役割分担
食事の後、俺達はダンジョンへ入るための準備を始めた。ダンジョンの規模などが大きいなら相応の対策はしておかなければならない。具体的に言えば装備品の確認である。あとそれなりに荷物も持ち込まないといけない。
「食料とかもそうだけど、必要なものは多そうだな」
「どの程度、ダンジョン攻略に必要だと思う?」
そんな質問をアルザからされた。ふむ、そうだな……、
「まあ迷宮内にずっと潜り続けることはないにしても……三人が数日間くらいは問題なく動けるくらいの物資は必要かな」
「それだけの荷物となると……」
「食料だけでかなり多いだろうな。魔力を補給する回復役も必要だし……というか、こちらの方が重要か」
「でも荷物を持つのも大変だよな」
「そこが難しいところだな……水については魔力によって生み出せるからまあどうにかなるとしても、食料についてはどうにもならないから用意しないといけない。敵の多さを考慮すれば、どれだけ長時間戦い続けられるか……これは疲労を回復できる薬や魔力を回復できる物によっても左右される」
「……どのくらい持ち込む?」
「確認だけどアルザ、水だけを摂取して戦い続ける場合、どのくらいいける?」
「うーん、実を言うと食べ物が枯渇して、とかいう経験はあんまりないんだよね……」
「ダンジョンに潜らなければそんなものだろうな。ミリアの方は――」
「私は魔族で、食べ物はそれほど必要ないけど……荷物持ちくらいはするわよ? というか、戦闘は二人に任せて私は補助に回った方がよさそうだし」
「それでいいのか?」
「ええ。役割分担は必要でしょう?」
――彼女が賛同したので、俺とアルザは同意して準備を進める。その途中でニックとその仲間が動き回っているのを目撃する。あちらも着々と準備を進めているようだ。
「まさか再び英傑と戦うことになるとは、ね」
そんな中でミリアが呟く。俺は彼女に対し、
「今回の戦いは、これまでとは違うけどな」
「決闘とは違う意味で大変そうだけど」
「相手がダンジョンだからな……ま、一対一で戦うなんて形では勝敗は決められないだろうから、仕方がないだろ」
「……戦士と魔法使い、相容れない存在ということ?」
「それもあるけど、単純に優劣はつけられない……それでも勝敗を決定できる要素を持ち込むことはできるけど、ニックはそれで納得しないってことだろうし、そもそもニック自身の言う強さというのは腕っ節の強さとは違う」
「ダンジョンに踏み込んでも対応できる能力……ということだね」
「その通り。どういう結末であれ、後腐れない形で終わりたいな」
会話をしつつ俺達は準備を済ませ、またニック側から明日出発するとの旨を告げられ、俺達は宿へ戻ることに。その建物内にある食堂で夕食をとると、俺達は早々に眠ることにした。
「準備はできたし、後は邪魔が入らないことを祈るばかりだな」
他の競争相手というのは別に構わないけど、例えば俺やニックを妨害してくるとかなったら……ニックは烈火のごとく怒るだろうな。そういう邪魔立てをされると無茶苦茶嫌がるし。
「しかし、旅を始めてあっという間に英傑の二人と遭遇か……いや、シュウラは俺達を追っかけてきていたか」
王都にいる騎士を除き、英傑のメンバーは聖王国の中で色々と活動している。冒険者として旅をして回っている現状を考えると、偶然顔を合わせることも不思議ではない。
「残るメンバーは……まあ、考えるだけ無駄か」
俺の旅の目的を考えれば、偶然遭遇する可能性も……ただ、セリーナなんかは偶然顔を合わせる、なんて事態になったら話がこじれそうだよな。
「今のうちに、何か対策を考えておくかなあ」
彼女と顔を合わせるのを避けるために『暁の扉』と接触するのを控える、というのもなんだか違う気がするからなあ。
ただ、そうした中で考えることは一つ。俺とセリーナは共に戦ってきた団員だし、実力的にも信頼している。彼女だって俺の能力については評価している面があったし、戦場では息も合っていた。
だからこそなのか、戦場ではない場合……いずれ、何らかの形で決着をつけるべきではあるのだろうと思っている。
問題はそれが話し合いなのか決闘なのか、だけど……もし決闘だったら、シュウラのようにクリーンな形で終わるのは無理だろうな。
「穏便に済ませる方法、か……」
そもそもセリーナと戦って勝てるのか……いや、今後のことを思うなら俺は負けた方がいいかもしれない。彼女との戦いで手を抜くとかまず無理だし、下手すれば死闘になる。その中で俺が負ければ彼女だって納得はするだろう。
万が一、俺が勝ってしまった場合は……どういう展開になるのか想像もつかないな。
「話し合いで終わるように、祈るしかないのかなあ……」
そんな風にぼやきつつ、俺は眠ることにした。明日からダンジョン攻略が始まる。それに対し少しだけワクワクしている自分もいたのであった――




