大騒動の終結
ギリュア大臣のことについては、俺達が直接見ることはできない……のだが、冒険者ギルドを介し情報を得ることはできた。
魔族ゼガの資料を渡してからおよそ四日後、王都では大きな騒動となった……といっても魔物や魔族が出現したわけではないため、あくまで王城の中における話だ。
本来、城の中の話というのはあまり外には漏れてこないのだが、さすがに重臣のスキャンダルとなれば話は別だ。特に今回の人物は多大な権力を保有するギリュア大臣……当然彼とその一派は抵抗した。
結果的に王城内はなおもギリュア大臣を支持する者と、不支持の者とで分断されたらしい。たぶん支持する人間は魔族と繋がりがあるなどというのはねつ造だと思ったことだろう。これは大臣を失墜するための詭弁であると。
――実際、魔族ゼガからの情報提供がなければここで止まって進展はなかっただろう、と一度報告へやってきたヘレンは語った。本来はここから持久戦となり、当面の間は政争が渦巻くことになっていたはずだと。ヘレンは仕掛けた以上最後までやりきるつもりだったらしいが、そうなれば戦場に立つことはなくなっていた。英傑の称号も返上だろう……というか、その覚悟はしていたようだ。
けれど魔族ゼガが保有していた証拠により、状況は大きく変わった。彼女はまず、自分が見つけた情報だけを公開し、追い打ちという形で魔族ゼガの資料を提示。その結果、大臣を支持する人間は一気に減り始め……とうとう、ギリュア大臣も屈服した。
それが彼女と話し合ってからおよそ十日の出来事……これだけ早期に決着がついたというのは、よほどゼガの証拠が効いた、ということなのだろう。
結果としてギリュア大臣は地位を失い、さらに魔族と内通していたという形で投獄される運びとなった。そこから罪状などを照らし合わせ……そこについては長い時間が掛かるだろうとヘレンは語っていた。
そして、人々や俺達冒険者への影響については……政治に関わる部分である以上、何かしら弊害は出てくるかもしれない。その影響はどこまで大きくなるのかは……目に見えるまでに時間が掛かるだろうとのことで、注意が必要だ。まあ正直、何かしら不利益を被ることは覚悟している。政治の中枢を担っていた人物の失脚である以上は仕方がない。
だから俺は報告に来たヘレンはこう言った。
「大臣がいなくなったことで暮らしが悪くなった、なんて言われたらおしまいだぞ」
「わかってるわよ」
「ま、ここからは聖王国の力、特に王族や忠臣の頑張り次第だな。俺がわざわざ言う必要はないかもしれないが、頑張ってくれ」
「ありがとう」
――そうして、ヘレンの戦いは終わりを告げた。当事者ではない俺からすると気付いたら終わっていたという感じだが、魔王との戦いと並び立つほどの大事件であったのは間違いなく、当面聖王国自体に影響が出てくるだろう。
とはいえそこは、国に頑張ってもらうとして……彼女が動き回っている間に、俺も仕事をこなしていた。魔族ゼガのことを説明し、話をするかどうかの確認を英傑達に行っていた。
といっても連絡のほとんどはヘレンがやっていたので俺は最終確認くらいだけど……結果としては全員が顔を出すとのこと。エーナなんかは仕事を放って大丈夫なのかと心配になったが、魔王との戦いに加わった当事者である以上、是が非でも顔を出すとのことだった。
そして当のゼガだが……俺が決めた落ち合う場所の近くに潜伏しているのが索敵魔法でわかった。魔法で観察していることは相手もわかっているはずだが、動く気配がない。俺からの情報を得るために、行動を起こさずただ待っている……あの調子だと一ヶ月どころか一年や二年くらい待っていそうな気がしてくる。
まあそこまで放置する気もないし、準備が整えばすぐに……ヘレンやクラウスは忙しそうなので大丈夫なのか不安もあったが、無理矢理にでもスケジュールを空けて話をすることにした。
具体的な日付が決まり、残る問題は魔界の動向。反魔王同盟の拠点を潰した後、騒動などは起きていない。先の戦いで敗北し退却したというのが顛末らしい。
魔王と戦った後に騒動が起き、それがようやく終わったという形だが、反魔王同盟の動きを考えると魔王との戦いから連なる騒動、というのが正解だろう。俺は戦士団を抜けて旅を始めたわけだが、結果として終わっていなかった魔族との戦いに首を突っ込み続けた形だ。当事者になったのは良いのか悪いのか……旅を通して得るものはあったし、何より魔王の真実を得た……そこについては良かった、という結論に落ち着いた。
そして最後に残った魔族ゼガとの話し合い……どういう方向に話が転ぶのかわからない。果たして何が待ち受けているのか――疑問に思いながら待ち続け、とうとう顔を合わせる日がやってきたのだった。




