作戦会議
さすがにすぐダンジョンへ入るということはせず、俺達は町へと入り準備をすることに。ただその前に腹ごしらえということで俺とアルザ、そしてミリアは酒場へと入った。
一方でニック達は既に別所へ向かっており、早速準備を始めるらしかった。
「ダンジョンの解説は必要ないよな」
俺はアルザに問い掛ける。ちなみにミリアはダンジョンの主になっていた側なので問題ないだろうと考えた。
「入ったことはほとんどないけどなんとなくわかる」
「なら解説はしない……まあ、ダンジョンというのはそれぞれに固有の特徴があるから、正直なところ入ってみなければわからないことも多いけどな」
と、言ったところで俺は懐から資料を取り出した。
「とりあえず、今回入るダンジョンについて情報はもらっておいた」
「その解説を今からするの?」
「ああ……ただ、あくまで入口周辺だ。現地へ行けば攻略済みの階層に関して情報がもらえると思うけど……現段階でわかるのは深入りすると出られなくなる可能性があるって話だ」
「危険度は相当高いということね」
ミリアが言う。俺は小さく頷き、
「長年放置され、異界化がかなり進んでいるダンジョンみたいだからな」
「主である魔族の強さより、存在し続けた時間で凶悪になったパターンか……魔族がわかれば傾向などを理解することも可能だけれど、今回の場合は難しそうね」
「傾向とかわかるんだ」
アルザの指摘にミリアは小さく頷き、
「そういう作成者のクセなどがわからないと、ダンジョンを掌握することはできないもの」
「さすが一度はダンジョンの主になっていただけあるね」
「そんな大層なものじゃないけれど、ね……それでディアス、詳細は?」
「ああ。入口周辺は迷宮仕様のダンジョンらしいが、奥へ進むと異界化が進んでいてある場所で草原、ある場所では森、とか異空間が広がっているらしい」
「かなり面倒ね……」
「最深部、本来は魔族の主が存在するけど今回はない……とはいえ、主を失ったダンジョンというのも厄介度合いは高い。何故かというと、終わりがないんだ」
「終わり?」
小首を傾げるアルザ。そこで俺は解説を加える。
「ああ。ダンジョンというのは主によってコントロールされている。その制御が解かれてしまった場合、可能性としては二つ。自壊するか発展するか……自壊は主はそうした機能を用意している場合だ。ほら、迷宮最奥に辿り着き宝を手にした場合、罠が作動して迷宮が崩れ始める、みたいな罠があるだろ?」
「つまり、自分を倒せばお前達も生き埋めになるぞ、ってことだね」
「そういうこと。でも、そうじゃない場合はダンジョンそのものが独立している。魔族の主は魔力を供給し制御しているが、放っておいてもダンジョンが変わり続ける……この場合だと、最奥に辿り着いたとしてもそれで終わりなのかどうかわからない」
「なら私が」
と、ミリアが自分の胸に手を当てながら言った。
「魔族である私なら、おそらく制御できるのではないかしら」
「なるほど、最奥まで到達し、ダンジョンそのものを制御し、自壊させるってことか」
「方法は色々とあるとは思うけれど、ひとまずそれならダンジョンが攻略できた、ということになるのではないかしら」
「そうだな……ニックとの勝負はあるにしても、ダンジョンを放置できないのは間違いないんだ。競争で勝ち負けがあるにしても、俺達はダンジョン封鎖を目的としようか」
「お宝、ありそうかな?」
アルザの疑問。そこで俺は肩をすくめ、
「わからない、というのが答えだな。困難な迷宮でもお宝がしょぼかったり、逆に簡素な迷宮でも驚くほどのお宝を得たというパターンもあったからな……今回のダンジョンは魔族の残した物にどれだけの価値があるのか……だな」
「その魔族の詳細はあるの?」
「いや、情報を調べても出てこなかった」
「なら奥へ行ってからのお楽しみってことか」
「そうだな。アルザ、お宝が二束三文でも文句は言わないでくれよ」
「善処する」
……彼女としては大変なら実入りは欲しいだろうな。ま、この辺りは祈るしかない。
「私達はどう動くべきかしら?」
ここでミリアからの疑問。それに対し俺は、
「ダンジョンでは色々と役割を決めるべきだとは思うけど……基本的にこれまで戦ってきたのと同じように立ち回ればいい」
「私は……ディアスの援護?」
「そういうこと。罠の解析などは俺がやる……というか、たぶん俺にしかできない。そこにミリアが魔族としての知識を説明して貰えると助かる」
「ええ、わかったわ」
「アルザは前衛……だけど、野戦で魔族と戦う以上に注意をすること。思いもよらぬ場所に罠とかがあって、大変なことになるかもしれないから」
「あんまり前に出ない方がいいのかな? ま、私はディアスの方針に従うよ」
そんな風に会話が進んでいく。やがて料理が運ばれてきて、俺達はまず食事を済ませるべく口を動かし始めたのだった。




