは何かを思い出したかのように、
「英傑ではないが、それに類する者……ディアスが、色々と動き回っているらしいな」




