戦いの再現
俺が放った攻撃を魔族ゼガは受け止め、魔力が拡散する。ビリビリと大気を震わせるほどの力であり、セリーナ達の結界がなければ森中に広がっていただろう。
魔力が結界内で渦巻く中、俺達は幾度となく杖と剣をぶつけ合う……俺の方は、相手を魔王に重ね、その時と同じ戦法をとっていた。
「なるほど、こうやって食い止めていたのか」
ゼガは納得するように声を上げる。
「攻撃を仕掛け、魔王を守勢にすることによって時間を稼ぐ――」
「最初から勝つという気はなかった」
俺は杖を放つ。それを魔族ゼガは受けながら、話を聞く構え。
「英傑ですらない俺が単独で魔王を討てるとは思えなかったし、実際に無理だろうと高をくくっていた。だからこそ、あえて仕留めるのではなく食い止める方法を考え、こうした」
さらに杖を放つ。ゼガはそれをいなしながら反撃してくるが、俺は容赦なく杖で刃を叩き落とす。
「仲間達が態勢を整えるまでの時間を稼げればいい……傍から見れば後ろ向きな考えだが、俺はそれが最善だと考えた」
「むしろ最適解だろう。魔王を打倒するために時間を稼ぐ……その時においてもっとも必要だった時間を重要視した結果だな」
ゼガは俺の選択に対しそう評価を下す。
「討つのではなく、食い止める……か。だが単純に守勢に回れば魔王は突撃してくる。だからこそ――」
ゼガが語る間に幾度も俺の杖が放たれる。その全てを剣で防ぎはしているが、術式の効果によってさらに鋭くなっていくこちらの攻撃に、対応がどうしても後手に回る。
「魔王から見れば、無茶苦茶な攻撃に見えただろう。時間を稼ぐにしても、自分の命すら省みていない……なるほど、術式を発動させたのはそうした狙いもあるのか」
狙い――彼は俺の考えを看破している。
どういうことか……俺は決戦術式起動と共に魔王へ攻撃した。当然魔王はそれを余裕で防ぐが、こちらは食らいつく。結果的に魔王は俺とやりとりをする必要性に迫られた。
俺はそこで術式により少しずつ攻撃速度を増していった……最初から全力ではなく、あえて加速していく形をとった。これにより魔王は考える……まだ何か手があるのではないかと。
「君にとってこの魔法は切り札……だが魔王は君の動きを見てまだ何かあると考えた」
「そうだ……それでようやく、俺は魔王を縫い止めることができた」
加速していくことで、底が見えないようにした……実際に術式を起動した時点で限界も限界だったが、まだ何か狙いがあるのかもしれない――あるいはまだ手があるのかもしれないというブラフを示した形だ。
つまり、攻撃を仕掛けていたわけだがそれには心理戦に持ち込む意味合いもあった……魔王としては多少俺の攻撃を受けても構わないとばかりに強引に叩き伏せる手段もあった。実際にそうした方法を用いていたら俺はロクに抵抗もできず終わっていたかもしれない。
だが、魔王は何か奥の手があるのかもしれないと判断し、無理に攻めてこなかった……英傑達の実力を把握し、負傷さえなければ勝てるだろうという腹づもりをしていた点も大きいだろう。魔王からしてみれば、無駄な怪我はしたくない……策で負傷することが一番の懸念点である以上、まずは様子見をしながら時折反撃するという戦法をとった。
俺はなおも加速し、ゼガへ杖を放つ。相手はそれを剣で防ぎながらも――顔には笑みを見せた。
「判断に迷うところだな……魔法によって気配を捉えにくくしているか」
「それも、策の内だ」
気配――魔王クラスになれば単純な攻撃は魔力の流れを追ってわかるはずだ。けれど決戦術式はそうしたことをぼかすことができる……相手が魔族であるが故の対策だった。
そして一度、俺の杖はゼガの体を掠めた。攻撃がとうとう当たった……が、無理に攻めようとはしなかった。魔王に手傷を負わせられるかもしれない……そんな誘惑が幾度となくあったが、俺はただ時間稼ぎに終始した。
それが魔王に勝てる唯一の策だと思ったから……杖と剣が双方の中間地点で激突し、せめぎ合う形となった。
ギリギリ、と杖と剣がかみ合う中、魔族ゼガは口を開く。
「こうして魔王と鍔迫り合いを演じたか?」
「……魔王の得物は大剣だ。さすがにそこまではしていないよ。無理はできなかったからな」
「そうか……洗練されたと言ったな? それはつまり、今の方が魔法による強化度合いが大きいのか?」
「あの時は、支給されていた魔力の込められた宝石などもあったことから、単純に強化する魔力量で魔王に応じられるようにしていた」
「なるほど、魔力か……!」
ゼガは叫ぶと俺の杖を弾き飛ばした。それと同時にゼガが動き、直感する。相手はこれで、決めるつもりだと。
魔王も業を煮やし、同じ動きをとった……だからこそ俺はそれを再現するべく、さらに魔力を高め術式を強化した。




