人間の勝利
そうして俺達は転戦し、次の戦場でも危なげなく勝利。そこで、レグトから目標としていた全ての拠点を攻略することに成功した、との報告が入った。
「二日間ではありましたが、無事に遂行することができました。ありがとうございます」
騎士レグトが礼を言う。俺達は砦へ戻ってきて、日も落ち始め一日が終わろうとしているのだが、
「レグト、ヘレンの方はどうなんだ?」
「先ほど連絡が来ました。夜の内に動き出すようです」
「夜か……今日中に片付ける気なのか?」
「作戦規模を考えると難しいとは思うのですが……ただ、深夜の戦いで何か思いついたようで、もしかすると……」
何か、か。非常に危ない戦いではあったが、その逆境で何か思いついたのか。
そちらの作戦に参加するのかは不明だが、もし請われたら受けるつもりではいる……とはいえ、さすがに連戦に次ぐ連戦であるため疲労はある。ちゃんと睡眠はとれているが、休憩もあまりとっていない中での作戦行動だったので、もしヘレンに作戦に参加してくれと言われても満足なパフォーマンスがとれるかどうかは不透明だ。
「ヘレンとしても表向きの作戦に従事してくれている俺達を動員するって考えはないんだろうけど」
おそらく今回の戦いで俺達の出番は終了……レグトから砦で休むよう言い渡され、俺は一度部屋へと戻る。
魔族の動向も観察しなければならないため、ひとまず当面の間は砦の中で過ごすことになるだろう……ヘレンの作戦が終わるまではここに居座ることになりそうかな?
そういえばセリーナやシュウラ達はどうしているのだろうか……と、ふいにノックの音。返事と共に扉を開けるとニックが立っていた。
「食堂でも行こうぜ」
「話でもするのか?」
「ああ。ちょっとばかり情報の整理をしたい」
俺は頷き承諾。食堂へ赴き茶でも飲みながら話をする。
「ヘレンは夜に動くらしいな」
「昼間はずっと準備をしていたんだろうな……魔族側との戦いに勝利し、その情報が今は魔法で王都にも伝わっているだろう。ギリュア大臣としてはどうするか」
「大臣からしてみれば望んだ展開ではない、ってことだよな?」
「正直、どちらでも良かったとは思う。人間側が圧勝した形だけど、こうなればギリュア大臣としては反魔王同盟を見捨てる形になるだろう」
俺の言葉にニックも「そうだな」と同意を示す。
「ただ、魔族が報復してこないか?」
「大臣を、か? その可能性は低いと思う……魔族側としても、大臣の持つ情報などは非常に価値が高いし、ここで縁を切るよりは繋いでおく方が得だろうと考えるだろう」
「ということは……どういうやりとりが行われる?」
「魔族側が負けた以上、反魔王同盟がギリュア大臣と交渉して、今後も協力してもらうよう要請する形かな」
「人間が魔族を手玉に取るか」
「そうだな……最初、どちらから話を持ちかけたかはわからないが、まあ対等の関係くらいで情報のやりとりはしていただろう。けれど、相次ぐ失敗に反魔王同盟としてはまずいと考えているのは間違いない……下手すると残った戦力で最後のあがきくらいは見せるかもしれない」
「だからこそ、俺達はここに残るわけだろ」
ニックの言葉に俺は頷く……とはいえ、
「大臣が魔族とコンタクトを取っているのなら、ここは止めさせるだろうな」
「戦力を残しておけと?」
「いや、これ以上やったらどこかでボロが出る……つまり、大臣と魔族に繋がりがあることが何かしらの形で露呈してしまうかもしれない」
「ああ確かに、そこは警戒するか」
「だからまあ、騎士は魔族の拠点を色々調べ回るだろうけど、何も出てこないと思う……この作戦が始まる前の段階で資料なんかは処分しているだろうからな」
「……大臣はこの作戦について魔族に情報は流していたんだよな?」
「そこは間違いないと思うぞ。ただ、見立てが甘かったかそれとも最初から夜襲による攻撃でひっくり返そうとしたか……どちらにせよ、拠点にいた魔族のことを考えると最初から正攻法で勝とうとは思っていなかっただろうな」
ヘレンの作戦が始まる前の時点で、おおよそ覆せない形勢は作っていたのだろう。そもそもヘレンはギリュア大臣と反魔王同盟が繋がっていることはわかっているから、情報が流れることを前提に作戦を組み立てているはずで。
「表向きの戦いは俺達の大勝利、でいい。問題は今から始まるヘレンの作戦だ」
「俺達に泣きついてくるかな?」
「どうだろうな。ただ俺達が作戦に参加し戦い続けていることはわかっているから、やらないと思うな。もし頼むとしたらセリーナとか」
「ああ、そっちの方がありそうだな」
「今彼女がどうしているのかわからないけど……ヘレンがもしもに備えて作戦開始地点の近くに配置しているかもしれない。結果がわかるのは明日になるだろうから、俺達は作戦成功を祈って休むことにしようじゃないか――」




