ダンジョン
町へ辿り着く寸前になって、俺はようやくニックへと話し終えた。そして彼の感想は。
「セリーナは相変わらずだなあ」
「……外部から見ていても、セリーナという存在は厄介だったか?」
「団員に当たり散らしていたのを見たことがあるくらいだからなあ」
「俺がフォローするのも変だけど、ちゃんと仕事はしていたからな」
「有能なのは知っているぞ。まああれだけ敵を作っているのに戦士団が空中分解せずに済んだのは、彼女の力量のおかげでもあるだろうしなあ」
有能だったし、やっぱりもうちょっと親しみやすい性格だったら……と思ったけど、たぶんそういう性格だったら戦士団になんて入っていなかっただろうな。
「とりあえずセリーナのことは置いておこう……で、俺達の身の上話については全て伝えた。今度はこちらが質問する番だ」
「俺が何をしているか、だな?」
「ああ……といっても、ニックの行動方針はシンプルだし、魔王を打倒した後も変わらないと考えている」
俺の言葉にニックは笑った。わかっているじゃないか……そんな風に俺へ言いたいのだとわかる。
「ただ、疑問がある。ここは聖王国の中央部。ニックの狙いはダンジョン……つまり、そこへ入り攻略をすることだが、中央部にあるのか?」
「かくいう俺自身も、この地方はダンジョンが少なくあまり興味をそそられることはなかった……のだが、つい最近発見したのだ。魔王との戦いが始まる二ヶ月ほど前に」
「とすると、魔王の侵攻と関係があるのか?」
「調査したところ、もっと前……少なくとも十年以上前から存在しているダンジョンだと判明した」
その言葉で、俺は少し驚く。それと同時に、ニックがなぜここに来たのかわかった。
「十年以上……放置されていたダンジョンというわけか」
「迷宮の主がいるにしても魔族はいないだろうが、迷宮としての機能はちゃんと果たしている。内部は相当な年数が経ったことで独自の世界を築いていることだろう」
――ダンジョンは一般的に、主となる魔族が強ければ強いほど危険度合いが上がり、攻略難易度も上がる。そしてもう一つ、ダンジョンが手強くなる要素がある。それが年数だ。
ダンジョン内は独自の生態系を持つに至っており、年数が経てばそれがより確立され、敵も強くなる。ダンジョンは基本、存在する周辺の魔力を吸うことで維持するのだが、魔力が流入し続ければし続けるほど強力になるため、年数が経過すればそれだけ魔力を抱え手強くなる。
「王都で色々と調べたところ、今は解散したとある戦士団が魔族を発見し、交戦。倒したことが記録されていた。その魔族が残した遺産、というわけだ」
「……外に出ていた魔族を滅ぼしたため、拠点となっていたダンジョンの場所がわからなかったというわけか」
「正解だ。ダンジョンは踏み込まなければ外部に影響もないため、今まで日の目を見ることはなかったというわけだが……それが発見され、冒険者が調査をしている」
「で、相当危険なダンジョンだとわかったのか」
「ああ。しかも、だ。ダンジョンが残っている経緯を考えれば、滅んだ魔族が持ち込んだ武具などが残っているかもしれない」
――冒険者がダンジョンへ入る理由はそれだ。魔族が持っている武具……それを解析して聖王国は強力な、人間が扱える武具を作った。例えがらくたでも魔力さえ残っていれば……国へ売却できて、なおかつ相当な金になる。
稀に屋敷を買えるほどの金額になることもあり、まさしく一攫千金を狙える……だからこそ冒険者達はこぞってダンジョンに挑戦する。
「ギルドでは情報が出回っているのか?」
「まだ調査の段階であるためダンジョンに関する詳細はあまりないが、数日以内には大々的に場所が掲示されるだろう」
――ダンジョンは見つけた人が早い者勝ちで調べることもあるが、発見した人が攻略できないとなったら、冒険者ギルドへ情報を売って金にする。そしてギルドは調査を行い、可能な限りダンジョンについての情報を得て、場所を公表。そして攻略しようとする冒険者達に得られて情報を売る。そんな構図となっている。
「それでニックと仲間達は攻略に赴くと」
「その通り――」
返事をした矢先、ニックは俺をじっと見た。何だと聞き返そうとした時、
「……そうだ、ディアスも参加しないか?」
「俺が? うーん、路銀については困っていないんだよな……」
アルザの資金調達のためにやるのなら価値はありそうだけど……ただ、本当に実入りがあるかどうかはダンジョンを探索しなければどうとも言えない。ダンジョン攻略は博打みたいな面もあるのでこれは仕方がないのだが――
「ふむ」
と、俺の反応を見てニックは一度沈黙した……のだが、やがて俺に提案を行った。




