生きた証明
「魔族ゼガから話を聞いて、俺なりに未来のことを考えた……で、何か残せるものがあるとしたら、一つしかないと」
「一つ?」
「俺自身の功績とはどうでもいい……英傑達だって、富と名声が欲しかったから魔王と戦ったわけじゃない……まあ、中には栄達を目的とする人もいたけど、魔王と戦った時は、全てを投げ打って挑んだ」
俺は魔王との戦いを思い出す。あれは……本当に、奇跡のような戦いだった。
様々な要因が重なり、俺達は魔王を打倒することができた……魔王の真実を知りより強大な存在だったのだというのを知り、改めて本来人間に太刀打ちできない存在なのだと認識する。
「俺はその経験や技術を、後世に残すべきだと思ってさ」
「つまり、君の強化魔法を、か」
「それが後の世に役立つかどうかはわからないけどな……でも、七人目の英傑として魔王の打倒に貢献した人間が遺した魔法……後世にまで語り継がれそうだろ?」
――俺自身、さっきも言ったが功績なんてどうでもいい。しかし、それを利用し何かを遺すことが出来る……俺にはその資格がある。
ふと、エーナと共に訪れた博物館を思い出す。様々な冒険者が遺した物……聖王国の歴史に刻まれたもの。
あんな風に俺がいた証を突き立て、魔法技術を遺せば……きっと、後世まで語り継がれるだろう。
「今の俺にできるのはそのくらいしかないからな」
「自分探しの果てにあったのは、自分が生きた証明を残すこと、か」
「ああ、そういう解釈でいい」
「まだまだ旅は終わらないようだな」
「今はまだ……でもまあ、拠点くらいは作った方がいいかもな」
その時、俺の頭の中にエーナの顔が浮かんだ。冒険者ギルドや王城……そうした権力を持つ存在に寄りかかることでも、多くのものを残せるかもしれない。
「どうするかは、今一度旅をしながら考えるとするさ」
「どうやって遺すかは、これからというわけだな……君の実力なら引く手数多だろう」
「その中で有効なものを選ばせてもらうかな」
まずはやはり、冒険者ギルドだろう。王城もいいけれど、ギリュア大臣が失脚したことにより混乱もある。今は干渉しない方がいい。
それに……エーナとの約束もある。答えを、出す時だろう。
「話はこれで終わりかな?」
オーベルクが問う。こちらが頷くと、彼は最後に、
「ならば、私から一つ……手を貸してくれて、ありがとう」
「むしろミリアのことを言うなら、危険な戦いへ踏み込ませたけどな」
「しかし、旅を通して成長できた……私としてはそれが何より嬉しい」
満足げな様子のオーベルク……それを見て俺はどうやら役目を果たしたのだと思った。
そしてオーベルクとの話を終えた俺は、ミリアと最後の会話を交わす。
「また当てのない旅?」
「ああ、でも今回は自分探しじゃなくて、自分のやったことを遺すための活動だ……今以上に大変だろうけど、ひとまずエーナの所に行こうと思う」
「そう。エーナさんによろしくね」
ミリアはそう言うと小さく笑みを浮かべた。
「……旅を通して成長できた。そこについては、本当にありがとう」
「俺はきっかけを与えただけに過ぎないよ。俺との旅を通じて強くなろうとしたのはミリアの意思だ」
そう言うと俺は右手を差し出した。
「ミリアは自分の役目を全うする……そう決めたのであれば、俺は応援するだけだ……頑張れよ」
「ディアスも」
握手を交わす――そうして、俺はオーベルクの居城を離れ、一人旅を再開した。
「さて……のんびり行くとしようか」
軽くのびをしながら街道を進む。道中で反魔王同盟が引き起こした事件が尾を引いているだろうし、町の様子を窺いつつ進むのが良いだろう。
もし、誰かが力を必要とするのであれば、手を貸すのもいい……とはいえ俺一人だ。さすがに仕事をこなすには大変だろうから、ほどほどにするべきだろうけど。
「どこか戦士団に身を置くか? いや、それだけさすがに窮屈になるかな」
自分の目的――それを成すにはどうするべきか。色々と頭を悩ませながら俺は一人歩み続ける。
――自分探しという旅は終わりを告げた。けれどここから先は、苦難の道が続くだろう。後世に自分の足跡を残す――それがどれほど大変なのかはわかっているし、どうやるのかもまだまだ見えない。
しかしそれをやり遂げた時こそ、初めて俺はきっと戦士という姿を終えることができるのだろう……果たしてどんな未来が待っているか。期待と不安が入り交じる中、足だけは真っ直ぐ目的地へと向かっている。
街道には商人や旅人が行き交い、果てしなく続いている。平和な光景を見ながら俺は、大地を踏みしめる。そして新たな旅が始まったのを自覚しながら、ふとこれまでのことを思い返し……またこれからの出会いに思いを馳せながら、エーナの待つ町へ歩みを進めたのだった――




