聖王国の未来
「私自身、契約を利用して魔界の支配者になる気はない……そもそも、そんな資質もないからね。魔王候補とはいえ、そんな能力がないことは自分が一番わかっている。けれど」
ミリアは視線を森へ。魔族ゼガが経っていた場所だ。
「どういう経緯であれ、私は彼の作戦に関わった。なら、その行く末を見る義務がある」
「魔族ゼガの……」
「ええ。それを通し、魔界と人間界……聖王国の行く末をも、私は観察し続けようと思う」
――魔族だからこそ可能な所業だ。この場にいる面々は百年も経てば彼女以外、誰も生きてはいない。彼女だけが……聖王国の未来を見えることができる。
「でも、私に出来るのはあくまで観察するだけだと思う……何か起こっても止めることができるかどうかは――」
「ま、そこまで気にしなくてもいいわよ」
と、発言したのはヘレンであった。
「ミリアさんは、自分が思うようにすればいい……人間界、ひいては聖王国がどうなるかはわからないけれど、もし魔王が動いたらその時の人達に託すべき」
「いいの、それで?」
「そうやって人間というのは歴史を作り続けてきた……私達人間には、確かな力がある。だからそう心配しなくていいと思う……もちろん、真実を知る私達だって未来のために動くし」
「そうだな」
俺が同意する。そこでヘレンは俺へ目を向け、
「何か思いついた?」
「俺が自分探しの旅を通して見つけたことにも関連するな」
「お、とうとう……で、その詳細は?」
「……正直、実現できるかわからないが――」
そう前置きをして話した内容に、仲間達は賛同し、またミリアも納得するように頷くのだった――
そして、俺達は森を離れた。英傑が一人、また一人と去って行く中で、最後に残されたのは俺とミリアだけだった。
「アルザもあっさり旅立っていったな」
「そうね……私達はどうする? 今日のところは休む?」
「そうだな、俺は戦闘したし、疲労もあるからな……明日から旅を再開で問題ないよな?」
「ええ……まだ旅が終わったわけではないけれど、叔父様の所へ向かったらきっとそれで別れることになるような気がする」
「かも、しれないな」
俺は応じつつ、王都へ向け歩き出す。ミリアはそれに追随し、
「ディアス、さっきこれからやることを語ったけれど……具体的に何か決めていることはあるの?」
「いや、まだ白紙だよ。でも、旅を通して色々と見知ったこともあるし、今までの知識を総ざらいして、身の振り方を考えるさ」
「大変そうね」
「ああ、間違いない……だが、やりがいはあるだろうな。それこそ、死ぬまで掛かっても終わらないかもしれない」
「でも、やると決めたのね」
俺の瞳を見ながらミリアは言う……ゼガのように、決意の意思を宿していたのかもしれない。
「そうだな……自分探しというのは終わったかもしれないけど、まだまだ旅は続きそうだ。今後は観光なんて悠長なことは言っていられないかもしれない」
「旅の合間に休息するのも重要じゃないかしら?」
「どうだろうな……正直、今回の旅を通して観光というものにそこまで魅力を感じなかったんだよな」
「でも、人も魔族も年齢を重ねればそれだけ感性も変わるわ」
「俺も、楽しめる時が来るかもしれないってことか?」
「ええ」
「……そういう風になれたなら、旅に張り合いが出るかもしれないな」
そう言いつつ、俺の思考は先ほど仲間やミリアに表明したことに向いている……今はひとまず、新たに携えた目標を優先だな。
「オーベルクにもこのことは話そうと思う……魔王の真実を含めて、な」
「わかったわ……あ、そうだ。あの場で言いそびれてしまったことが」
思い出したかのようにミリアは言う。
「ディアスが話し始めなければ言うつもりだったのだけれど」
「何が言いたいのかは察せられるよ。ミリアは絶大な権力を手にしてしまったかもしれない。もしその権力を行使し、好き勝手するようになったら成敗してくれ、だろ?」
「……よくわかるわね」
「あの場にいる誰もが考えていただろうさ。そしてミリアが、それを言い出すことも」
俺はミリアと視線を重ねた。次いで笑みを浮かべ、
「ミリアの意思は理解している……だから英傑達は国のため、人のために動くさ」
「そう、わかったわ……でも、何も言わず理解してくれるなんて――」
「英傑達なりにミリアと交流したんだ……共に戦った仲間だし、な」
仲間、と言われ最初ミリアは驚いた様子を見せ……やがて、ほのかに笑みを浮かべた。
「そっか、仲間か」
「ああ……ミリア自身、英傑に及ばないと自覚しながら、鍛錬は欠かさなかった。その姿はみんな見ていたし、だからこそ……ミリアは自分の役目を全うするだろうと感じた。でももし、道を外すようなことがあり、人間の脅威となったら……その時は容赦なく、戦うことになるぞ」
「そうならないよう、頑張るわ」
互いに笑みを浮かべる……足取りは軽く、俺達は王都へ向かったのだった。




