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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第八章

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伝言

「私が求める情報は、魔王に関するものだ。君は魔王と戦った実績がある……しかも、得た情報を統合すると、魔王と一時でも互角に戦った」

「ほんの少しだけだ。正直、戦えたのは奇跡だと思うよ」

「それについて知りたい。可能な限り克明な情報が欲しい」

「……それを得て何になる?」

「魔王に関して、仮説であった話が真実になる」

「真実……?」


 聞き返したが、魔族ゼガは答えず語り始める。


「私達の戦いは敗北だ。完膚なきまでに……魔王侵攻から始まった一連の戦いを踏まえ、魔族の歴史的な敗北と言えるだろう」


 はっきりと告げた内容に、俺は沈黙する。


「得られるものはないと言っていいだろう……だが、その情報さえ手に入れることができれば、この敗北さえも帳消しにできる」

「それを得て、どうなるんだ?」

「人間界にとって良いのかどうか、だな? その答えは良い方向へ進む、と断言しよう」


 ……正直、どう答えていいのかわからなかった。そもそも一方的に言われて困惑している面もある。

 そうした俺の心境は相手にも伝わったらしい――魔族ゼガはなおも続けた。


「とはいえ、だ。無論のこと私を信用できないだろう……そもそも、今まで戦争をしていた相手だ。簡単に話を真実などあり得ない」

「そうだな」

「こちらが負けた以上、相応の賠償金を支払わなければならないだろう」


 賠償金? 眉をひそめた俺に対し、ゼガは懐から何か――紙束を取り出した。


「これを提供しよう」

「これは……何だ?」

「私がギリュア大臣と連絡を取り合っていた確たる証拠だ」

「……何?」

「英傑の一人であるヘレン――王族が大臣を倒すべく動いていたのはわかっている。今回の作戦、私達との戦いの裏側で行動を起こしていて、見事作戦は成功した……が、大臣を追い詰めるには一歩足りないだろう」

「なぜそこまでわかる?」


 問い返すとゼガは何の遠慮もなく話す。


「ギリュアとは長い付き合いだ。彼の性格はわかっているし、例え重要拠点であっても確たる証拠を残している可能性は低いだろう……仮にあったとしても、幾重にも対策を施しているはず。手にした情報を精査すれば英傑ヘレンもわかるはずだ」

「だがこの情報があれば……か?」

「そうだ。ただ、この資料だけでは追い詰めることはできない。君達が独力で手にした情報と組み合わせることによって真価を発揮するだろう」

「……俺から情報を得るために、資料を提供すると?」

「そうだ。とはいえ効果のほどはわからないだろう? 大臣を先に権力の座から追い落として再度交渉しようか」


 ……俺が持っている情報にどれだけ価値があるのかわからない。でも彼にしてみれば、相当価値の高いものだからこそ、交渉しているのか。


「……正直言うと、判断つかないぞ。まずはヘレンと話をしないといけないだろう」

「わかっている。それに、私と話をしたい者は他にもいるだろう? 好きなだけ英傑を連れてきてもいい」


 にこやかに語るゼガ……なんというか、超然としているな。

 仮に英傑達が集結した場合、ゼガは逃げることもできなくなるのだが……取引内容から自分は助かると確信しているのか?


「……あんたはずっとここにいるのか?」

「他に場所を指定するのであればそれでもいい」

「なら……」


 俺は場所を語る。そこでゼガは「なるほど」と小さく呟いた。


「試しているな。その場所は魔族にとってあまりに危険……であれば、来ることができるのかと」

「魔物一体でも同行していれば交渉は決裂だ。情報提供そのものも無意味になる」

「わかった、条件を飲もう」


 あっさりと……自分が滅ぼされるかもしれないというのに、まったく意に介していない。

 もはや自分の命など二の次だと言わんばかり……こういう魔族はこれまで見たことがなかった。策のためには全てをなげうつような存在であり、正直底が見えない。


 強いのは間違いないのだろう。ミリアでも知っているというのが真実なら、魔王候補であることも間違いない……俺は息を吐く。ここで悩んでいても仕方がないが、


「……図書館を出て、町を出る。そこで初めて取引をするか決める。それでどうだ?」

「いいだろう」


 これもまた承諾……俺としてはやりにくさを感じつつも、ひとまず彼と共に図書館を出ることに。


「ああ、そういえば」


 道中でゼガは声を発する。


「君に伝言がある。トールからだ」

「……何て言っていた?」

「申し訳ないが役目は果たしたから消えることにする。後は全部ゼガに任せる、と」

「彼はあんたのことを信頼しているのか?」

「信頼、とは少し違うな。私はこれだと決めたことを必ず遂行する……例え、どれだけ代償を支払っても。そういう性格を理解しているからこそ、託せると感じたのだろう」


 どれだけ不利な条件を飲んでも……か。俺は表情を変えぬまま、ゼガと共に町中を歩き続けた。


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