変革の道
「魔王の重臣達は、魔族の中でも最古参と呼ぶべき者達だ。魔族の始祖、とまではいかないが原点に近しい考えを持つ者もいる」
「魔族の、原点?」
シュウラが聞き返すと魔族ゼガは首肯し、
「魔族は言わば魔物から派生によって生まれた存在だ……これについては人間の研究などでもわかっているだろう?」
問い返しにシュウラは頷く。
「ええ、わかっています」
「そういった存在の原点……目的は何か。魔物は獣と同等であり、生存を目的としている。だが理性を得た魔族は違う。魔物が持つ破壊衝動を相まって、支配欲が増幅した。魔族は多くの場合は人間と比べ欲が深い……特に、支配欲が」
「それに基づいて、魔王の重臣は動いていると?」
俺の疑問にゼガは「そうだ」と応じる。
「魔族の原点により近しい存在ほど、欲がより強く出る……魔族も代が進むにつれてそうした感情は少なくなっているし、制御もできる。だが、重臣はそこに固執している……とはいえ、だ。支配をして何をする、かと問われると彼らは答えられるのかどうか」
「支配することが目的ではあるが、それを成して何をするかは考えていないと」
「おそらくな」
とんでもない存在である。魔王という存在を生み出したことについては、魔族の秩序を維持するために必要なことだったかもしれないが、現在の魔界は魔王の重臣達に振り回されている、という見方もできる。
「まあ奴らのありようについてどうしようもないのは事実だ。よって、重臣を今の立場から引きずり下ろさなければ問題は解決しない」
……魔王の重臣達の存在は魔界において重要だが、人間界への侵攻を防ぐには重臣達をどうにかしなければならない。
人間達が対処できる範囲は超えているな……魔族ゼガはなおも語っていく。
「重臣達を力で対処するのは非常に困難な上に、滅ぼしても危険なことは理解できただろう……ではどうすべきか。私としても重臣達に振り回される同胞については不憫と思うし、彼らには引退してもらいたいが……当然、奴らは権力を握っている以上、抵抗する」
「権力の大きさは、ギリュア大臣の比ではないな」
俺のコメントに対しゼガは「まさしく」と応じた。
「魔王という存在、そのものだからな……奴らをどうすべきかについて、直接的な方法は困難である以上、正攻法でいくなら重臣達を権力的に蹴落とすしかない」
「失脚させる……魔王の真実を語り、変革をするというわけか」
それが困難な道であることは俺も理解できるが――
「そうだ。非常に時間が掛かる道ではあるが、現実的にはこの手段しかないだろう」
「それを成すために反魔王同盟は、魔王よりも自分達が上だと証明すべく人間界に攻撃を仕掛けただろう?」
「そうだ……人間にとってはいい迷惑だろう。怒りの矛先を向けてくれて構わないが、実際に剣や魔法を振るうかどうかはこの話が終わってから判断してくれ」
ゼガは語る……彼は取引を持ちかけてきた。彼はこちらが持つ情報と引き換えに戦いの真実を語っているわけだが……その内容によって、俺達が納得するということなのか?
「私達の作戦が失敗した以上、当面の間は防戦一方だ。それに加え、重臣達は魔王を新たに生み出し玉座に据える……これはおそらく数年以内には行われるだろう。ただし、力の大きさは君達が戦った者と比較した場合、当然ながら弱い。器は作ったとしても、そこに入れる魔力が満たされていないわけだからな」
「とりあえず外観だけ作り、中身は少しずつ加えていくってことか」
「そうだ。それに時間が掛かる……この時間というのを利用し、反魔王同盟も対抗するために動く。過去と比べ、魔王の真実を知る者は確実に増えている。少しずつ支持者を集め、魔王という制度そのものに変革をもたらす……それが、二つ目の道だ」
極めて困難な道なのは間違いない。魔族ゼガからすれば、対抗組織が壊滅しゼロからのスタートになる。
果たして人間界に侵攻するまでに間に合うのか……と言われるとわからないし、その結末を見ることなくこの場にいる人間は寿命で死ぬだろう。
「この道は当然、人間の手には及ばない戦いになる。純粋な政争だからな。よって、君達が介入する余地がない以上は、話としてはここで終わりとなる。反魔王の組織……新たに勃興するのか、それとも引き続き反魔王同盟という存在が要となっていくのかわからないが、その動き次第だ」
「……納得がいくかと言われれば微妙ですが」
ゼガの説明に対し、声を発したのはシュウラ。その様子はどこか不満げである。
「魔族同士の抗争です。むしろ人間界が介入しない分、健全であるとは言えますね」
「君達は不満はあるにせよ、それしかないと考えるのか?」
「他に選択肢はありませんからね……とはいえ、です。ここまで話した二つの内容を鑑みるに、情報交換などと取引を持ちかける理由はありません。ならば、あなたは第三の選択肢を持っているのでは?」
三つ目――俺達はゼガへ視線を注いだ。




