一区切り
「ヘレン、ギリュア大臣が失墜した以上、私としても早々に王宮入りしたいところだけれど」
「話は通してあるから、もう少し待って欲しい……といっても、年単位までは必要ないかな」
「そう……」
セリーナは横にいるロイドへ目を向ける。
「ならロイド、いずれは――」
「わかっている。覚悟はしていたよ。本音を言えばもう少し長く居続けるかと思っていたけど、仕方がないな」
「王宮へ入るまでは、戦士団のことに尽力する」
「うん、ありがとう」
そうしたやりとりの後、ヘレンは次にクラウスへ目を向けた。
「クラウスには、もっと働いてもらう必要があるかもね」
「……善処させて頂きます」
「騎士団も再編とかしなければいけないかもしれないけど……ま、この辺りはおいおいやっていきましょう……残る英傑は……エーナか。でも選択肢があるわけじゃないか」
「そうだね……」
はあ、とため息をつくエーナ。
「ここへ来たことで仕事も溜まっているだろうね」
「魔物や魔族による騒動が減ったら、仕事は減るのでは?」
「そうだったら楽なんだけど、残念ながらそうもいかないのがギルドの仕事。なぜか平和になっても仕事がどんどん舞い込んでくる」
苦笑するエーナ……彼女にとっては悲しい話ではあるが、
「エーナ、それは冒険者ギルドが平和であっても必要とされるという証明でもあるな」
「ええ、そうね……冒険者ギルドの運営側として、これからも頑張る……で、ディアスはどうするの?」
彼女が問い掛けると同時、英傑達の視線が俺へ注がれる……もっとも興味のある部分、ってことか。
「んー、そうだな……」
「と、待った」
俺が発言しようとすると、アルザがそれを制した。
「その前に私が話す」
「別に順番とかないだろ?」
「でも最後に言うのは違うかなあ、と。それはディアスの役目でしょ」
「俺の……?」
疑問だったが英傑達は当然だと納得している様子。どこか釈然としないながら、俺はアルザの言葉を待つ。
「ひとまず大きな戦いの区切りにもなったし、この辺りで私は故郷に帰ろうと思う」
「そうか……そこから先はどうするとか、考えているのか?」
「まだ何も。でも、村を復興できる道筋は確かにできたと思うし、この旅には満足してるよ、ありがとうディアス」
「そう言ってもらえるのなら、誘った甲斐があったってものだ」
どうやら、戦士団脱退から始まった俺の旅もここで一区切り、らしい。
「アルザの方はいいとして……ミリアはどうする? 反魔王同盟という存在が消え、魔王の真実も知った。魔界へ戻るのは……」
「現状では避けた方が無難でしょうね。そもそも、魔王が潰え魔界の混乱も収まりきっていない。むしろ反魔王同盟という存在が出てきたことにより、混乱に拍車が掛かっているかもしれないわ」
ミリアの言うことはもっともである……だとすれば、魔界へ戻るのはまずそうだな。
「それじゃあどうする?」
「一度、叔父様の所へ戻ろうと思う……真実を知った今、改めてどうすべきか話し合うべきだと思う」
……彼女の叔父、オーベルクは魔王侵攻の際に手を貸せと要求されて、それを突っぱねて報復を受けた。それは魔王の重臣などによるものだとは思うし、現在状況が変わっているのかどうかも気になる。
何より、魔王の真実……それを知ろうとしたのはオーベルクの依頼という面もある。一度、顔を合わせるべきか。
「わかった。ならそこまで付き合うことにしようかな」
「いいの?」
「元々ミリアの護衛が仕事だからな。それに、事情を俺の口から語りたいし」
「わかった……もし、私が叔父様の所で暮らすことになったら、それで今度こそ終わりね」
「ああ、そうだな」
とはいえ、別に寂しくはなかった。いずれ終わる旅路だった……それが魔王の真実を得たと同時に終わりを迎えるだけだ。
「とはいえ、私自身役目もできた」
と、ミリアは語る。
「ゼガの気配は契約を通して伝わっている……もし彼が魔王に取り込まれ、魔王の体躯を自らのものにできたとしたら……私はそれを観察する役目を担うことになる」
「大役だな」
「そうね。もし彼の作戦が成功し、魔王が自由に動けるとなったら……実質、私が重臣に代わり魔王を操れることになる」
「つまり、ミリアが魔界の支配者だと」
「……さすがに、いくらなんでも無茶よね。でも彼を通して魔界の中を変えていくことで、私が魔界へ帰れる道筋を作ることができるでしょうし、何より魔族からの干渉もなくすことができる」
――オーベルクに対する報復も、止めることができるというわけだ。
全てがゼガにかかっている……そして成功すれば事実上ミリアは全てを得てしまったことになるが……やがて彼女は告げる。
「契約を通し、一つ決めたことがある」
決然とした言葉に、俺も仲間達も沈黙し、ミリアの言葉を待ち……やがて、彼女は口を開いた。




