盟主
作戦終了後に舞い戻る形で俺達はレインダールへ再び足を踏み入れた。魔族との戦いについて情報が届いているはずだが、町の活気は先日訪れた時と何も変わっていない。
俺達はまず宿を手配した後、トールを探すことに。図書館に行ってみれば見つかるかな?
「ミリア、俺は図書館に行こうと思うけど」
「私も同行しようかしら……」
「どちらでもいいぞ。時間的に明日でもいい」
ちなみにもう昼を回っている。本格的に探すのは明日から。まあ、彼と再び会う意味合いはあまりないのだが――
「とりあえず、俺は行ってみる」
「わかったわ」
ミリアとアルザを宿において俺は図書館へと向かう。さて、入ったら俺に気付いたりしないだろうか。
図書館の周囲は相変わらず盛況であり、人通りも非常に多い。中へ入ると前と変わらない空気が俺を出迎えてくれた。
とりあえず俺達が資料漁りをしていた場所へ向かってみる……が、トールらしい存在は見受けられない。
さすがに毎日ここへ来るようなこともないか……と思いつつ俺が座っていた場所へ赴くと、そこには男性が一人。
貴族服を着た黒髪の男性であり……なんというか、こんな所にいるのが似合わないような姿であり、訝しんだのだが……さすがにじっと見るわけにもいかないので、とりあえず視線を逸らして踵を返そうとした。
しかし、
「……君がディアスか」
立ち止まる。目を向けると男性は笑みを浮かべていた。
「先に言っておくが、ここにトールは来ないぞ」
「……あんたは、彼とどういう関係だ?」
「友人、と言うべきかはわからないがそれなりに互いのことを知る間柄ではある」
魔族、ということか? 確かにじっと注視をしてみればそれらしい気配はある。
「彼はどうした?」
「彼は……消えたよ。元々死の淵に立っていたわけだが、私と顔を合わせた際に消え去った」
それはどういう――警戒を込めた視線を向けると男性は両手を挙げる。
「ここで争うつもりはない。そもそも、こんな場所で交戦すればどうなるかわかるだろう?」
――俺は杖を持っていない。とはいえ、無理矢理にでも決戦術式を行使することはできる。
それで相手を仕留めるのは難しいかもしれないが、距離を置くことはできる……俺は机を挟み対面する形で椅子に座った。
「質問していいのか?」
「ああ」
「あんたは?」
「名はゼガ=ロズオン。ミリアがいればすぐに素性は知れたはずだが、今日は同行していないようだな」
「それなりに名が通っているというわけか?」
「まあな」
……ますます警戒する。そんな様子に魔族ゼガは苦笑しつつ、
「もう一度言うが、ここで争うつもりはない。話をしに来たんだ」
「話?」
「そうだ。こちらも色々と事情があってだな……と、その前にトールのことを喋る必要はあるか」
そう前置きをすると、彼は話し始める。
「実を言うと、トールのことを私は探していた。人間界で魔王に関する情報を集めていた、ということは聞いていたからな。そして、何やら詳細をつかんでいたことも――魔王城に勤めていたからこそ、私としても接触したいと思っていた」
「けれど居場所がわからなかった?」
「そうだ。元々人間界に入り込んだ時点で死に体だったため、魔力を追うこともできなかった……が、ここで君達と交流したためなのか、ようやく魔力を捉えることができた。その結果、話をすることができた」
「……魔王の真実というのに興味があったと?」
「ああそうだ」
……このタイミングで現れた、というのはどういう意味なのか……俺は思考しつつ、一つ問い掛ける。
「あんたは、どういう立場の魔族だ?」
「核心を突いてきたな……答えよう。端的に言えば」
ゼガは俺と目を合わせ、
「反魔王同盟の盟主だ」
――さすがにそういう返答は予想していなかったので、俺は表情を固くする。とはいえ驚くことはなかった。感情を表に出した時点で警戒がわずかでも解けてしまうからだ。
「驚愕する情報のはずだが、顔つきは崩していないな」
「当然の話だろう? まあ、その話が真実かどうかわからないが……そんなことをいう時点で、少なくとも俺とあんたは明確な敵だからな」
「確かにそうだ。君は先日まで私達と戦っていたわけだからな」
「……反魔王同盟の盟主であるのなら質問だ。今回の戦いはどう思った?」
「完敗だった、と言わざるを得ないな。正直なところ、もう少し抵抗できるかと思ったが、よほど聖王国の準備が良かったのだろう。奇襲攻撃も失敗した以上、もはやこちらに手はない。レイオンを始め、幹部クラスの同盟者も消え去ったからな」
淡々と考察していくゼガ。その様子がどこか不気味であり……俺は一層警戒を強くする。
「ここを訪れたということは、俺がここに来ることはわかっていたのか?」
「君と話ができるだろうと思って、可能性が高いと判断したからな」
「なぜ、俺と話をする?」
「情報交換をしたい」
何? 眉をひそめているとゼガはさらに俺へ向け話を進めた。




